試合レポート

上尾vs昌平

2018.07.23

古豪・上尾、多少の幸運も味方につけ10年ぶりの決勝進出

 

 10年ぶりに夏ベスト4進出のBシード古豪・上尾と、夏は初のベスト4進出で勢いに乗る昌平との一戦、上尾木村歩夢(3年)、昌平米山魁乙(2年)と両エースが安定しており、打線も両チーム共に活発、実力的に見ても互角であり終盤まで競った展開になるかと思われた。だが、試合は一つのアクシデントやミスから意外な展開となった。

 

 先発は前述、上尾・木村、昌平・米山が登板したこの試合、まず上尾が久々に勝ち上がってきたこともあり、会場は上尾のホームのような雰囲気になるかと思われたが、昌平が学校を挙げて全校応援に近い形をとったため、意外にも昌平の応援の圧が強い雰囲気で試合が始まる。

 

 序盤はその応援に後押しされたか昌平ペースで試合が進む。まず初回、昌平・米山が好打者・小川竜太朗(3年)を打ち取るなど無難な立ち上がりを見せたのに対し、上尾・木村は立ち上がり昌平打線に攻め込まれる。

 

 一死から2番・千田泰智(1年)がセカンドへの内野安打を放ち出塁すると、続く佐々木涼太(3年)の所で一走・千田はすかさず二盗を試みる。これが相手キャッチャーの悪送球を誘い千田は一気に三進し一死三塁とする。ここで、佐々木がきっちりと犠飛を放ち昌平が幸先良く1点を先制する。

 

 2回裏もピリッとしない木村に対し、昌平はこの回先頭の吉野哲平(1年)がライト前ヒット放つが、続く谷口颯(3年)がセカンドゴロ併殺に倒れてしまう。それでも7番・廣田龍一(3年)が死球で出塁し再度チャンスメイクを試みるが、続く塚田勇気(3年)の所で今度はサインミスが発生し、一走・廣田のスタートが中途半端な形となり挟殺プレーで刺され無得点に終わる。

 

 相手の拙い攻めに助けられた上尾は3回表反撃に転ずる。この回先頭の小林陸人(2年)がファーストゴロエラーで出塁すると、続く内山龍我(3年)の所で上尾ベンチは強攻を指示する。打球はボテボテであったが、高いバウンドが幸いしファーストへの内野安打となり無死一、二塁とチャンスが広がる。ここで1番・小川がきっちりと犠打を決め一死二、三塁とすると、続く原勇輝(3年)が四球を選び一死満塁とする。二死後、4番・村上達哉(3年)が押し出しの四球を選び同点とするが、後続が三振に倒れ同点止まりでこの回の攻撃を終える。

 

 そして1対1迎えた3回裏、勝敗を左右する大きなアクシデントが起こる。


 

 昌平はこの回先頭の塚田がレフト前ヒットを放ち出塁すると、昌平ベンチは前の回の事もあり、当然続く米山に犠打の指示を送る。だが、米山への2球目、上尾・木村は簡単にバントさせまいと内角高めに厳しいボールを投げるが、これに対し米山も一旦バントをしに行ってからバットを引いたため、バットを引くのが遅く左手に直撃する(判定はファール)。米山の治療のため試合は一旦中断するが、復帰は叶わずここで降板を余儀なくされる。結局、代打で出てきた長谷川康太(3年)が三振に倒れると、続く比嘉蓮(3年)の所でベンチは一走・塚田に盗塁のサインを出すがこれも失敗に終わる。後続も倒れた昌平はまたしても拙い攻めをし、三者凡退に終わる。

 

 これで一気に優位な状況に立った上尾は、4回表、2番手・福田龍登(3年)の代わり端を攻める。この回先頭の木村がショートゴロの一塁送球をファーストが取れず無死二塁とすると、続く二階堂北斗(2年)のバントに対し、ファールになると思ったファースト渡邉翔大(1年)がボールを捕るのを自重するが、無常にもボールはファールにならず無死一、三塁としてしまう。ここで8番・小林陸人(2年)が犠飛を放ち1点を勝ち越すと、二死後1番・小川がライトフェンス直撃のタイムリー二塁打を放ち3対1とする。さらに続く原勇のショートゴロを、またしてもファースト渡邉が取れず再度、二死一、三塁とすると、3番・日野吉彬(3年)が左中間へタイムリーを放ち4対1とする。

