選手同士の歯車を噛み合わせて初の聖地へ突き進む! 浦和実業(埼玉)【後編】
前編では浦和実業が新チーム発足時から取り組んできた打撃強化について迫った。後編では秋季県大会での戦いを通じて得られた課題、そして春への意気込みに迫った。
考えながら強く振れ!1日1000スイングで埼玉ビッグ4を打ち崩す! 浦和実業(埼玉)【前編】
緊張とした初戦と計算外だった準決勝
ノックを受ける水谷優希選手
こうして迎えた秋季大会。南部地区予選は危なげなく勝ち上がったものの、埼玉大会の初戦となった慶応志木戦(試合レポート)は「本大会の最初の試合だったので緊張した」(竹内琉生主将)ということもあり苦戦。延長12回まで試合はもつれたが6対5でなんとかサヨナラ勝ちした。
「大会前に雨が続いた影響で満足に練習ができなかったこともあり、豆田泰士の調子が良くなくて序盤にKOされてしましました。終盤もピンチが多く、一死三塁からライトフライを打たれたのですが右翼手・水谷優希のストライク返球でタッチアウトになったり、大飛球がホームランにならずにフェンス直撃で助かったりと、何度も負けたと思ったほどの試合でした」(辻川正彦総監督)。
ただ、この一戦を乗り切ったことで、その後は順調に勝ち星を重ねっていった。2回戦の熊谷商戦は「ウチらしいゲームができた」(辻川総監督)とロースコアの接戦を制して3対1。3回戦の武蔵越生戦は長谷川 俊大がホームランを含む3本の長打を放つなど大当たり。投げては豆田、三田隼輔の完封リレーで5対0と完勝し、準々決勝では再び埼玉栄と相まみえることとなった。(試合レポート)
「新人戦で勝っているだけに、負けられないという気持ちが強かった」(辻川総監督)という一戦は1対1の同点で終盤の8回へ。ここで打撃不調にあえいでいた4番の竹内主将が2ランホームランを放つと、その後の反撃を1点に抑え、3対2で因縁の相手を返り討ち。
体幹トレーニング中!
殊勲の竹内主将は「それまでずっと打てなくて苦しかったが、チームメートから『切り替えていこう』と声をかけられて、土居(健太)監督からも『お前なら打てるから、自信を持って強く振っていけ』と言われていました。そのおかげで、あの打席では自分のスイングができてホームランを打てたのだと思います」と感謝の言葉を述べている。
そして、目標に掲げていた関東大会出場が懸かる準決勝は春日部共栄と対戦。先発した豆田は5回を投げて被安打2と好投したが、「試合前から豆田は5回までと決めていました。もちろん続投させることも考えましたが『欲をかいてはいけない』と思い、6回からは予定通りに三田へスイッチしたんです」(辻川総監督)。
しかし、ここで誤算が生じてしまう。久野遥都が故障で投げられなかったため、負担が大きくなっていた三田の疲労の色が隠せなくなっていったのだ。
「三田本人やキャッチャーの竹内に状態を確認して『張りはあるが、痛みはない』ということだったのですが、登板時、140キロ近かった球速が8回になってガクンと落ちて120キロ台になってしまったんです」。
最低でもベスト4に入り、シードを奪取する!
背中もトレーニング中!
それでも無失点で踏ん張っていた三田だったが、互いにゼロ行進のまま試合は延長戦へ。
「展開としてはウチのほうがヒットも出ていて押していたのですが、ランナーが得点圏に行くと相手投手の村田賢一君のエンジンが掛かってくる感じで、どうしても得点が奪えなかったんです」。
そして、延長12回、この試合で7イニング目のマウンドに立った三田だったが遂に力尽き、0対1で無念のサヨナラ負け。悔しい敗戦に辻川総監督は「結局は『力がない』ということ」と断じたが、それでも秋季大会全体を振り返って「守れるようにはなった」と収穫を挙げた。竹内主将も「投手陣は完成度が高く、頼りがいがあった。自分も豆田と三田の一番、良いボールであるストレートを活かしたリードができた」と手応えを語っている。
翻って、課題として残ったのはバッティングだ。
「春日部共栄の打者とはスイングの速さが全然、違いました。体もウチはまだまだ細いので、この冬は例年よりもウエイトトレーニングを多くやって、食事もたくさん食べるようにさせています」と、辻川総監督。
また、このオフシーズン中に千葉の岩井海岸で4日間の合宿を敢行。
「毎日15kmのランニングをして、4日間の合計で60kmを走って体を鍛えてきました。それから朝、昼、夜の3回、スイング練習の時間をとって、1000スイングを目標に振ってきたのですが、そのおかげでフリーバッティングではみんな飛距離が出るようになって、オーバーフェンスの打球も増えています」と、竹内主将。
左から長谷川俊大選手、三田隼輔投手、竹内琉生主将、水谷優希選手
さらに「冬は個人のレベルアップがテーマですが、今年はさらにチームの連係を高め、もう一度、各自の役割を思い出して春を迎えたいです」と抱負を語った。
一方、辻川総監督は「今はとにかくボールに触れておくこと。春になったら選手も本気になってくると思うので、そこでもう一度、鍛え直していきたい」と話し、投手陣に対しては「四球を減らすことと、右打者にも左打者にもインコースを投げ切ることを課題にして調子を上げていってほしい。ビッグ4が相手となると簡単には得点が取れないので、相手に点を与えない野球をしなければいけませんから」と大きな期待をかけている。
そして、「春の目標は埼玉大会で4強。達成できれば春季関東大会に出場できますし、夏の埼玉大会の組み合わせで四つ角に入れるので、最低でもベスト4に入りたい」と新たな目標を掲げた。
これまで何度も「甲子園まで、あと一歩」のところに迫りながらも、手が届いていない聖地へ。悲願の初出場に向けて、浦和実業は本気になって夏へ向かう。
(文・大平 明)