早稲田実業vs日大三
神宮の夜を熱くした総力戦!早稲田実業が35年ぶり9回目の優勝!
この日2本目の本塁打を放った野村 大樹(早稲田実業)
清宮幸太郎、野村大樹を擁する早稲田実。櫻井周斗、金成麗生を擁する日大三。注目の選手のいる伝統校同士の対決に加え、高校野球では異例のナイター開催という話題性もあって、関心は非常に高く、チケット売り場には長蛇の列ができた。午後6時4分に試合が始まった後も、仕事帰りのサラリーマンなどが続々と球場を訪れ、春季都大会としては異例の2万人の大観衆を集めた。試合の方は清宮、野村が2本ずつ打つなど、7本の本塁打が乱れ飛ぶ、壮絶な打撃戦になった。
早稲田実の先発は、準々決勝の駒大高戦以来の先発となる右腕の池田徹。日大三は1回表、櫻井の二塁打、日置航の3ランで池田から4点を奪う。
初回にいきなり大量失点をした早稲田実であるが、清宮主将は「食らいついていくぞ」と円陣で檄を飛ばす。その檄の通り、野村がレフトに2ランを放つ。この本塁打の後、日大三の先発・岡部仁は、肘に違和感を覚え降板する。この試合、日大三の小倉全由監督は夏を見据え、エースの櫻井を投げさせないことを決めていた。それだけに、準エースとも言うべき岡部の早々の降板は誤算であり、乱戦の導火線になった。
早稲田実は代わった柿澤海大から、3回裏に野村が内野適時安打、6番・小西優喜が右前適時打で同点に追いつく。さらに5回裏には、二塁打の雪山幹太を置いて、野村がこの試合2本目の本塁打を放ち、2点を追加する。
2回以降は日大三の強力打線を無失点に抑えていた早稲田実先発の池田であるが、7回表二死後、柿澤に代わる代打・溝口耕平が二塁打を放つと、両チーム、ノーガードの打ち合いが始まる。
続く1番・井上大成の中前安打で1点を返し、2番・長谷川央都に四球を出したところで、池田は降板し、エースの服部雅生が登板する。服部から櫻井が右中間を破る二塁打を放ち2人が還り、日大三が逆転する。
その裏日大三は、センターを守っていた八木達也をマウンドに送るが、早稲田実は2番・雪山に四球、4番・野村、5番・福本翔の連打で満塁とし、6番・小西の中前安打で同点。7番・橘内俊治のレフトオーバーの二塁打で2人が還る。一塁走者の小西は本塁で刺されたものの、なおも二死二塁。ここで日大三は八木をセンターに戻し、マウンドに上がった中村奎太から、服部に代わり打席に立つ代打の切り札・福嶋壮が右中間を破る三塁打を放ち、続く9番・西田燎太の中前安打で福嶋も生還し、4点のリードを奪う。
服部に代打を送ったので、8回表からは左腕の石井豪が登板するが、日大三は投手の中村に代打・大西を送り、大西は四球。その後暴投で二塁に進み、日置の右前安打で生還する。さらに7番・津原瑠斗、8番・八木の三ゴロを、野村が立て続けに失策。無死満塁となる。慣れないナイターが影響しての失策だった。
ここで9番・溝口に四球で押し出し、1番・井上の二ゴロが併殺になる間に、津原が生還し、1点差に迫る。
日大三は8回裏からは、田口仁平をマウンドに送る。田口から早稲田実は、右前安打の雪山を一塁に置いて、清宮がライトスタンド上段突き刺さる2ラン本塁打を放ち、早稲田実が突き放す。
ここで日大三は一塁を守っていた長身の金成をマウンドに送る。昨年の夏から野手に比重を置いていた金成であるが、元は投手。「昨日なんかいい球投げていましたよ」と語る小倉監督は、もしかしたら登板もあると考えていた。
金成は制球力に難があり、四死球で満塁のピンチを作るものの、最速148キロの速球は、力感あふれており、追加点を許さない。
9回表早稲田実は、石井に代えて、同じ左腕の赤嶺大哉をマウンドに送る。この回の日大三の先頭打者は、この日は右翼手である3番の櫻井。前の回、清宮の本塁打が、頭上高くを通り過ぎるのを見て、「さすがだな」と思いつつも、闘志に火がついた。櫻井は初球を叩き、ライトスタンドに叩き込む本塁打を放つ。日大三は主将でもある櫻井の一発で、火がつき、2安打と四球で無死満塁。早稲田実のマウンドには赤嶺に代わり、大垣洸太が上がっている。日大三は8番・八木の内野安打で1点差に迫ると、大垣の暴投で同点。溝口の犠飛で逆転する。さらに1番・井上の二塁打、代打・大塚晃平の本塁打でリードを4点に広げた。
もっとも、これで勝負がつくほど早稲田実は甘くない
9回裏この回先頭の9番・西田に四球を出したところで金成は一塁に戻り、中堅手の八木が再びマウンドへ。早稲田実は1番・野田優人の二塁打に、2番・雪山の右前安打で1点を入れると、無死一、三塁で打席には前の打席で本塁打の清宮。清宮は、バックスクリーンの左側に飛び込む、同点の3ランを放つ。清宮が、「野球人生で初めて」というガッツポーズが思わず出るほど、興奮した一発だった。その後もピンチは続いたが、八木が何とか逃げ切り試合は延長戦に突入した。
夜10時を越え、楽器を使っての応援が禁止された延長12回裏早稲田実は、四球に2本の内野安打で無死満塁とし、1番・野田が二塁手の横を破る中前安打を打ち、試合時間4時間2分に及ぶ激闘に終止符が打たれた。
夜10時を越え、閉会式はなし。高校野球としては、異例ずくめの試合であった。
試合後清宮の口からは、「思わず疲れました」の声が出た。
早稲田実にすれば、投手力に課題は残ったものの、秋に続き、日大三との激闘を制し、優勝した自信は大きい。春季都大会の優勝は、35年ぶり9回目だ。
一方敗れた日大三にしても、櫻井を登板させない中で、ここまでの試合をした意味は大きい。勝った早稲田実にも敗れた日大三にも、課題を再認識したことも含め、収穫の多い試合だった。
この両チームは、夏は決勝戦まで当たらない。「他のチームに負けるわけにはいかない。打倒早実です」と小倉監督は言う。清宮と櫻井の高校での最終決着となる夏が、注目である。
ただその前に、関東大会での両チームの健闘を期待したい。
(文=大島裕史)
■組み合わせ表
春季東京都高等学校野球大会
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