Interview

上野 翔太郎投手(中京大中京―駒澤大学) 「満身創痍の中でも快投ができたコンディショニング術」

2016.07.05

 昨年まで愛知の名門・中京大中京のエースとして活躍し、現在は駒澤大でプレーしている上野 翔太郎投手。昨夏の甲子園では3試合で完投し、U-18日本代表にも選出されるなど、ハードなスケジュールとなった激動の夏をどのように乗り切ったのだろうか?

すでに中学生のころからコンディショニングについて意識をしていた

上腕二頭筋を伸ばすストレッチを行う上野 翔太郎投手

 小学校3年生からピッチャーをはじめた上野投手。コンディショニングを意識しはじめたのは中学生の頃からだという。
「中学時代はシニアに所属していて土日に活動していたのですが、土曜日に投げると翌日の日曜日は腕に疲労がたまっていて投げられないことがよくあったんです。特に上腕二頭筋の内側にダメージが残っていることが多かったので、自分でしっかりと揉んだり、壁を使って伸ばすストレッチをしたりしてケアをしました」

 高校に入ってからは一週間ごとにスケジュールを組んでおり、体調によって2つのパターンを使い分けていた。
中京大中京では毎週月曜に一週間分の練習メニューを提出していました。だいたい土日は試合をして月曜はオフだったんですが、その時の肩や腕の疲れ具合をみて問題がないようだったら、火曜は80球、水曜は100球を投げ込んで、木曜は軽くキャッチボールかノーススロー。そして金曜に30球くらい投げて、土日に試合をしていました。

 疲れが残っているようなら、火曜はキャッチボールだけにして水曜に100~120球の投げ込み。あとは同じで、木曜はキャッチボールかノーススロー。金曜に30球くらい投げて、土日に試合というメニューでした。また、大会が近くなってきたら、水曜と金曜のピッチングはバッターに対して投げて実戦に対する感覚を養っていました」

 1日のタイムスケジュールも、毎日、ほぼ同じように過ごしていた。
「毎朝6時に起床、7時には学校に着いて7時30分から朝練。大会で9時から試合があるときだけ5時半に起きていましたが、ほぼ同じスケジュールでした。それから朝食は、母が作ってくれた大きめの明太子のおにぎり1個とレタスを挟んだタマゴサンドを4つ(食パン4枚分)を学校で食べていました。具材は好物だったので、いつも一緒でしたね」

 食事には普段から気を遣っていたという。
「栄養学の本を買って、バスで移動するときなどに読んでいました。食事をする時はいつも頭の片隅に置いていて、バイキングでは栄養のバランスを考え、ひと皿、全部サラダをとったりしていました」

 このようにして最後の夏を迎えた上野投手。しかし、愛知大会を目前に控え、思わぬアクシデントに見舞われてしまう。
「夏の大会の1~2週間ほど前の練習で最後の追い込みをかけたんですが、260~270球を投げ込んで、その後150mくらいの距離を20本、タイムを設定して走ったところ、腰に力を入れると痛みが走るようになってしまったんです」

⇒次のページ:腰の痛みを抱えながらも臨んだ愛知大会

[page_break:腰の痛みを抱えながらも臨んだ愛知大会]

腰の痛みを抱えながらも臨んだ愛知大会

上野 翔太郎選手(駒澤大学)

 それからは早期復帰を目指し、やれることは何でもやった。
「練習では腰に負担がかからない軽めのウエイトトレーニングをし、指先の感覚を忘れないようにキャッチボールをやっていました。練習後は毎日、接骨院に通って治療をしてもらい、自宅に帰ってからも1時間くらいゆっくりとお風呂に浸かって、さらに1時間くらいかけて腰などを伸ばすストレッチをしていました」

 こうして、なんとかピッチングができるようになった上野投手。愛知大会の初登板となった4回戦の西春戦はコルセットを付けての登板だったというが、その後は腰の状態も上向きになり、準々決勝から決勝までは3連投もこなしてみせた。

「試合が終わったら接骨院に行って点滴を打ち、全身をマッサージしてもらいました。家でもストレッチをして、とにかく疲労を翌日まで残さないように心掛けていたおかげで、準々決勝からの3日間は、むしろ日に日に体調が良くなっていった感じです」

