Column

秀岳館高等学校(熊本)

2016.01.30

 2003年以来、13年ぶりの選抜出場を果たした秀岳館。その秀岳館を強豪に育て上げたのが鍛治舎 巧監督だ。枚方ボーイズを強豪に育て上げ、そしてNHKの高校野球解説では分かりやすく、選手に愛情溢れる解説で人気を博した鍛治舎監督の就任が大きく話題になった事を覚えている方も多いだろう。

就任からわずか1年半で九州大会王者となったが、復活するまでにはどんな道のりがあったのだろうか。そして、この春にかける意気込みを伺った。

「3年以内に日本一」を掲げ、練習環境・練習内容を大きく変えた

選手たちに指示を送る鍛治舎 巧監督(秀岳館高等学校)

 2014年4月に秀岳館の監督に就任した鍛治舎監督。まず鍛治舎監督は「3年以内に日本一」という目標を掲げた。これほど高い目標を掲げた理由は何だろうか。
「あの時のチーム状態からすれば、まさに雲をつかむような話ですね。でも夢を掲げない限り、何も始まらないですから」と言い切る鍛治舎監督。

 枚方ボーイズ時代、鍛治舎監督は多大な実績を残してきた。その年の中学硬式ナンバーワンを競うジャイアンツカップ(全日本中学野球選手権大会)で3度の優勝に導き、さらには枚方ボーイズ監督就任最終年の2013年はジャイアンツカップ優勝含めて中学硬式5冠を達成している。中学球界で常に頂点を目指し、そしてその目標を実現させてきた。

 舞台を高校野球に移しても、日本一という目標を掲げるのは当然だったともいえる。鍛治舎監督は日本一へ向け、まず練習環境・練習内容を変えた。就任当時、目についたことの1つは、全員が同じ練習をしていることだったからだ。
「私が就任した時、3学年で部員が141人いて、一律で同じ練習をしていました。確かに盛り上がりますが、練習を見ていくと、内外野の連携を鍛える練習が疎かになっていました。野球は連携がソツなくできるかで勝敗が分かれますからね。このままでは効率が悪いので、A、B、Cとチームを分けました。そして練習スペースを確保するために、野球グラウンドの横に鳥かごを作りましたね」

 練習できるスペースの確保だけではない。しっかりと土台を作るという意味で、トレーニングの量を多くした。12月特集でも紹介したが、秀岳館はポイント制ロングティーで長打力を養い、内外角を強く振るためのトレーニングとして鳥かごで4種類のティー打撃を行っている。またウエイトトレーニングは1年通して行うようになり、1日にお米を2キロ食べるなど、トレーニングは一気にハードになった。

 そして同時に意識改革も行った。雨の日でも練習ができるのあれば、グラウンドで練習した。

「雨が降ったらグラウンドで練習することはないチームでした。でも甲子園では雨の日でも試合をしますからね。もちろんグラウンドで練習させました」

 さらに自分の考えで動けて、反省をして、課題に基づいて行動ができる選手になるために、練習後のミーティングでは主将、投手陣、内野手、外野手など各ポジションのリーダーがそれぞれの練習の振り返り、反省を選手全員、指導者陣の前で発表。しっかりと答えて、自己主張できるようにしていく。
こうして肉体面、技術面、精神面を徹底的に鍛えていた。

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転機となったのは昨夏の大阪桐蔭・龍谷大平安との練習試合

【九州大会決勝】優勝を決め、ダイヤモンドを一周するナイン(秀岳館高等学校)

 この取り組みがようやく実を結んだのが昨秋。鍛治舎監督とともに入学した選手たちが主力選手となった年だ。彼らは志も、意識も高い選手ばかりだった。
「僕は本気で日本一になるためにここ(秀岳館)に来ました」と語るのは主将の九鬼隆平2015年インタビューだ。小学校6年の時にオリックスジュニアでジュニアトーナメントに出場。さらに枚方ボーイズでも正捕手として活躍した強肩捕手。そして5冠を達成したメンバーでもある。九鬼だけではなく、今の主力選手は鍛治舎監督を慕って入学した選手たちだ。彼らには日本一という言葉に戸惑いはなかったようだ。

