試合巧者であり続ける 「日々勝負」と「データ主義」 広島新庄(広島)【後編】
センバツ1勝の広陵、センバツ出場でシード権も得ている市立呉。春の県大会Vで名門復活の胎動を示した広島商に、新監督が就任しシード権を獲得した如水館と崇徳。さらに春県大会ベスト4の広に、8強入りでシード権獲得の広島井口、尾道商、市立沼田に最速152キロ右腕の谷岡颯太(3年)を擁する武田など、7月12日(金)の開幕を前に混戦模様に拍車がかかる「第101回全国高等学校野球選手権広島大会」。その中でこの試合巧者も優勝候補にあげられる。
2015・2016年には左腕・堀瑞輝(北海道日本ハムファイターズ)を擁し夏の甲子園連続出場を果たし、昨年も大会決勝戦進出を果たしている広島新庄。1979年・三菱重工広島監督として都市対抗優勝。広島商監督でも2002年春・2004年夏に甲子園に導いた名将・迫田 守昭監督の下、彼らは2014年春を皮切りとする通算4度目の甲子園出場を虎視眈々と狙っている。
では、そんな広島新庄が「試合巧者」たりえる理由はどこにあるのか?後編の今回は、具体的に迫田監督が「勝負の世界」的練習法を採り入れている理由に迫っていく。
◆名将が醸し出す「すべて勝負」の全体練習 広島新庄(広島)【前編】
すべてを「試合想定」から組み立てる全体練習
1ヶ所バッティングを終えた投手にアドバイスを与える広島新庄・迫田 守昭監督
「1か所バッティングは主に投手のためにやっているんです。自分のチームの打者は軌道が解っているので普通は打てるんですが、そこを強豪校の強打者に見立てて、不利な状況からどんなタイプの打者に対してどこに投げられるか。どのように投げられるかを僕は見ています。
だからウチのチームは投球練習はほとんどやりません。週1~2回肩を休める日を除いては1か所バッティングで毎回40球前後。そして練習試合で完投させたりして投げ込みに変える。そこで後ろを見ていると試合に通用する変化球も解るんですよ」
迫田監督が自ら審判役を買う理由はここにあったのだ。では「投手中心で作戦は考えている」投手の実力判断基準とは?
「まず見るのは球速よりキレと伸び。そして制球力。1か所バッティングで見れば『この相手であればこれくらいで抑えられるな』と解るんです。
コントロールの話で言えば、山岡は入学時に115キロだったんですが、制球力が抜群だった。それでもどんどん投げさせたら身体の力が付いて球速も上がったんです」初速だけでなく、終速も全球計測するのもこのためだ。
実は選手側にとってもこの練習法は自らをの状態を知る上で格好の指針となる。1年秋からエースを務める桑田孝志郎(3年)はこのように「勝負の練習」を活用している。
広島新庄のバッテリー・木村 優介(3年・捕手・左)と桑田 孝志郎(3年・投手・右)
「球速は1週間の中で自分がどんな状態にあるかを知る基準にしています。たとえば、火・水の時点で球速が出ていなかったらショートダッシュを追加して体にキレを出す。また、フリーバッティングの1球勝負も少ない球数で打ち取るための練習。この練習法を利用して試合に活かす。自分に取っては非常に役に立っていますね」
打者・守備側もしかり。女房役かつ4番を張る木村優介(3年)はこう話す。
「打者の側から見ればこの練習は『1球で仕留める』。捕手視点から見れば決め球を使うリードの部分で活かされています」。緊張感を強いられる公式戦でも慌てない練習からの「気持ちよく打たせない」全体練習。これが広島新庄、強さの原動力となっている。
加えてもう1つ、広島新庄が重要視している事項がある。それは「トレーニング数値」だ。
関連記事はこちらから
◆第101回 全国高等学校野球選手権 広島大会
◆【戦歴データ】広島新庄の戦いぶりは?!
◆広陵、広島新庄の2軸が中心!如水館、市立呉は躍進なるか?【広島大会展望】
徹底した数字管理、そして守備の反復で甲子園へ
ランナーコーチも付け試合さながらに行う広島新庄の1ヶ所バッティング
「実はウチは週2~3回は1時間で全体練習を切り上げて雨天練習場で2~3時間のトレーニングをしているんです。そして月1回は計測をします。ほら、これを見てください」
迫田監督が門外不出のノートを開いた。もちろん、夏を前にして具体的なことをここで書くことはできないが、そこには腕力・背筋力・柔軟性など40種目ほどの体力的数値が並んでいた。「柔軟性をもって身体を強くすれば打つ・投げる・走る強度が上がる。数字は正直ですから、ここで向上していなければ本気でトレーニングをやっていないことが解る。だからトレーニングを怠っている選手は徹底的に怒りますし、レギュラーにはなれない。もちろん、この数値はレギュラーやメンバーを入れる上での参考にしています」
「野球部男子が全寮制のウチは20時が食事時間。ですから練習時間も3時間程度。その中で確率を高めるために効率を高めていく」確固たる指針の中で行われる広島新庄の練習。これだけ明確に数字で示されれば選手たちも納得せざるを得ない。
シートノックで繰り返し行われる併殺練習
そして広島新庄野球の根幹を為す守備の反復も忘れない。どんなに時間がなくても個人ノックは30分程度設け、その中で10分間は併殺の練習を繰り返す。その際、与えられる課題は1つだけだ。「形は何でもいいからアウトにすればいい」。よってバックトス・グラブトスもOK。「毎日やっていますからウチの選手はうまいですよ」。確かに二遊間を中心に様々なパターンで併殺を取る様は、まるでNPBを見ているかのようだった。
その半面、雨天練習場で140~150キロを打つマシン打撃練習も必ず1時間程度設定し、個人スキル向上にも余念がない広島新庄。そして迫田監督は最後にこう言って笑う。「こんな練習をしている私学はないと思いますよ。でも、能力が他より劣るチームが甲子園に行くため、勝つ確率を高めるためにはこの練習が一番なんです」
チームの大目標は3年ぶり、そして「101回大会に部員101名で」甲子園。桑田・木村もそろって誓う「みんなで甲子園に行く」ために、広島新庄はまずは黒瀬と賀茂北の勝者と対戦する初戦、そして如水館、尾道商などが待ち受けるベスト8、市立沼田、武田、広が争う準決勝の壁を越え、広陵・崇徳・市立呉、広島商らの勝者と対戦が予想される[stadium]マツダスタジアム[/stadium]での決勝戦へ向け、「試合巧者」の精度を右上がりに高めていく。
(取材・寺下友徳)
関連記事はこちらから
◆「究極の技巧派」志し 広島新庄「右エース初甲子園」へ 桑田 孝志郎(広島新庄)
◆悔しい思い断ち切り 「みんなで」甲子園を獲る 木村優介(広島新庄)
◆第101回 全国高等学校野球選手権 広島大会
◆【戦歴データ】広島新庄の戦いぶりは?!
◆広陵、広島新庄の2軸が中心!如水館、市立呉は躍進なるか?【広島大会展望】