狭山ヶ丘(埼玉) 選手同士のミーティングが引き出した高いモチベーション【前編】
春季埼玉県大会は、花咲徳栄と浦和学院の決勝戦となり、6対5で浦和学院が優勝した。花咲徳栄と浦和学院の両校は、19日から始まる関東大会への出場が決まったが、今大会ベスト16入りのチームの夏のシード権獲得も同時に決まった。
ここで、春季大会ベスト16の顔ぶれを見ると、16校のうち予選から勝ち上がってきたのは7校である。さらにそこからベスト8に進出したのは、7校中わずか3校である。
厳しい予選を勝ち上がり、県大会でも結果を残した3校は、今後要注目であることに間違いない。西部地区に属する狭山ヶ丘がそのうちの一校である。
エース・村田龍星をはじめ、狭山ヶ丘は今大会を通じて一際輝きを放ったが、その活躍の裏側には何があったのか。監督・選手に話を聞いた。
躍進のキーワードはモチベーションとコミュニケーション
狭山ヶ丘野球部
「選手には根拠のない自信をもって欲しいです」
そう語ったのは、狭山ヶ丘の山田将之監督である。選手には楽しく練習をやってもらいたい、と考えるのは理由があった。
一つは自身の大学院時代にある。当時メンタルトレーニングやスポーツ心理学を専攻していた山田監督は、講義を通じてモチベーションを高めることで、選手達は思い切ったプレーができるのではないかと感じていた。
そしてもう一つは現役時代の経験にあった。「相手の雰囲気が明るいと、どれだけリードをしていても何かやばいな」と感じることが多かった。その感覚があったからこそ、狭山ヶ丘は練習でも試合でも雰囲気が常に明るいチームを目指した。
自身の経験と学問から雰囲気づくりの大切さを学んだ山田監督。だからこそ、楽しく練習をさせようとしている。では雰囲気を明るくするために、山田監督はどんなことを重視して指導しているのか。それはコミュニケーションだった。
「互いに指摘をして刺激を与えあえば、チーム全体のモチベーションは自然と上がります」というように、ノック終了後はすぐに選手だけでミーティングを開く。
もちろん監督からの指示もある。しかし、選手同士でミーティングをして指摘しあった方が、やってやろうという気持ちになる。
また、そういったミーティングならばお互いを称賛することもできる。その方が選手のモチベーションは当然上がる。そういった狙いが山田監督にはあるのだ。
だが、山田監督が選手間のミーティングを大事にしている理由は、これだけではない。
選手間ミーティングに隠された本当の意図
ノックが終わった後の選手間ミーティング
「指摘したプレーに関係ない選手は、その話をただ聞くだけ。そんな一方通行では、選手は上手くならない」ため、選手間で指摘しあうことで、聞くだけの選手を減らした。
その結果自分の課題が明確になり、上達は早い。そういった理由もあり、山田監督は選手間のミーティングを大事にしている。
選手も、チームメイト同士のミーティングの重要性を感じている。主将の野村大貴は、「学校があると選手同士で話す機会が少ない」からこそ、練習中に選手だけで話せる時間は大事にしている。
選手間のミーティングを大事にしている山田監督だが、決して選手とのコミュニケーションを疎かにしない。週1回、選手と野球ノートでやり取りをすることで、コミュニケーションを取り、選手の性格を知ろうと心掛けている。
また、野球ノートを見ることで、自分と選手間のギャップがあることに気づく。このギャップに気づくことで、選手への指導を考え直すことできると山田監督は話す。
練習で疲れ切った後に野球ノートを書くのは骨が折れる。そしていざ書こうにも、書き方がわからず四苦八苦する選手が多いはずだ。また、書いた内容を監督に見られることを意識してしまい、自分の意思をはっきり書けない選手もなかにはいるだろう。
しかし、狭山ヶ丘野球部は野球ノートをコミュニケーションツールと捉えて取り組んでいる。その結果選手と監督のギャップが埋まり、チーム全体の一体感を生まれたことで、春季大会の躍進に繋がったのだ。
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一体感を出すための役職性
ノック終わりに監督からの指示を受けている様子
雰囲気が明るければ、それだけ練習は面白くなる。その結果、選手の成長速度は急激に上昇する。しかし一歩履き違えれば、羽目を外してしまう危険性がある。そのさじ加減が難しい。
また野球ノートだけではチームの一体感を出すのは難しい。しかし、狭山ヶ丘はそれができている。その訳は、各学年にリーダーを6人置くという体制にある。これがあるからこそ、まとまりがあるチームになっているのである。
主将はもちろんのこと、副主将・アップ・ストレッチなど各学年でリーダーを6人決めることで、野村の指示で全体にまとまりが生まれるようにした。
つまり野村が監督代行のような立ち位置で全体を見渡すようにしている。言うなればリーダーたちは会社の各部署の部長である。そして監督は社長のような立場と考えると分かりやすいかもしれない。
各リーダーたちがミーティングで意見を出し合えば、ミーティングの質は高まる。そうすることでチームメイトの考えが明確となり連動性や連携がキッチリと構築される。その結果、一つの指示でチームの一体感が高まる仕組みが出来てくるというわけだ。
またリーダーとなった選手には、全員の手本となるような行動が求められるようになり、必然的に責任が生まれてくる。
逆に、各部門のリーダーに信頼を寄せられれば、その選手は信頼を裏切れない。その結果、チーム全体には常に程よい緊張感が漂う。これによって、羽目を外すことなく、明るい雰囲気を維持できる。それはリーダーを置いているからこそ、生まれる練習環境である。
エース・村田も、実際に役職に就いたことでより責任感を持って練習に取り組めている。
「元々先輩方の時からベンチに入っていたので、自分たちの代ではチームを引っ張るつもりだった」が、投手陣の代表になったことでより責任を持つようになった。
投手責任として、監督からの指示を伝えることがあるが、もし指示がなければ自主的にメニューを決めると村田は言う。
実はこの自主性こそが、狭山ヶ丘最大のキーポイントである。
後編では自主性という言葉を軸に、狭山ヶ丘がどんな冬を過ごしたのか。また、自主性を支えるあるトレーニングとは一体何か、ということを中心に話を伺いました。後編もお楽しみ!
(文=編集部)