Column

横浜南ボーイズ「フルスイングで咲かす大きな花」

2017.02.28

 神奈川県中学硬式野球チーム特集の第二弾は、横浜南ボーイズに訪問!

 体が大きい、小さいに関わらず、3学年合わせると100人いる選手全員にフルスイングするよう指導しているのが横浜南ボーイズだ。昨年は送りバントなしで、全国準優勝を遂げた。野球の醍醐味は思い切り打つ楽しさと、今年も送りバントなしで各大会に臨む。「DeNAベイスターズカップ」では第1回大会で準優勝。3回目の出場となる今大会で初優勝に挑む横浜南ボーイズの後藤 均監督と選手のみなさんにお話をうかがいました。

今年のチームも送りバントはしない

横浜南ボーイズ「フルスイングで咲かす大きな花」 | 高校野球ドットコム

後藤 均監督(横浜南ボーイズ)

「理想は打ちまくる野球。打力がある選手が揃っているなら、送りバントなどの小技は使いたくない。そもそも野球は点取りゲームなので」―。中学、高校の指導者からよくこういった話を聞く。ただ現実は厳しい。勝つための戦術として、どうしても送りバントの必要に迫られる。そんな中、送りバントゼロで、昨夏全国準優勝したのが、横浜南ボーイズだ。2001年にチームを立ち上げた後藤 均監督は「今年も送りバントはしないつもりです」とキッパリ。そしてその理由をこう話してくれた。

「高校生になれば、バッティングにおいても、誰もがチームの中での役割を担わなければいけません。私も高校時代は体が小さかったのもあって、逆方向の打撃しかさせてもらえなかった(笑)。でも、それを中学の段階で強いるのはどうかと。野球選手なら誰でも思い切り打ちたいですしね。バントをしていた時から、ウチでは体の大きさは関係なく、全員がフルスイングをして遠くへ飛ばせるよう、指導しています」

 全員がフルスイングすることで生まれる、戦術的なメリットもあるという。
「外野手が後ろに下がりますからね。内野と外野の間に落ちるヒットが生まれる可能性が高くなるんです」

 一方、送りバントをしない代わりに、後藤監督が選手に課しているのが「併殺を食うな。一塁まで全力で走れ」。1度に2つのアウトをもらわない。それが“全員強打”の条件である。ティー打撃の練習を見させてもらうと、後藤監督の言葉通り、横浜南ボーイズの選手はみな「インサイドアウト」の打ち方でフルスイングをしていた。しっかり振り抜くのでフォローも大きい。
「インサイドアウトで打つと、最後はのけぞった形になるので、体ができていない中学生にやらすのはどうか?という声もあります。ですが、遠くに飛ばすにはやはりこの打ち方かと」と後藤監督。

[page_break:投打の柱と頼れる主将がチームを引っ張る]
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小島 直樹選手(横浜南ボーイズ)

 フォームの技術指導は、元横浜(現横浜DeNA)の投手で、現在チームのヘッドコーチを務める加藤 将斗氏(東北高出身)を中心に、細かく行っている。ティー打撃は、1球、1球フルスイングで打つので、さすがにそう数は打てない。1回の順番で打つのは10球ほど。たくさんの数は打てない分、横浜南ボーイズでは1本1本の中身を重視している。

 フルスイングをするための体作りにも力を入れている。当たり前だが、ただ思い切り振るのがフルスイングではない。理に適った振り方でフルスイングをするには、下半身の強さはもちろん、体幹の強さも求められる。そのため、毎日休みなく行っている平日練習(17時30分から20時くらいまで)では、シーズン中も無理がない程度のトレーニングを欠かさない。

 その成果だろう。特に2年生の選手は一様に下半身ががっしりしていて、体の厚みもある。すでに高校生とそん色ない感じだ。主将の小島 直樹(2年)は、上背こそ164.5㎝とさほどでもないが、体重は75㎏。四番を打つ菊地 希(2年)は172㎝85㎏。とても中学2年には見えない。後藤監督によると「食べなければ大きくならないので、食事の指導にも力を入れている」という。

