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主体性を持て!揺るがない根拠と自信を築き上げる日大桜丘!

2018.11.24

 85メートル×55メートルの人工芝の校庭、そしてテニスコート3面の練習場所。これが、日大桜丘野球部が平日の練習で使っているグラウンドである。

 今夏はベスト32まで勝ち進んだものの、今秋はブロック予選の決勝で安田学園に6対10で敗れた。現在は来春のブロック予選に向けて練習に励む彼らの練習の様子を取材した。

強くなるために捨てたトップダウン方式

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日大桜丘野球部・佐伯雄一監督

 日大桜丘の練習を見ていると、指導者から選手たちへあまり指示を出さない。選手に声をかけるときは、練習メニューの伝達や練習方法が間違っていた時だった。

 だから選手が中心となって終始練習を進めていく、時には練習を止めて話し合いをするために集まっている様子が見受けられた。

 指導者は見守るだけ。一見すると練習が疎かになりがちと思われるが、日大桜丘の選手は選手同士で声を掛け合っていた。それも厳しい指摘が飛び交う。グラウンドには緊迫した空気が流れていた。
 忘れてはならないのが、監督の指示によってできた空気ではなく、選手が主体的に動いたことでできた空気であるということだ。この選手が主体的に動く日大桜丘オリジナルのスタイルとも言える練習方法は、監督の佐伯雄一氏が目指していた形である。

 佐伯監督は高校時代、日大桜丘で日々練習に励んでいた。高校卒業後は母校のコーチを務めながら大学生活を送り、就職の際に当時の監督から「監督をやってみないか」と誘われ、非常勤講師として日大桜丘に就職。1年目から監督に就任して、現在は教師として監督を務めるという経歴の持ち主だ。

 大学卒業後から高校野球の監督となった佐伯氏は、まさにゼロからのスタート。最初は自分独自の方法で選手たちへ指導にあたった。だが、佐伯監督にはある疑問があった。
 「強豪校はなぜ強豪校となっているのか」
 この純粋な疑問を解決すべく、佐伯監督は土日祝日には明治神宮大会に出場した桐蔭学園などの強豪校に練習試合を申し込み、自らの目でその理由を確かめに行く。そうして選手への指導方法の引き出しを増やしていった。

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練習中の様子

 そうやって多くの強豪との練習試合をこなしていき、ノウハウを吸収した佐伯監督。そのおかげもあってか、当時は東東京にいた日大桜丘は夏の大会で2年に1度4回戦、つまりベスト32まで勝ち進むことはできたと語る。
 しかしどうしてもそれ以上の結果、つまりはベスト16に勝ち進むことができない。一体どうしてなのか、佐伯監督が考えた先に出た答えが、トップダウン方式になっているチームの現状だった。

 トップダウンとは上から下に指示を出すこと。つまりは監督からの指示を聞いてから選手が動く。これ自体はよくあるチームの形だと思われるが、ここに問題があると判断した。
 そう判断したのは、「ボールを振る、振らない。ポジショニングをどうする、などは選手が試合の中で判断をするもの。ですがそういった判断を練習でしていない。監督主体でやりすぎている」からだ。

[page_break選手主体の練習と委員会制度]

選手主体の練習と委員会制度

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佐藤匠主将

 だからこそ、日大桜丘というチームは選手が主体的に練習をする。佐伯監督から練習を提示してもらい、その中で選手がどうやるのか。その判断を選手に委ねることで試合でも判断をできるようにした。

 その象徴的な練習の1つとしてノックの話を持ち出した。
 「ノックでは選手を前後左右に振らずに、一か所にしか打たないようにしています。そうすることで選手がやりたい練習を考えて選択。そのうえで立ち位置を変えるなどの行動を起こさせるようにしています。」

 主体性を中心にした練習方法に導入当初は選手間に戸惑いがあったが、自分たちで決めることが増えたことで、責任が増した。その結果、自分たちで練習を回すようになり、朝練も積極的にやるようになった。

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左から山本翔一郎、宮﨑篤郎、太田陽也

 この取り組みが実を結び、2014年に舞台が変わって西東京大会でベスト16進出。ついにベスト32の壁を打ち破ることができた。そしてさらには1年後の2015年の秋には都大会でベスト16進出。春の都大会のシード権を獲得することができた。

 選手の主体性を尊重した練習スタイルを採用して結果を残した日大桜丘。主体性こそがこのチームにおける柱であることはもう言うまでもないが、この精神を育む制度が日大桜丘にはある。それが「委員会制度」である。

