チームの基盤を作り上げた特別な4年間 検見川高校 野球部訪問 vol.1
千葉ロッテマリーンズの本拠地・ZOZOマリンスタジアムの近く、千葉市美浜区に学校を構える千葉県立検見川高校。千葉県内では進学校として有名な学校であるが、野球部は2017年の春と夏の大会でベスト4にまで勝ち上がった実力校でもある。
戦国千葉で勉強も野球も結果を残す彼らは何を考え、どんな指導を受けているのか。強さの秘密を探るために、練習中の監督や選手を直撃した。
努力の質が違う
キャッチボール中の選手たち
現在、39人が所属する野球部を率いるのは、就任3年目を迎える酒井光雄監督である。
酒井監督は、母校・市立船橋で教員生活をはじめ、その後は千葉県富里市にある特別支援学校で4年間勤務。2016年から検見川高校へ異動となり、同年秋から監督としてチームを率いている。
特別支援学校での4年間、酒井監督は一度、高校野球の現場から離れることとなった。だが、そこでの4年間は酒井監督にとって非常に大事な基盤を作り上げることになった。
「選手たちは健常者なので生き方という部分は違うんですけれども、特別支援学校の子どもたちは障害を抱えていても、普通の人にはできないことができるんです。それは、自分自身ができなくても努力をするということ。自分ができないことは努力をして克服しようとするんです。」
障害のせいで普段の生活でつまずくことがないようにするために、どのように生きなければいけないのか。特に知的障害を抱える子どもたちは、そう考えて生きていた。そういったところは選手たちにはない生き方だと酒井監督は感じた。
そんな子どもたちを見てきたからこそ、酒井監督は「選手たちは甘えすぎ」だとあえて厳しく言う。
「選手たちは今、普通に生きて呼吸をすることができますが、特別支援学校の子どもたちの中には呼吸することが難しい子どももいました。
また、知的障害があるけども、障害者雇用での一般企業就職を目指している子どももいました。だけれど、学習障害があるから勉強が苦手なんですよ。でもそれを見せないために死に物狂いで努力をして、社会に出て行こうと考えて生きている。そんな子どもたちばかりでしたので、選手たちよりも何十倍も努力をしています。」
今ある環境を当たり前だと思うな
ロングティーで打撃強化中!
酒井監督は選手たちに対してさらに厳しい指摘をする。
「親に育ててもらって、お金を出してもらっている。それで野球もできて食事ができる。最高の生活なんです。
特別支援学校時代、僕のクラスには、親がいるけど運動会の時には参加してもらえない子どももいました。なかには弁当も作ってもらえず、コンビニで買ってくる子どももいました。
でも周りの友達は弁当を作ってもらっているので、担任としてそういう子に辛い思いをさせたくなかった。なので、その子が買ってきたコンビニの弁当と自分が作ってきた弁当を交換して、親の代わりに一緒に食べていましたね 。」
特別支援学校での指導を通じて、人との関わりは結局人が判断するものだからこそ、人間の複雑さを痛感した。そんな酒井監督から、今度はこんなエピソードが出てきた。
「小学校3年生から高校1年生まで、1日も学校に行ったことがない子どもがクラスにいたんです。その子が今まで学校に行けなかったのは精神の問題で、それを理由に障害者手帳を発行することになりました。でも、その子だって今は普通に働いています 。1人暮らしをして、車の免許だって持っています。
だから、世の中わからないですよね。でも確かなのは、親御さんがお金を出してくれて、普通に呼吸できているから君たちは甘えている。中にはそういうことができない人がいると。自分の生活が当たり前だと思うな」という話を選手たちにするそうだ。
小見山 颯生主将
酒井監督からの話について、副主将の首藤広一選手は、
「ミーティングで『障害を持っている人が必死に努力しているのに、きみたちはそういう努力をしているのか』ということを監督に聞かれて、自分達はそれに対して何も答えることができなかった。そういった人たちより(身体的に)できることは多いハズなのに、今の努力の段階では全然レベルが違う」と話す。
さらに、酒井監督から信頼されて検見川高校野球部をまとめる主将、小見山颯生選手は、
「自分が感じている辛さというのは、そういう人達以上のものなのかと考えた時に、そうじゃないと。もっと辛い状況でも、努力して社会に出て、普通の人と同じように働けている話を聞いて、自分が思っている辛さというのはまだまだそういう人たちと比べると全く辛くない。」とプラスに捉えることにも繋がっていた。
vol.1はここまで。vol.2では特別支援学校時代の考えを高校野球にどのような形で活かしていったのか。その取り組みについて迫っていきます。vol.2もお楽しみに!
(文・編集部)