5三振と攻略できなかった清宮が語った日大三・櫻井周斗のすごさ、そして櫻井が語った清宮の印象

櫻井周斗選手
2万人の観客が入った[stadium]明治神宮球場[/stadium]。注目の早稲田実業vs日大三の一戦は期待通りの熱戦となった。これほど集まったのはやはり早稲田実業のスラッガー・清宮幸太郎(関連記事)のパフォーマンスに注目しているからだろう。その注目された清宮の打席は、なんと5打席連続三振を喫してしまった。今回は清宮から5三振を奪った日大三・櫻井周斗について迫っていく。
投手転向を告げられたのは夏の大会直前だった
この日、強烈な印象を植え付けた櫻井。この選手が夏の大会直前まで野手だったのはご存じだろうか。今春の都大会、櫻井はセンターとして試合に出場していた選手だ。
櫻井は新座シニアの2年までは投手経験があるが、肘を痛めて、投手を諦めた。日大三の3年間では野手に専念するつもりだった。そんな櫻井だったが、この夏の大会前に投手陣の故障者が続出したことで、投手経験があり、さらに強肩の櫻井は投手転向を命じられたのだった。この夏は、最速143キロを計測し、手ごたえを掴んで、新チームへ突入。そして小倉監督から主将を任され、打順もクリーンナップと、チームの大黒柱となったのだ。
勝てる投手になるために意識をどう改めていったのだろうか。
「今までは140キロを出そうとか、とにかくすべて100の力で投げていました。だけどそうではなくて、コースへしっかりと投げることと腕を振ることを意識して、140キロは出なくても抑えられるように投げることを考えるようになりました」
その考えは、櫻井にはまった。球速表示を意識せず、しっかりと腕を振ることに意識を向けた結果、フォームのバランスも良くなり、球速が144キロまで伸びただけではなく、独学で身につけた縦横のスライダーも磨かれ、都大会では奪三振を量産。まず1回戦の駒大高戦で13奪三振、さらに準決勝の都立日野戦でも7回10奪三振の好投。そして打者としても都大会で2本塁打を放つなど、投打の大黒柱として活躍。確かな自信を得て、この決勝戦に臨んだのであった。
そして秋季東京都大会決勝の早稲田実業戦。清宮と野村大樹をどう抑えるかが、この試合のカギとみられていた。清宮の第1打席を迎えたときの心境を聞くと、「最初は打たれてしまうのかなと不安になっていたのですが、実際に顔を合わせると、妙に落ち着くことができました」と気負いする様子はなかった。
その清宮に対し、いきなり縦スライダーで空振り三振を打ち取る。これでいけると感じた櫻井は第2打席も同じく縦スライダーで空振り三振。第3打席以降もインコースでストレートを見せて最後は縦スラ、あるいはインコースのボールからストライクに食い込むスライダーを投げて三振に打ち取るなど、高度な配球を見せて清宮を手玉に取った。第3打席、第4打席で三振を奪ったスライダーについては、「絶対に打たれないだろうと確信できる最高のスライダーでした」と本人も自画自賛するほどの切れ味だった。
清宮選手が「櫻井のスライダーはあの投手以上」と語った投手は?
打ち取られた清宮は櫻井の縦スライダーについて、高校1年時のU-18ワールドカップ決勝で対戦したアメリカの投手以上か?と聞かれると、
「それ以上ですね」と答えた。
清宮と対戦したアメリカ代表のニコラス・プラットは、2015年 第27回 WBSC U-18ベースボールワールドカップで、優勝を目指して臨んだ日本代表の前に立ちふさがった左腕投手である。プラットは打者の手元でぐっと落ちるチェンジアップが武器の左腕。決勝戦で先発登板すると、ゲームメイクして世界一に貢献した。プラットのチェンジアップに多くの日本代表打者が苦しみ、対戦したオコエ瑠偉(現・東北楽天)が大会後のインタビューで「日本の投手にはいない変化球を投げる投手で、初めて見るような軌道でした。ヤマを張っても打てないんです」と語っていた。
清宮は櫻井のスライダーをそのプラット以上と感じたのだから、苦しんだのも無理がない。櫻井は清宮の第5打席も三振を奪って、「清宮からすべて三振を奪ったことは自信になります」と語ったが、2点リードで迎えた9回裏に同点に追いつかれ、野村大樹に初球の甘く入ったスライダーをとらえられ、サヨナラ本塁打。あと一歩のところで勝利が逃げてしまった。
この試合について櫻井は、「やっぱり球数が多かったですし、三振を取るだけでは勝ちきれない。そういうところに最後の詰めの甘さが出たと思います。よりコントロールを磨いていきたいと思っています」
この日の桜井は早稲田実業打線相手に、14奪三振。球数は164球。疲労はあったのかもしれない。だが要所でバッテリーミスで走者を進め、、守備のミスでなかなか思うようにアウトが取れず、リズムの良い投球ができていなかった。それが球数が多くなってしまった要因でもあった。
そして早稲田実業の和泉実監督は、対・櫻井について試合後にこう語っていた。
「打者の打ち方やタイプ、ボールの見え方によって櫻井君のスライダーを見極めができる、できない打者がいて、清宮の場合は見極めができなかった。かなり打ちにくいと感じていたと思います」と語るように、清宮には通用しても、サヨナラ本塁打を打った野村のようにスライダーを打った打者もいる。そういう打者に対して、ストレートとスライダー以外で攻められる武器も今後必要となるだろう。
日大三の主将である櫻井に、この日の決勝戦について総括してもらうと、しっかりとチームの課題を語ってくれた。
「早稲田実打線は僕が投げた甘いボールを見逃さなかったですし、しっかりと畳み込んでいける打線でした。逆にうちは打線になっていませんでした。5打点をあげた金成に助けてもらった試合でありますので、この冬は、勝ちきれるチームになるためにすべてにおいて鍛えこんでいきたいです」
非常に悔しい敗戦。サヨナラ本塁打を打たれたのは自分自身。それでも悔しさをこらえて、冷静に自分の投球、チームの課題を淡々と振り返る櫻井の立ち居振る舞いは立派なものであった。日大三の小倉 全由監督はこういう人間力の高さを見抜いて主将に抜擢したのだろう。投手として素晴らしい選手であるが、一主将としても素晴らしい選手である。試合には敗れたがこの試合の快投は神宮に来ていたファンに強烈な印象を与えた。
櫻井が来春または来夏で再び清宮と対峙することになったとき、どんな投手へ成長していくのか、楽しみでならない。
(文=河嶋宗一)