Interview

ZETT『ネオステイタス』開発者に聞く「理想のスパイク選び」

2018.02.28

 2018年2月21日。革新的な野球スパイクが発売された。これまでの野球スパイクの印象を一変させるビジュアル。そして軽さと瞬発性能と履き心地。いったい、どのような発想からこのスパイクは生まれたのか。現場を重視し続けた開発者が語る製作秘話、そして「理想のスパイク」に出会うためにすべきこととは――?

姿を現した「進化の最先端」

ZETT『ネオステイタス』開発者に聞く「理想のスパイク選び」 | 高校野球ドットコム
ZETT『ネオステイタス』開発者の廣畑健一郎氏

 「『なんすかこれ!?』『やばっ』。実際にモニタリングをした際にそういう声がよく聞かれました。実際、店頭に並んだ時に目立たないとまず手に取ってもらえません。そういう意味では、今までにないスパイクのビジュアルがまずあって、さらに今までにない設計が施されている今回のスパイクに対して『やばっ』という声は嬉しい反応でした」

 そう語るのは『ZETT』ブランドでおなじみのゼット株式会社ベースボール事業部開発部の廣畑健一郎氏である。目の前に置かれているのは約2年の開発期間を経て、この2月より発売が開始された埋め込みスパイク『ネオステイタス』。ベロが短く、履き口も薄いそれは、ソールに埋め込まれている刃がなければランニングシューズと見間違うほど斬新なビジュアルである。テスト履きした選手が一目見て「やばっ」と驚くのも無理はない。

 「ネオステイタスシリーズは“進化の最先端”をコンセプトに開発されています。開発のきっかけはカジュアルな靴や他競技の靴を見たことです。以前アメフトの試合を個人的に見に行った際、靴が脱げないようにテーピングでぐるぐる巻きにしているている選手が多数いたのは、かなり衝撃的で選手にとって足とスパイクの一体感が如何に重要かということを改めて実感しました。また、サッカーのスパイクなどは最先端の技術が取り入れられていることが多く、野球にもプラスになる技術を取り入れようと発想したのです」

 廣畑氏はもともと営業だった。四国で13年、北陸で5年。長い営業経験を経て開発部に異動。営業時代は数多くの高校を回り、選手や監督から話を聞いた。そういった現場の希望と、他競技でも求められているニーズ、そして駆使されているテクノロジーが合致した。その結果生まれたのが今回のネオステイタスなのだ。

 「今回の最新作は、履き心地を普通のランニングシューズに近づける、つまり、あらゆる方向にダッシュ力をもたらすために足首の可動域を最大限広げられることを目指しました。見た目の新しさもそうですが、履き口が薄いのも、ベロが短いのもそういった意図が込められています。

ZETT『ネオステイタス』開発者に聞く「理想のスパイク選び」 | 高校野球ドットコム
ZETT『ネオステイタス』

 まず薄い履き口。実際は足首まわりのスポンジを薄くし、位置を下げているのですが、これが今回最も苦労した点でもあります。足首の可動域が広がっても、脱げやすくなっては意味がないので、スポンジの厚みと位置を微調整するとともに、かかと内側にマイクロファイバーを内蔵しシューズとの密着度を高めました。

 またベロの長さにしても動きやすさを求めるあまり、短かすぎれば足首部を保護できなくなり微妙なバランスが必要となります。最終的には試作をして検証する以外、解決策はなくこれまで何度も試行錯誤をくり返してきました」。

 さらに軽量化と耐久性も突き詰めた。野球のスパイクは本来、アッパーは素材をカットし、縫製して形成する。だが、今回のネオステイタスは1枚のメッシュがベースになっている。そこに軽く耐久性のあるTPU樹脂シートを融着することで、「これまでは片足300グラムで軽いと評価されていた」ところを260グラムにまで軽量化した(26.0cm 1/2足の平均重量)。

 「また、ネオステイタスでは『ArkFive』という高機能刃を採用しています。軽量で地面にかかりやすく、一方で抜けやすい構造になっているのはもちろんですが、スパイク刃としてアッパーの耐久力と最もバランスの取れた耐摩耗性を持たせた設計にしています」。

 廣畑さんは言う。「10グラムの違い、1ミリの違いまで突き詰めた」と。歯はひとつで12~13グラム。靴紐も太くすれば重さが増す。アッパーに融着する樹脂の量によっても重さが変わる。さらに、ベロの長さや履き口の厚み。重さと長さと薄さと…その最高のバランスを探るために、高校生からプロまで数百の声に耳を傾けてたどりついたネオステイタス。この完成形はもはや芸術の域だ。

[page_break:「重量」と「耐久性」と「見た目」がスパイク選びの3大要素+α]