 また、夏の大会では暑さ対策も大きなポイント。元々、暑いのが得意ではない上野投手は、大会前から準備をしていた。

「あまり関係ないという話もあって、気持ち的なことかもしれませんが、なるべくクーラーは使わないようにしていました。日中は日陰で過ごし、家ではできるだけ扇風機を使って、暑さに体を慣れさせるようにしていたんです。寝る時もクーラーは消すか1時間ほどで切れるようにタイマーを設定し、手足を冷やさないためにちゃんと布団をかけて就寝。寝つきは良いほうなので夜中に起きてしまうことはあまりなく、7時間は睡眠時間を確保していました」

 もちろん試合中も余念はない。
「試合の1時間~30分前にエネルギーを補給できるゼリーやシリアルバーを食べ、試合ではイニングが終わるごとにスポーツドリンクを少しずつこまめに飲みます。そして、5回のグラウンド整備の時間には、肉体の疲労を回復させるのに効率が良い別のドリンクを飲むのがルーティンになっていました。愛知の夏は気温が35度を超えることも多いですし、風があまり吹かないので、とても暑いんです。でも、その愛知大会を乗り切れたので、甲子園では暑さがそれほど苦になりませんでした」

⇒次のページ:U-18の大会中は、自分の部屋よりも、トレーナー室にいる方が長かった

[page_break:U-18の大会中は、自分の部屋よりも、トレーナー室にいる方が長かった]

 暑さを克服した上野投手は甲子園で躍動。1回戦岐阜城北戦では、最後のバッターから三振を奪ったボールが自己最速の144キロを記録。惜しくもベスト16で敗れたものの、26回1/3を投げて防御率1.03と好投し、一躍、注目を集める存在となった。

「記憶に残っている場面はいくつかあるのですが、なかでも3回戦関東一戦、6回裏一死二塁のピンチでオコエ 瑠偉(楽天・関連記事から三振を奪った場面はインコースを攻めて、最後はチェンジアップで空振りが取れ、会心の投球ができたと思います。甲子園では、自分でもどんどん成長しているのを実感しましたし、これまでの野球人生の中で一番の経験ができました」

U-18の大会中は、自分の部屋よりも、トレーナー室にいる方が長かった

U-18ベースボールワールドカップ vsアメリカ戦で力投する上野 翔太郎投手

 さらに、大会後はU-18日本代表にも選ばれた。
「実は、その頃は右腕に力が入らず、肩の高さまで上げられない状態でした。でも、『どうしても行きたい』という気持ちがあったので、事情を話したうえで参加させてもらったんです。U-18の合宿では自分の部屋よりもトレーナー室にいる時間の方が長いんじゃないかというような状況だったのですが、投げても痛くないフォームをなんとか探して、試合に出られるようになりました。

 そして、登板する日はまず走った後、30分くらいかけて肩周りをほぐしていって、ゆっくりとキャッチボール。それからキャッチャーを立たせたまま投げ込みをして90%くらいの力で投げられるようになったら座らせ、全部で30球を投げるという調整をしていました」

 そのような苦しい状況であったにも関わらず、U-18ベースボールワールドカップではチーム開幕戦のブラジル戦とグループBを全勝で通過した韓国戦に先発し2勝。決勝のアメリカ戦では5回から救援で登板し、最終的には全3試合で18回を投げ無失点。大会の最優秀防御率のタイトルを取るなど見事なピッチングを見せた。

「U-18では両コーナーにしっかりと投げ分け、変化球を使って打者と駆け引きをしながらバットの芯に当てさせないという自分の投球スタイルが見つけられたと思っています。今後はその持ち味を伸ばし、短所は補っていって、高校ではできなかった日本一を大学では目指したいです。そして、もう一度、日本代表のユニフォームを着て、今度はアメリカに勝ちたいですね」

 昨夏の経験は上野投手にとって大きな財産になっているのは間違いない。そして、その貴重な経験を得ることができたのは、細部にわたるコンディショニングがあったからに他ならないだろう。

(取材・文=大平 明

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【7月特集】「夏を制するためのコンディショニング術」

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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