「四国発」的、NPB一軍公式戦レポートから見えた野球の深みと野球観を養う場の必要性
2007年2月に首都圏から居を四国地区に移し13年目。「さすらいの四国探題」の異名を背に四国球界でのホットな話題や、文化的お話、さらに風光明媚な写真なども交え、四国の「今」をお伝えしている寺下友徳氏のコラム「四国発」。
第42回では2019年唯一、かつ「平成最後の」NPB一軍公式戦として4月16日(火)に愛媛県松山市の[stadium]坊っちゃんスタジアム[/stadium]で開催された「東京ヤクルトスワローズvs阪神タイガース・第4回戦」を「四国発」的にレポートします。
平成最後の四国内NPB一軍公式戦で見えた「野球の深み」
平成最後の四国内NPB一軍公式戦となった東京ヤクルトスワローズvs阪神タイガースが行われた坊っちゃんスタジアム
現在、四国内で唯一NPB一軍公式戦が開催可能な愛媛県松山市の[stadium]坊っちゃんスタジアム[/stadium]。この球場では毎年、秋季キャンプを張る東京ヤクルトスワローズの主催試合が開催される他、過去には2度のオールスターゲーム(2002・2012年)も開催されるなど四国野球ファンのメッカとしてその名を広く知られています。
ただ、今季のNPB一軍公式戦は2000年の開設以来初となる4月16日(火)東京ヤクルトスワローズvs阪神タイガース第4回戦の1試合のみ。しかも「平成最後」。ということで、この数年間は高校野球取材等と重なりなかなか足を運ぶ機会がなかった私も今回は取材に赴くことにしました。
試合結果は皆さんニュース等でご存知の通りホームラン3発が飛び交う中、1回の激しい攻防を「思い切ってバットを振った」7番・村上 宗隆一塁手の右中間4号3ランで打開した東京ヤクルトスワローズが「松山のファンの皆さんの前で何としても勝ちたいと思っていた」原 樹理投手の完投勝利により9対5で制し小川監督の通算400勝に花を添えたわけですが(いや、噂には聞いてきましたが村上選手のスイングスピードとフォロースルーの美しさは素晴らしかったです)、その他にも「野球の深み」が随所に見えました。
最も象徴的だったのが7対2・東京ヤクルトスワローズリードでの4回表二死一・二塁で阪神タイガースの1番・近本 光司中堅手を迎えた場面での原 樹理・中村 悠平バッテリーの配球です。
2ボール2ストライクから彼らは前打席で三振に打ち取った外角ストレートを選択。ただ、これに近本選手は気迫を見せ、再三のファウルで対抗。すると10球目・バッテリーが見せたのはこれまで1球しか使っていなかったカーブ。全く予測を外された近本選手のバットが空を切った瞬間、試合の趨勢はほぼ決まったといえるのではないでしょうか。
もっと「野球観を養う場」が四国には必要不可欠
東京ヤクルトスワローズ得点のたびに傘の花が咲いた坊っちゃんスタジアム一塁側スタンド
かくして4月火曜日のナイターにもかかわらず19,424人が詰め掛けた平成最後の四国NPB一軍公式戦は大盛況のうちに幕を閉じたわけですが、3時間5分の試合を終えて改めて私が感じたのは「野球観を養うにはトップレベルの試合提供が不可欠」ということです。
私が記したような配球の妙はダイジェスト映像では決して解らないことですし、試合前に選手たちがどんな意識で練習を行っているかもライブでないと感じられないことです。
一例を上げれば9回にライトポール直撃の2号2ランを放った阪神タイガース・中谷 将大左翼手は試合前のフリーバッティング直前までゴムチューブを使って身体の開きを抑えたトレーニングをしていたことが結果につながりましたし、アップの方法1つ取ってもアマチュア野球に応用できるものが数限りなくありました。
そんな機会が「年間1試合だけ」というのは残念というしかありません。アマチュア野球の開催も数多くある坊っちゃんスタジアムで多くのNPB一軍公式戦を開催するのは困難なのは重々承知していますが、例えば来年NPBが中断する東京五輪期間中のショートキャンプ、練習試合開催地として場所を提供する。
ないしは東京五輪後に秩父宮ラグビー場との交換移転が決定している明治神宮野球場の代替開催地として立候補するなど、「これからの」選手たちに野球観を養う場を提供する方法はまだあるはずです。
平成の終わりまであと2週間となった4月16日22時過ぎ。もう観客のいない坊っちゃんスタジアムのスタンドを前にして、関係者の皆さんが当然、そんな動きを水面下でされていることを祈りつつ、私もその一助になれることを考え、実行していきたいと思います。
(文・寺下 友徳)