山川 穂高(埼玉西武)が語るホームラン論「強い打球を打てて、確実性が高いフォームを求めよう」【前編】
今季、4月こそ結果を残せずに5月1日にファーム落ちするも、7月8日に再昇格すると、その日の東北楽天戦で代打ホームランを架け、その後はスタメンに定着するだけでなく、終盤は4番を任され続けた埼玉西武ライオンズの山川穂高。その魅力はなんといってもフルスイングによるホームランだ。自身最多の23発はリーグ11位タイだが、1本当たりに要した打数は10.52(242打数23本)。これはキングとなったデスパイネ(福岡ソフトバンクホークス)の13.66(478打数35本)を大きく凌ぐ驚異的な数字である。「飛ばすことへのこだわりはかなり強い」という和製大砲が語る、ホームランを量産するための技術、体のつくり方、練習での意識の持ち方とは―――。
ホームランを打つにはトップの位置は必然と深くなる
山川 穂高(埼玉西武)
バッティングフォームにおいて山川が特に重きを置いている箇所は2つある。
「ホームランを打つということだけで言うと、大事なのはトップの位置の深さですね。基本的に打球を遠くに飛ばすためには、ボールを強く叩かなくてはいけない。構えのときはグリップを持つ両手はどこに置いておいてもいいと思いますが、トップの位置が浅いとボールにバットをぶつけても伝えられる力が弱い。飛ばそうと思えばトップの位置は絶対に深くなるはずです」
トップを深く取れば「割れ」が大きくなり、それによって捻転の力が増す。バッティングでもっとも大きなパワーを生み出すとされているのが、この力だ。しかし、トップの位置が深くなればリードする方の腕が伸びて振り始めるときのバット操作が難しくなりそうにも思うが、決してそんなことはないと首を振る。
「スイングの軌道を作る練習はいろいろありますけど、力を伝えやすいのはトップを取った後、ボールに対してグリップエンドから見せていくこと。今の高校生はグリップエンドが下を向いている子が多いですよね。そうすると俗にいう金属バット打ちになってしまう。バットの先端が体から離れていく。だから、バットが外から回りながら内側に切ってしまう。でも、グリップエンドから見せていくとバットは絶対に体から離れない。右肘も体に近いところについているので、最後に右手をグンッと返せるんです。それは高校のときから意識していて、毎日、鏡を見ながら身につけました。ゆっくり素振りをするときはトップの直後からすぐに見せるような感じでやっていました。今はもう意識していませんが、映像を見ればちゃんとそうなっています。どのコースに対しても同じですし、そんなに難しい動きではないと思いますよ」
山川が広角にホームランを打てている理由の1つも、そこにある。また、バットの出し方さえ、きちんとできていればスイング軌道に固執しすぎる必要はないという。
「基本はレベルスイングだとは思います。素振りをするときもそう。でも、試合になるとダウンスイングもアッパースイングも使う。インコースの球に対して左腕を抜くように使ったり、左手で引っかけるように打つことだってある。1つではないんです。もちろん極端なアッパースイングやダウンスイングでは確率が悪いですが、そうでなければヘッドが寝ていようが、立っていようが構わないというのが僕の考えですね」
強いパンチの打ち方は、遠くへ飛ばすことにつながる
山川 穂高(埼玉西武)
もう1つ大切にしているのは「下半身のぶつけ方」だ。
「これは独特な考え方だと思うので、誰にとってもいいというものではないかもしれません。だから、あくまで1つの発想として聞いてもらいたいのですが、たとえば強いパンチを打とうとしたら、踏み出す足に体重をガンッと乗せますよね。それと同じで、体重をいかにぶつけられるかなんです。スウェーして、頭も前に流れてしまうんですが、やっぱり打球はその方が飛ぶんです。指導者の方によく『その場で回転しなさい』とか、『頭を動かさない』と言われると思うんですけど、確かにそれは正しいです。最初から止まっていてパチッと打つとボールを引きつけられますし、頭が動かなければ目線がブレないのでミート率は確実に上がりますからね」。
「でもホームランバッターの中にもいろいろな打ち方がある。下半身の使い方にしてもそうです。たとえば中村 剛也さんと僕ではまったく違う。柳田 悠岐さん、筒香 嘉智、山田 哲人もみんな、ほぼ違う。個人的には本当のホームランバッターは中村さんだと思っているのですが、中村さんの打ち方を見ていると『回転』を大事にしているんだろうなと感じますが、僕は回転よりも『ぶつける』なんです。ブレないということを最優先するなら、その場で回るのが理想かもしれないですけど、ただ単純に打球の飛距離を出すことを考えるなら、軸足に体重を乗せてからグッーと前に移動して前足を着いてバシッと受け止めて、その力を上に伝えてスイングした方がいい。だから体は前に動いてもいいと思っています」
イチロー流の素振りでできた右足のマメ
山川 穂高(埼玉西武)
小さいときから変わっていないという自己流の素振りも、指導者に「それだけとスウェーだよ」と言われても貫いてきた。
「大げさに言うとイチローさん(マーリンズ)です。普通は左足を上げて着いたら、その場で回転する。でも、僕は体重を前にぶつけるようにしながら振る。左足は開いて着くんですけど、右足はピッチャーに向かって真っすぐ前に擦りながらドーンと行く感じです。だから、ここに大きなマメができるんです」
そう言いながら右足のソックスを脱いで、「触ってみますか」と親指の側面にできたマメ(写真)を見せてくれた。実際に触らせてもらうとバットスイングを繰り返してできた手のマメのように硬く、その位置からは足がどう擦っているかがわかる。
「マメも子供のころからあります。バッティング練習のときの足場もほかの人は軸足を置いているところが掘れていきますけど、僕はピッチャーが投げたときの軸足が擦れてできる線のような跡がつくんです。ほかにこういう跡ができるバッターはいないと思いますけど、僕は打つのと投げるのは大まかに言えば同じ動きだと考えているんです。地面への着き方は違いますけど、左足の上げ方もキャッチボールでなにげなく右足から左足と体重移動をやっている中で、それが1番上げやすい、体重が乗せやすいと感じて、バッティングでも同じ感覚でやるようになりました」。
「逆に言うと、だからボールを投げる動作ではそういう足の上げ方をするんだと思います。投げるときの右足もキャッチャーに向かって土を擦っていきますよね。僕は打つときもそれに似た感じです。ただ、そうしたものも人それぞれでいい。1、2、3のタイミングで言えば、“1”でパッと足を上げて、“2~”で足を降ろしていって『割れ』がしっかりできてから、“3”でバットを出していければどんな形でもいいと思います」
(インタビュー/文・鷲崎 文彦)