 委員会を大まかに見ると、技術面を統括する技術戦略委員会と、生活面を統括する運営向上委員会の2つの部署に分かれる。
 その2つをさらに詳しく見ると、技術戦略委員会にはバッテリーや打撃、守備班が存在する。そして運営向上委員会には、用具管理やグラウンド設備管理、環境美化などが存在しており、それらとは別に主将と2人副将からなる幹部グループとマネージャー5人によるマネジメントグループの計4つの部署が存在する委員会制度。この制度は神奈川の強豪・向上のスタイルを参考したものだと佐伯監督は語る。

[page_breakどんな練習にも価値を見出し、崩れることのない確かな根拠を築き上げる]

どんな練習にも価値を見出し、崩れることのない確かな根拠を築き上げる

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選手によるミーティングの様子

 「2012年の夏に都立雪谷に4回戦で敗れたことがキッカケで導入をしました」という委員会制度によって、選手一人一人に役割を与えた。こうすることで選手それぞれに責任が生まれ、主体的に動くようになった。

 その結果が、都立雪谷戦で当時1年生だった選手たちが2年後、3年生となった最後の夏となる2014年のベスト16進出。3年間委員会制度をやり通した選手たちが結果を残した。そしてその結果を見た2014年に1年生だった選手たちが、1年後の2015年の秋に都大会ベスト16。このように着実に結果を残し続けたキッカケとなる、都立雪谷戦が日大桜丘の今の土台になったと、佐伯監督は口にした。

 委員会制度によって加速する主体性。実際にこの練習方法は現役の選手たちはどう思っているのか、主将での佐藤匠は「選手たちに考えさせてもらっているので、考える力はついてきました」と、落ち着いた雰囲気で話してくれた。
 さらに「試合でも委員会のリーダーが意見を出し合う。主将だけではなく、そういった人たちがチームをまとめられている」と、全員で試合に入れていることを明かしてくれた。

 こうした意見は他の選手からも聞こえてきた。
 秋は1番センターで試合に出場した太田陽也からは、「委員会があるおかげで、選手がどんどん動いていけています。試合にもいいムードで入れています」とハッキリとした口調で話をくれた

 また旧チームからベンチに入り、公式戦もマウンドに上がっていたエースの宮﨑篤郎は委員会制度について、
「中学にはなかったので、初めて聞いた時は全然わからなかったです。ですが、(委員会が)あれば義務感があるので試合を責任持って見ますし、プレーもします。このチームには欠かせないです」と役割を与えられるからこそ、自分でやろうとする主体性が育まれている様子がうかがえる。

 そして1年生ながら4番に座る山本翔一郎は、「打撃班にいるのですが、班があることで自分が担当する班のことを考えることができます」と、打撃に集中ができるメリットを少し緊迫した面持ちで話してくれた。

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日大桜丘野球部

 今夏は西東京大会でベスト32まで進出するものの、今秋はブロック予選の決勝で安田学園に敗れ、春はブロック予選からのスタートとなった。オフに向けての課題を聞くと、佐藤主将は「自分たちの自滅が多かった」と話す。するとエース・宮﨑と山本も同じことを口にする。そのためにも、「確実にアウトにできる、最少失点に抑える守備」が今後は必要だと選手たちは感じていた。

 一方の佐伯監督は「本戦まで進めなかったのは力が足りなかったといわれています。ですので、夏と秋の悔しさや力に変えて全体のパワーアップに繋げたい」と、守備だけではなく、打撃も含めた全体のレベルアップの必要性を真っすぐで力強い眼差しで語ってくれた。

 そのためにもカギを握るのが委員会だと続けて語る。
 「委員会が機能すれば組織力、野球の技術以外にも自信を持てる。技術ばかりに目を向けると、どうしても大会前に不調に陥ると不安になると思うんです。」
 だからこそ技術以外に自信を持たせるために朝練や委員会などの行動で自信を持つこと。最後困ったときは、そこの積み重ねだと佐伯監督は考える。

 この冬にそういった根拠を作って、自分たちで立て直す、崩れないものをできるといいと思う佐伯監督。話を聞いていく中で印象的な言葉があった。
 「どんな練習に対しても価値を作り出すのと、そうでないでは効果が違う。どの練習にも価値は元々ある、全部意味はあると思うんです。それを見つけられるかの問題です。」

 その価値を見出すことにも主体性が必要だと佐伯監督は笑顔で語った。佐伯監督の印象は向上心溢れる野球が大好きな監督。取材後には、「どこか面白い取り組みをしているチームはありますか」と逆質問を受けてしまった。しかしそれはチームを勝たせる、という役割を佐伯監督が担っているからこそ、主体的になって新たな知識を取り入れようとしているのだろう。

 来春、日大桜丘がどのような姿に生まれ変わってシーズンを迎えるのか。彼らの成長が楽しみである。

(文・写真=編集部

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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