「重量」と「耐久性」と「見た目」がスパイク選びの3大要素+α

ZETT『ネオステイタス』開発者に聞く「理想のスパイク選び」 | 高校野球ドットコム
シューズについて語る廣畑氏

 「開発的には軽さと耐久性の特化が根底にあり、さらにビジュアルでも目を引くように突き詰めた」新生ネオステイタス。なぜ重量と耐久性と見た目を重視したのか。それは、スパイクが選ばれる際に重視される3大判断要素だからだ。

 「高校生に限って言うと、スパイク選びのポイントはまずメーカーを絞ることから始まると思います。メーカーによって幅広か幅狭か、甲が高いか低いかなど、スパイクの足型の特徴は若干変わってきます。その中で自分の足の形に最も沿う作りをしているのはどこのメーカーか、を見極めるのが重要です」。

 メーカーを絞ることができたとして、次に重量と耐久性が重要になるという。

 「スパイクの重さに関しては計ればすぐに数値が出てくるので判断しやすい、というのも優先判断される理由のひとつ。耐久性に関してはやはり経済的事情によるところもあります。その際、アッパーもさることながらソールに埋め込まれている刃もポイントになります」。

 刃が摩耗しないことに越したことはない。だが、強度をひたすら強めればいいわけでもない。強度を高めれば刃は厚く重くなり、地面のかかりや抜きにひっかかりを覚えることもある。足裏への突き上げ感も気になるところだ。また、刃だけ耐久性が高くても、アッパーがその耐久性についていけなければ宝の持ち腐れになってしまう。

 「メーカーによって刃の位置も違えば、形も違います。各メーカーがオリジナル性を出す中、軽さと耐久性と使い勝手のバランスをどこまで追求できるか。最後は履く人の感覚が大きいと思います。また、試し履きした際には突き上げ感をチェックしておくのもポイントです」

 ネオステイタスはビジュアルに関しても抜かりはない。人によってはスパイク選びにおいて最優先されることもある見た目のかっこよさ。「軽く見えるビジュアル」「シャープ感を感じさせるビジュアル」を追求しながら、「風が流れるようなイメージ」を具現化していき、5~6パターンを試作し、聞き取り調査しながら絞っていった。

 自分に最適のスパイクを選ぶには、まず自分の足の形に合ったメーカーを見つける。そして軽さと耐久性を検証する。見た目を重視するのも、履いた時の気分を上げる上で外せないチェック項目になる。さらに加えると「足入れの感触」も重要になるという。

 「足入れは、感覚に頼る部分が大きくなりますが、それは夕方に試してみることをお勧めします。人間の足は朝と夕方では形が違ってくる。寝起きの朝ではなく、動き続けて足がむくんだ夕方の方が実際野球をする際の状態に近いと言えます」。

 ちなみにネオステイタスは日本人の足型に多い幅広タイプ。3E相応という寸法でワイドな設計になっている。

[page_break:ハイスペックなスパイク機能をフルに引き出すために]

ハイスペックなスパイク機能をフルに引き出すために

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ZETT『ネオステイタス』を手に取る廣畑氏

 微に入り細を穿つ逸品だからこそ、メンテナンスには気を付けたい。
 「よくスパイクについた土を落とすために、足裏同士でパンパン叩いたり、コンクリートに叩きつけたりするシーンを見ます。かつて自分も野球をしていましたから気持ちは分かりますが(笑)、これは避けてほしいです。刃やアウトソールが傷みますから。メッシュなどの合成繊維や人工皮革アッパーについてのメンテナンス方法としては、クリーナー等を用い汚れを落とすことと、付着した水分は必ず拭き取ることです。雨等でシューズの中まで濡れた場合は新聞紙等をつめて陰干しして下さい。天然皮革と違って保革する必要はありません。土が落ちにくい刃周りに関しては金ブラシという、歯ブラシのブラシ部が金属になっているものを使うと落ちやすいです」。

 そして、最先端の技術が取り入れられたネオステイタスのスペックを最大限に引き出すポイントがある。それは、「ジャストサイズのものを履く」ということだ。

 「これは日本人の合理的な性格によるものかもしれませんが、幼少期からその後の成長も見越して大きめのサイズを買う傾向があります。この靴環境に慣れると、ジャストサイズの靴を履いたとしてもキツく感じてしまう。この感覚のズレに気付くのが実は難しいのです。プロ選手になってこの感覚のズレに気付き、高校時代より1センチも小さいスパイクを履くようになる人も少なくありません。これは決して足のサイズが小さくなったのではなく、適正な足のサイズに気付いたに過ぎないんです」。

 靴紐を結び直さず履き脱ぎできるスパイクは明らかにオーバーサイズ。これでは、せっかく突き詰められた機能構造もフィット感も役に立たなくなってしまう。野球選手であれば誰もが自分に最適なスパイクとの出会いを願う。その願いをかなえるためにまずすべきは、正確な自分の足のサイズを知ることが近道になるのかもしれない。

(文・伊藤 亮

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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