【2017年 キミは最も輝いていたで賞!】夏直前でベンチ入り、甲子園で正捕手に。湯淺仁(開星・3年)
湯淺 仁(開星)
高校野球ドットコムでお馴染みの現地記者の皆さんが、今年一年、最も輝いていたと思う選手に贈る賞を発表!第三弾は、井上 幸太記者が表彰!開星の湯淺 仁選手に、「2017年の最も輝いていたで賞」を贈ります!
ベンチ入り決定は超直前。そこから始まった逆襲の夏
今夏の島根大会が開幕した7月15日。会場で販売されている、刷り上がった大会パンフレットに湯淺 仁の名前はなかった。彼の名前が記載されていたのはパンフレットに差し込まれていた「選手登録変更一覧」と書かれた1枚の用紙の中。今夏の甲子園で開星の背番号2を背負い、正捕手としてプレーした湯淺 仁の夏は滑り込みで手にした「背番号18」でスタートしていた。
秋の時点で一度は正捕手の座を掴んだが、自身の打撃不調が重なり、春季島根大会以降は同学年のライバル・吾郷 涼太に背番号2を奪われた。当初夏のベンチ入りからも外れていたが、投手陣との信頼関係を評価され、直前の登録変更で背番号を勝ち取った。
そして迎えた夏の島根大会。初戦の松江商戦では出番が無かったものの、3回戦の島根中央戦で大仕事をやってのける。5回の攻撃で吾郷 涼太に代打が出た関係で、6回からマスクを被った湯淺 仁。相手エースの投じる外角に逃げていくスライダーに手を焼き、2点ビハインドの展開で迎えた7回。初打席を迎えた湯淺 仁は三塁線を破る痛烈な二塁打を放ち、同点に繋がるチャンスメイクに貢献。更に同点で迎えた8回には打球が上がった瞬間に外野手が動きを止める完璧な3ランアーチをレフトスタンドに突き刺し、決勝点を叩き出した。守っても4回途中からマウンドに上がっていた片原 啄勝を好リードで牽引し、4イニングを無失点。途中からゲームに入る難しさもある中、攻守で躍動し、勝利を手繰り寄せた。
準々決勝・立正大淞南戦では四球での出塁のみと打撃は振るわなかったが、低めの変化球を軸にするリードで2年生エース・中村 優真の持ち味を引き出した。結果的に2失点完投勝利となり、秋、春連続でコールド負けを喫した宿敵への雪辱を演出。
準決勝・浜田戦、決勝・益田東戦でもスタメンマスクを被り、フル出場。大会序盤は力んで高めに浮いた真っ直ぐを痛打される場面が目立った中村 優真だったが、丹念に低めを狙わせる湯淺 仁のリードが噛み合い、準決勝・浜田戦は1失点完投、決勝・益田東戦は連戦の疲労も色濃く6回途中で降板となったが、2失点と安定感を取り戻した。
打撃、守備の両面で開星の甲子園出場に大きく貢献した湯淺 仁。「投手陣との信頼関係を評価した」という山内弘和監督の期待に応える活躍を見せた。
正捕手の座を奪還し、夢の聖地へ。
開星にとって夏は3年ぶりとなる甲子園出場。島根大会での活躍が評価された湯淺 仁に与えられた背番号は「2」。秋以来となる正捕手の証を手にして臨んだ甲子園ではスタメン出場し、フルイニング出場。最終的に全国制覇を果たす花咲徳栄打線に9点を奪われる苦しい展開となったが、登板した中村 優真、片原 啄勝、加納 智也の3投手を鼓舞するために、幾度となくマウンドへと駆け寄り、懸命に声をかける姿が強く印象に残っている。島根大会から変わることなく、大舞台でも「投手を孤立させない」姿勢を貫き、正捕手としての責務を全うした甲子園だった。
ともすれば最後の夏をスタンドで過ごしたかもしれなかった選手が滑り込みでベンチ入りを果たし、約1ヶ月後、夢舞台ともいえる甲子園で正捕手へと返り咲く…。そんなドラマチックな「最後の夏」を見せてくれた湯淺 仁。来たるべきチャンスに応えるべく、黙々と準備し、ターニングポイントといえる場面で結果を出す。一人の高校球児が階段を駆け上がっていく姿を見ているようで、こちらも大いにワクワクさせられた。
今回の企画で改めて振り返る中で今夏、一つ印象的なシーンがあったので最後に紹介したい。準々決勝の立正大淞南戦、先述のように秋、春の二季連続コールド負けを喫し、開星にとって「雪辱を期す」大一番でのことだった。3点リードで迎えた9回、連打で無死一二塁、本塁打が出れば同点となるピンチを向かえた開星。次打者が捕邪飛を打ち上げるも湯淺 仁は捕球出来ず。取るべきアウトが取れず、開星サイドにとっては「嫌な空気」が立ち込めた。しかしながら、打ち直しとなった痛烈なライナーを内野手が好捕し、見事併殺成功。これで立正大淞南の反撃ムードが消沈。次打者は内野ゴロに倒れ、リードを守りきった。結果論と言ってしまえばそれまでだが、この夏を振り返ってみると湯淺 仁/player]に「野球の神様」が微笑んでいた…そう考えたくなるワンシーンだった。
一人の捕手が紡いだひと夏の「シンデレラストーリー」。キミは最も輝いていたで賞!を贈ると同時に今後も一際輝く活躍を野球に限らず見せてくれることを期待したい。
(文・井上 幸太)
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