伝説となったナイター決勝など熱戦を多く繰り広げた春の東京を振り返る!【東京都総括】
早稲田実業の優勝で幕が閉じた今年の春季東京都大会。激戦の数々だった今大会を総括する。
伝説となるであろう「清宮ナイト」
健闘をたたえ合う清宮幸太郎(早稲田実業)と桜井周斗(日大三)
甲子園に直接つながらない春季大会は、高校野球ファン以外はそれほど関心が高くなく、関東大会出場が決まった後の決勝戦は、消化試合の感じがする時が少なからずあった。しかし、今年の都大会の決勝戦は特別であった。
神宮球場での異例のナイターに、2万人もの観客が詰めかけた。試合終了が、午後10時を超える壮絶な打撃戦で早稲田実が優勝し、日大三は準優勝であった。
翌日(4月28日)のスポーツ紙のほとんどは、この試合を1面に掲げ、民放の朝のワイドショーも、トップ項目で伝えた。
話題の中心は、この試合2本の本塁打を放った早稲田実の怪物・清宮幸太郎であった。この「清宮ナイト」は怪物伝説の一幕として、語り継がれることだろう。
決勝戦の18対17というスコアが示すように、今年の春季大会は、早稲田実と日大三の打棒が際立った大会であった。優勝した早稲田実は準決勝の国士舘戦で、2点リードされて迎えた8回裏に、福嶋壮の代打満塁本塁打で逆転すると、この回10点を挙げてコールド勝ちした。この大会、それぞれ本塁打5本の清宮、野村大樹だけでなく、代打要員も含め破壊力は際立っていた。
この大会で印象的だったのは、各校が清宮対策を練っていたことだ。守備を右に寄せるのは序の口。岩倉のように、外野手を2人にする、超変則シフトを敷くチームもあった。夏の大会では、各校様々な揺さぶりをかけてくるだろう。清宮がそれにどう対応するか。あるいは、そのシフトまでも超越する活躍をするのかも、見どころである。
日大三は2年生遊撃手の日置航の5本、櫻井周斗の4本など、大会6試合で18本もの本塁打が飛び出した。特に修徳、二松学舎大附など、甲子園出場経験のある古豪を5回コールドで仕留めた攻撃は圧巻であった。
そうした中、4回戦で日大三と対戦を行い、序盤4点を失ったものの、140キロ前後の球速のある5人の投手を繰り出し、3回以降は日大三打線を無失点に抑えた東海大菅生の投手陣は、印象に残った。
東東京強豪の苦戦
小川樹(関東一)
近年の東東京は、関東一、二松学舎大附、帝京を中心に展開しており、今年もその傾向は変わらない。しかし3校とも春季都大会での内容は、あまり良くなかった。
二松学舎大附は1回戦から登場し、準々決勝まで勝ち上がったものの、準々決勝では日大三になす術なく敗れた。
関東一は3回戦で駒込の粘りにあい、9回サヨナラで、辛うじて勝利を収めた。準々決勝の国士舘戦では初回に4点を先制しながら逆転負け。勝負どころの8回裏には、失策で2点を失うなど、最近の関東一では見られなかった戦いぶりだった。
帝京は初戦の日大二で一時5点のリードを許したが、9回裏に3点を入れ逆転サヨナラ勝ちしたのに続き、日体大荏原戦も6-5と、かなり危うい内容だった。それでも4回戦以降は立て直し、準決勝の日大三戦では敗れはしたものの、7-9と僅差のゲームをしたのは、伝統校の底力と言うべきか。
関東一は4番打者の石橋康太が、帝京は1年生の夏から4番を打つ岡崎心が負傷で欠場した。彼らが夏にしっかり実力を発揮できるのかも、気になるところだ。
健闘光る駒大高、共栄学園
伊藤大晟(共栄学園)
4強の顔ぶれは、都立日野と帝京が入れ替わっただけで、秋春と変わらなかった。準々決勝も6校がシード校。ノーシードの2校のうち、1校は二松学舎大附で、一次予選から勝ち上がったチームは1校もなかったことを考えると、比較的波乱の少ない大会だったと言える。
こうした中で、昨夏のメンバーを多く残す実力校の創価を完封し、雨中の熱戦で、昨夏の西東京大会を制した八王子を破った駒大高のエース・吉田永遠の健闘は光った。まだ実戦経験が少なく粗削りの面もあるが、タフな投球は印象に残った。
一次予選から勝ち上がったチームで、唯一、夏のシード権を獲得した共栄学園は、粘り強い戦いが光った。一次予選の代表決定戦では、大森学園と延長11回の熱戦を制し、敗れた早稲田実戦も6-10と善戦した。もともと女子高で、女子バレーボールは全国レベルの強豪。スポーツの盛んな学校だけに、今後強豪への道を進む可能性がある。
固定観念を打ち破る選手たち
三田知樹(岩倉)
早稲田実の清宮や日大三の金成麗生のような大型選手の活躍が目立つ一方で、身長158センチの都立日野の小林龍太をはじめ、身長166センチの共栄学園の大西亨和、身長164センチの岩倉の三田知樹など、身長の低い投手の活躍も目立った。最近は体が小さくても力のある球を投げる選手も多くなっている。
また関東一の控えの捕手であった早坂秀太は50メートルを5秒台で走り、明大中野八王子の捕手の大池稜や結局二塁手で出場したが、捕手での登場も考え背番号が2だった佐々木俊輔は、50メートルが6.0秒。早大学院の捕手・浦野聖弥は中学生時代、三重県の陸上短距離のリレーで入賞している。
チーム事情もあるが、捕球や野球センスの良さで選んだら、たまたま俊足の捕手になったということのようだ。
上野学園のエース・傍島開平は、打っては1番打者で、塁に出れば盗塁もするし、頭から帰塁もする。
まだ賛否両論あるものの、大谷翔平の二刀流が成果をみせたことで、今後、固定観念にとらわれず、選手の特性に合わせた起用の仕方というのが、広まっていくのではないか。
1年生選手の活躍に注目
開幕の日の4月1日は、冬に逆戻りしたような冷たい雨が降る中、人工芝の球場のみ試合が行われた。大会を通じて、強風や雨など気象条件に悩まされた。
そうした中、力を発揮できず、敗れたチームも多い。またこの春、負傷などで欠場した選手の復調も気になる。
また夏に向けての最大の変数は、1年生の存在だろう。早稲田実の荒木大輔やPL学園の桑田真澄、清原和博など、1980年代頃は、1年生から活躍する選手は、ごく例外的な存在であった。しかし中学生の硬式野球が盛んになることで、1年生も即戦力とみなされている。この春浮き彫りになった弱点を補うため、1年生を使うことを宣言している監督もいた。
いずれにしても、優勝した早稲田実も含め、この春感じた問題点をいかに修正し、チームの長所を伸ばしていけるか。夏の大会まで残り2カ月余り。時間は多くないが、できることは少なからずある。
(文・大島 裕史)
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