智辯学園vs高松商
奏功した智辯学園の「好球必打」
智辯学園、サヨナラで初優勝決める!
智辯学園の先発、村上頌樹(3年)の腕の振りがこの決勝でも目立った。ストレートは130キロ台中盤から後半が多いが、この強い腕の振りでカーブ、スライダー、チェンジアップを投げ分けるところに村上の持ち味がある。
序盤は制球が安定しなかった。1~3回にストライクが先行したのは12人の打者のうち2人だけ。あとはボールが先行する苦しい立ち上がりだった。1回は1番の安西翼(3年)に二塁打を当たれ、3回は2死から2番の荒内俊輔(3年)に二塁打を打たれるが、そのつど後続を断ち、ピンチを脱した。高松商から見れば、走者を得点圏に置いた場面で中軸が打てなかったことが敗因として挙げられる。
それにしても村上はよかった。9回にストレートが142キロを計測するが、これは今選抜での自己最速。この村上を鼓舞するように捕手の岡澤智基(3年)は捕球後すぐにボールを返して投球のリズムを助ける。岡澤自身の二塁スローイングも気合が入り、イニング間では3回も1.9秒台を計測した。機動力自慢の高松商が盗塁を企図したのはわずか1回。いかに岡澤の肩が脅威になったかわかる。
過去5試合の村上のピッチングを振り返ると、47イニング投げて自責点はわずか2、防御率は0.38とスキがなかった。大会前には好投手として名前が挙がらず、私も取り上げなかったが、前肩の早い開きがなく、下半身でリードする理想的な投球フォームを見る限り、体幹の強化が進めばドラフト候補としてもっと名前が挙がってくるだろう。
智辯学園の攻撃に目を転じれば、序盤はフライアウトが多かった。3回までの9アウト中、フライアウトは7個。これが4回以降になると、ゴロが多くなる。高松商の先発、浦大輝(3年)の緩急に対してコンパクトなスイングで対応しようという指示の徹底ぶりがうかがえる。
高松商打線では1番安西が重要な役割を果たした。いずれも先頭打者として1回は二塁打、8回は内野安打、10回はライト前ヒットを放ち、チャンスメークを実践。8回の内野安打(一塁到達3.95秒)のときのジャッジはかなり微妙で、10回の右前打のあとの二盗成功もジャッジは微妙だった。智辯学園ディフェンス陣に喧嘩を売るような迫力ある走りは今大会ナンバーワンと言っても過言ではない。12回まで延長が続けば、2人目の打者として登場したので何かが起こると思っていたが、その前に試合が終わってしまったのは非常に残念だ。
サヨナラの場面を振り返れば、智辯学園の好球必打が功を奏したと言っていい。5回まで、同校のストライクの見逃し率は23.3%と非常に高く、狙い球が絞れない様子がうかがわれる。6回以降は18.5%まで下がり、試合が決まった11回裏は4番福元悠真(2年)、5番高橋直暉(3年)、6番村上がいずれも初球を打っている。9回までの見逃しの多さを考えれば、高松商の浦には想定外のバッティングだっただろう。
私が全力疾走(俊足)の基準にする「打者走者の一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達11秒未満」をこの試合でクリアしたのは高松商が3人6回、智辯学園が4人4回。例年、試合が立て込んでくるベスト8以降はタイムが遅くなるのが普通だが、両校は変わらず全力疾走を実践、見る者に爽快な気分を味合わせてくれた。
(文=小関順二)
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