投打の柱と頼れる主将がチームを引っ張る

 昨年全国準Vに輝いたチームはメンバー全員が3年生で「34人全員の実力が拮抗していた」(後藤監督)。その前チームに比べると「力は落ちる」と指揮官は見ているが、「こと打力においては現チームの方が上」だという。打線を引っ張るのは大砲・菊地だ。春の全国大会出場がかかる試合では推定130m弾を飛ばし、相手の度胆を抜いた。新チーム結成後、すでに6本塁打。横浜DeNAの筒香 嘉智選手(横浜関連記事)が憧れの存在で、YouTubeの筒香選手の動画を見ながら、遠くへ飛ばすための技術を研究しているという。菊地は、チーム練習以外でも自主的によくバットを振っていて、そこでは「“何本振る”ではなく、1本1本集中して振るようにしています」

 打の軸が菊地なら、投の柱は梅田 健太郎(2年)だ。177cm右腕の梅田は、真っ向から投げ下ろす最速130㎞目前のストレートが武器。カーブ、スライダー、チェンジアップも操る。後藤監督は「小学時代は捕手だったんですが、センスのある子です」と評す。打力もある梅田は7番を打っている。
発展途上のチームゆえ、課題もある。主将の小島は「失点した時の立て直し。ここがまだできていない」と考えている。

[page_break:嬉しかったチーム初のプロ選手の誕生]

 横浜南ボーイズは、全国大会には夏4回、春は今年を合わせると3回出場している強豪だ。神奈川の中学硬式ナンバーワンを決める「DeNAベイスターズカップ」には過去2回出場していて、2013年の第1回大会では準優勝を果たした。今回が3回目の出場となる後藤監督は「DeNAベイスターズカップは、他のリーグのレベルもわかる意義のある大会だと思っています。レベルが高いチームばかりですが、1戦必勝の姿勢で優勝したい」と抱負を語る。

 選手たちも燃えている。「野球王国・神奈川の頂点に立ちたいですね。個人的にはホームランを打ちたい」と言うのは、一発を秘める六番打者の小島主将。エースの梅田は「スピードガン表示が出るので、130㎞を出したい」と意気込む。梅田には対戦したら絶対負けたくない投手もいる。それは戸塚シニアの江澤 広太郎(2年)。小学時代、2人は汐見台ラッキーズでバッテリーを組んでいた(梅田は当時捕手)。菊地は「最低1本はスタンドに放り込む」構えだ。

嬉しかったチーム初のプロ選手の誕生

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練習風景(横浜南ボーイズ)

 横浜南ボーイズが土日、祭日に練習を行っている専用グラウンドは、千葉・市原にある。選手は例年、3学年合わせると100人くらいになるが、全員がチームのバスで向かう。横浜南ボーイズには、創立以来少しずつ増やしていったチームのバスが、現在4台あるのだ。選手は恵まれている。対して平日の練習は、使える場所を有効活用している。メインの多目的運動場では硬式球が使えないが、そこではソフトボール打ちやトレーニングを。ティー打撃は車が通らない道路脇にネットを立て、外灯の明かりを頼りに行っている。

 中学硬式の指導をする前は10年間、小学生を教えていた後藤監督は、部員数が多い分、選手のモチベーションにも配慮している。
「中学でメンバーに入れなくても、高校で花咲く選手はたくさんいます。試合に出られなくてやる気を失わないよう、野球が好きな気持ちを保てるよう、ローカルな大会にはメンバー外の選手でチームを作って出場しています」

 今年57歳になる後藤監督は、名門・横浜高のOB。エース・愛甲 猛(元ロッテほか)を擁して80年夏の甲子園を制した代は、2学年下にあたる。レギュラーにはなれなかったが「最後まで続けてよかったと思いますし、野球部での2年半で我慢強くやることの大切さを学んだ気がします」

 横浜南ボーイズの監督になってからは、毎年のように卒団生が横浜高の門をくぐり、後藤監督の“後輩”になっている。気が付けば、トータルの少年野球の指導歴は30年近く。この間、雨でグラウンドが使えない日以外はほぼ毎日グラウンドへ。「まあ、野球が仕事みたいなもんですから」とベテラン監督は笑う。そんな後藤監督が一番嬉しかったのが、一昨年のドラフト。教え子の望月 惇志投手(横浜創学館出身)が阪神に4位指名されたのだ。横浜南ボーイズ初のプロ選手誕生に、報われた思いをしたに違いない。

(取材・文=上原 伸一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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