高松商vs創志学園
投げっぷりが良い高田萌生の心理を徹底的についた高松商の積極的バッティング
3回表 高松商二死満塁、美濃が左越えに走者一掃の先制二塁打を放つ
昨年秋に行われた明治神宮大会の覇者、高松商が大会ナンバーワン右腕、創志学園の高田 萌生(3年)をどう攻略するかに注目が集まった試合、高松商が3回表、打者10人を送る猛攻で大量5点を奪い、試合を決めた。
髙田は1回戦に比べてストレートが走り、万全の出来を思わせた。2番・荒内 俊輔(3年)への1、2球目には146キロのストレートで2ストライクに追い込み、3球目のスライダーでピッチャーゴロに打ち取るなど絶好の立ち上がりを見せる。
それが3回になってボールが先行するようになる。際どいコースがボールとジャッジされることが多くなったのだ。高松商の長尾 健司監督は「相手はナンバーワンピッチャー。チャンスは少ない」と髙田に敬意を表しつつ、「序盤にチャンスがある。変化球が入っていないから」とわずかなスキを見逃さなかった。
高松商は3回、先頭の9番・山下 樹(3年)が全球ストレートの3球目を内野安打すると、1番・安西 翼(3年)が全球ストレートの3球目を送りバント失敗して走者は依然として一塁のまま。2番荒内はストレート2球のあとのスライダーを内野安打にして一、三塁。3番・米麦 圭造(3年)は初球ストレートを打って投手ゴロ、三塁走者が本塁憤死して走者は一、二塁になる。
続く4番・植田 響介(3年)がスライダーをレフト前に弾き返して満塁にしたあと、5番・美濃 晃成(3年)が3球目の147キロストレートを捉えると打球はレフトの頭を超える二塁打となり塁上の走者がすべて生還、さらに6番・植田 理久都(2年)が5球目の140キロストレートを左中間スタンドに放り込み、あっという間に5対0のスコアになった。
変化球を取ってくれないからストレートを多投する、それは初戦の東海大甲府戦とは真逆の内容である。そしてストレートの走りがくらべものにならないくらいよかったので、髙田の中にストレート勝負にいきたい心理が芽生えた。そのあたりの心理面は相手ベンチに筒抜けだったようだ。
高松商の先発、浦 大輝(3年)は髙田とは対照的にストライクをどんどん投げ込んできた。5番・藤瀬 幹英(3年)などは「内角が多かったのでベースから離れて立った」という、それくらい攻撃的なピッチングが目立った。それに対して創志学園打線は待球作戦に出た。いなべ総合戦の浦が外角主体、変化球主体のピッチングだったので、それを予測した上での対応策だ。それがことごとく裏目に出た。
創志学園打線の5回までのストライクの見逃し率(全投球に占めるストライクの割合)は22.2%。高松商の15.5%、第1試合の勝者、秀岳館の8.2%に比べて高いことがわかる。この待球作戦を尻目に浦はストライクをどんどん投げ込んでピッチャー優位のカウントに追い込み、終わってみれば9回完投して球数は93球ですんだ。逆に創志学園の髙田は完投して175球を投げた。
創志学園の長澤 宏行監督は「行けると思って雑になってしまった」と自らの采配を悔やむ。行けると思った背景には髙田の絶好調ぶりが見逃せない。私はまだこの日で4試合しか髙田の登板を見ていないが、いまだかつてこれほど投げっぷりのいい髙田を見たことがない。150球を超えた8回表には荒内の3、4球目にストレートが149キロを計測、9回の代打・吉田 啓瑚(3年)の2球目、つまりこの日の173球目には146キロが出た。無尽蔵のスタミナと馬力の強さ。
この髙田のピッチングを見て、長澤監督は攻撃の采配が雑になったと悔やむのだ。高松商の印象を聞かれると、「個の力で負けていた。自分で判断できる選手が揃っていた」と素直に高松商の強さを認めていた。
高松商の準々決勝の相手は敦賀気比を破った長崎・長崎海星。敦賀気比戦で全力疾走した長崎海星の選手は6人(8回)で、これは私が計測した中ではここまでの最高。対する高松商には安西 翼(3年)というスピードスターがいる。安西が3回に二盗したときのタイムはやはり今大会最速の3.15秒。走り合いが期待できそうだ。
(文=小関順二)
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