 

 これでゲームの主導権を握った上尾は、6回表にも、一死から1番・小川がライトスタンドへソロ本塁打を放ち5対1とし、効果的な中押し点を奪う。

 

 一方、3回以降徐々に立ち直り始めた木村は、強打の昌平打線の対し凡打の山を築く。

 

 昌平の反撃は6回裏であった。この回先頭の塚田がセンター前ヒットを放ち出塁するが、続く福田が送れない。
それでも1番・比嘉がセカンドへの内野安打を放ち一死一、二塁とすると、木村のワイルドピッチで走者それぞれが進塁し二死二、三塁とする。千田の内野ゴロの間に1点を返し5対2とするが後続が倒れ得点には至らない。

 

 上尾は最終回もこの回からマウンドに上がった3番手・中谷颯汰(3年)を攻め、一死から4番・村上達哉(3年)がライト前ヒットを放ち出塁すると、ワイルドピッチで二進し一死二塁とする。さらに続く原翔太(3年)もレフト前ヒットを放ち、一死一、三塁とチャンスを広げると、二死後、7番・二階堂が四球を選び二死満塁とする。続く小林も四球を選び押し出しでまず1点、さらに9番・内山がセカンドへタイムリー内野安打を放ち7対2としダメを押した。

 

 最終回、さらにボリュームが上がった昌平の大声援をバックに、最後の反撃を見せる。先頭の比嘉がライトフェンス直撃の二塁打を放ち出塁すると、一死後、3番・佐々木が左中間へタイムリー二塁打を放ち1点を返すが時既に遅し。

 

 木村が、落ち着いて後続を断ち、上尾が7対3で昌平を下し10年ぶりの決勝へ駒を進めた。

 

 まず昌平だが、とにかくエース米山の怪我が大きかった。彼が投げていたら、おそらく試合は終盤までもつれていたはずで、ひょっとしたらという展開でもあっただけに昌平サイドとすればまさに痛恨の極みであろう。急遽代わった福田は良く投げていたが、代わり端、ファースト渡邉の度重なるエラーでリズムを崩し、失点した4回表の3点はあまりにも重かった。渡邉自身もあのエラーで完全に舞い上がり、それまで5割以上の打率を誇っていたバッティングにも悪影響を及ぼし、この日2つの見逃し三振を含むノーヒットに終わった。だが、昌平ベンチは彼を最後まで代えようとはしなかった。それはやはり彼のポテンシャルが高いからで、まだ1年生の彼が今後チームを引っ張る中心的存在になると確信しているからに違いない。幸い昌平には他にも千田、吉野という、楽しみな1年生がおり、彼らのバッティングはもちろん、守備でもレフトとサードで共にスーパーキャッチを見せた。昌平は2年生エース米山を含めこれからのチームだ。秋以降の巻き返しに期待したい。

 

 一方の上尾だが、ついに10年ぶりの決勝戦まで辿り着いた。それはこれまで何度も言っているが、投打の中心エース木村と好打者小川の存在があるからだ。だが、次の相手は花咲徳栄だ。彼ら二人は徹底的に研究されるのは目に見えている。特にこの日も1HR2打点と大活躍だった小川が徹底マークされた時に、他の選手がどれだけカバーできるかが鍵だ。エース木村も疲労が溜まっているはずで、左腕・寺山大智(2年)、右サイドの川田元気(3年)など総力戦が望まれる。おそらく10年ぶりの決勝ということで、[stadium]県営大宮球場[/stadium]へ上尾市民が集結しホーム化されるであろう。その力を味方につけ花咲徳栄戦へ一致団結できるか。34年ぶりの奇跡を起こすべく、機は熟した。

 

 

(文=南 英博

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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