安全限界と有効限界
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。
甲子園出場を決めたチーム・選手の皆さんおめでとうございます。そして惜しくも地方大会で敗戦したチームは代替わりとなり、新しいチームで秋の大会を目指していることと思います。またそれぞれの目標に向かってケガなく元気にがんばってほしいと思います。さて今回は練習やトレーニングにおける「安全限界」と「有効限界」についてお話をしたいと思います。
運動量を決める3要素
安全限界や有効限界は個人差があることを理解しよう
野球が上手くなるために練習を行うことは大切なことですが、ただやみくもに練習量を増やしたり、過度な負荷をかけ続けたりすると、上手くなるための練習が逆にケガを誘発してしまうことになります。身体を動かすことには「種目」のほかに、「強度」「時間」「頻度」という3つの要素があり、これらの要素が全体的な運動量を判断する目安となります。安全限界とは、このレベルを超えたらケガをしてしまいますよという限界値であり、これは個人個人によって違いがあります。
新入生が上級生の練習についていけずにケガをしてしまうというのは、新入生と上級生の安全限界に差があることで起こります。
安全限界は筋力だけではなく、さまざまな体力要素が関連します。わかりやすいところではスタミナや敏捷性、柔軟性などでしょうか。またトレーニングにおいてはトレーンニング経験も大きな要因です。正しいフォームでトレーニングを行うことが出来るかどうか(=ケガをしないで筋力強化が出来るか)というのは、今までトレーニングをしたことのない初心者と、数年トレーニングを行ってきた選手とでは変わってくるからです。
練習量や強度が安全限界を超えてしまうと、特に体力的に弱い部分からケガをしやすくなります。例えばランニングにおける肉離れは、練習量や強度が選手の持つ筋力、柔軟性、筋持久力などを超えたときに起こりやすくなります。
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安全限界と有効限界の見極めをしっかり行おう
体力レベルの向上にはある程度、強い負荷が必要になる
一方、有効限界はトレーニング効果が得られる最低ラインの運動レベルを指します。トレーニングには過負荷の法則というものがあり、ある一定上の負荷で運動しなければ効果があらわれないという法則です。いつも同負荷のトレーニングを続けていると、体が負荷に適応してしまいトレーニング効果が薄くなってしまいます。体力レベルを上げたい、野球に活かせる体づくりをしたいという場合は、やはりある程度の負荷をかけて自分の身体を追い込んでいくことが不可欠なのです。
ただし自分の体力レベルより大きな負荷をかけ続けると、疲労が蓄積し、筋肉痛などが起こります。有効限界を超えて練習を行った後は、疲労回復を促すようにつとめること=セルフコンディショニングの実践をぜひ行いましょう。トレーニングなどで筋肉に大きな負荷がかかったのであれば、タンパク質を多く含む食品をとり、成長ホルモンを促すために十分な睡眠をとるようにします。成長ホルモンは傷んだ筋線維を修復させるために重要な役割を果たすため、練習やトレーニングと同様に栄養、休養を大切にしましょう。
指導する立場としては有効限界を超え、かつ、安全限界を超えないレベルに練習内容や強度、スケジュールなどを管理することが理想的です。ミスをして懲罰目的で練習量を増やしてしまうと、知らず知らずのうちに安全限界を超えてしまうことがあるかもしれません。ケガをしてしまうと今まで積み重ねてきた体力レベルが一気に下がってしまい、競技復帰までに時間を要することになります。有効限界と安全限界のさじ加減はむずかしいところですが、選手の動きをよく観察しながら、練習のマネジメントを行えるように考慮していただければと思います。
●運動量を決める3要素は「強度」「時間」「頻度」
●安全限界とはケガを誘発しない限界値
●有効限界とはトレーニング効果が得られる最低ラインの運動レベル
●有効限界を超え、かつ、安全限界を超えない練習が理想的
●体力レベルは個人個人に差があることを理解する
(文=西村 典子)
次回コラム公開は8月15日を予定しております。
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