「この代は本気で日本一になりたいと思って入学してきた選手たち。今までだと強豪と練習試合をすると、名前負けをして力を出せずにいましたが、今年の選手たちは全くそんなことはみられなかった」

 昨夏、鍛治舎監督は龍谷大平安大阪桐蔭に声をかけて練習試合を行った。龍谷大平安には2対4で負けたが、大阪桐蔭戦ではエース・高山優希を打ち崩し、8対4で勝利した。その後も、甲子園常連校、名門校といったネームバリューのある学校と対戦しても堂々と戦う姿を見て、鍛治舎監督は戦えるという自信がついた。

 それは選手たち自身も実感していた。主将の九鬼が「大阪桐蔭に勝ったことで、普段通りの実力を発揮できるようになってきました」と語るように、秀岳館は危なげない戦いで秋の熊本県大会優勝を決めると、九州大会でも、「九州大会ではよくみんなが打っていました。この時が打撃のピークでしたね」と鍛治舎監督が振り返るように、4試合で31得点を記録。主砲の九鬼も2本塁打を記録するなど圧巻の打撃で勝ち上がった。

 明治神宮大会初戦の相手は東海大会王者の東邦に決まり、プロ注目右腕の藤嶋健人2016年インタビューとの対決となり、注目が集まった。鍛治舎監督は藤嶋を警戒し、マシンを150キロに設定。そして藤嶋はスライダーのような曲りをするカットボールも得意とする。スライダーも125キロに設定し、本番まで打ち込んだ。

 そして迎えた東邦戦だったが、藤嶋の投球は秀岳館が描いていたイメージとは異なるものだった。
「藤嶋君は球速も146キロ、カットボールもエグイ曲りをすると聞いていたのですが、球速は140キロ弱で、変化球が中心。イメージとは違う投球でしたので、選手たちは戸惑いがあったのかもしれません」

 それでも打線は藤嶋から9安打を放つ。そして4番九鬼が適時二塁打を打つなど主力打者がしっかりと活躍を見せたが、8回裏に藤嶋に2ランを打たれて敗れた。鍛治舎監督はこの試合について、
「打線は九州大会をピークに少し落ちていた感じでしたが、9安打も打ちましたし、あと1本が出ていれば、勝っていた試合でした。これは選抜へ向けての前哨戦ということで、良い経験になったと思います」と振り返った。

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明治神宮大会で感じた課題を糧として

九鬼 隆平主将(秀岳館高等学校)

 明治神宮大会で全国レベルのチームと対戦して、いろいろな面で自分たちの現在のレベルが見えてきた。鍛治舎監督はNHKの高校野球解説を25年も務めていることもあって、「どこまでいけば、甲子園で勝てるレベル、全国制覇できるレベルなのかは誰よりも理解しているつもりです」と自負するが、今年のチームについては、攻撃力を高く評価している。

「クリーンナップを打つ九鬼が注目されますが、打てる打者はたくさんいます。3番を打つ木本凌雅もかなりの高打率を残していますし、7番を打った天本昂佑は、夏では5番打者でしたからね。また1番を打つ松尾大河も、神宮大会ではよくなかったのですが、本当ならばもっと打てる選手ですし、打線は下位まで穴が少なく、全国レベルの打線といえるでしょう。また守備、走塁のレベルも高いといえます」

 打撃だけではなく守備、走塁は全国で戦えるレベルにあると評する。一方、課題だと語ったのが投手陣だ。今年は有村大誠堀江航平中井 雄亮など多くの好投手を揃えるが、「今のままだと全国1回戦~2回戦で敗れてしまうでしょうね。もっとレベルアップしないと」と厳しいコメント。

 ただそれについてはエースの有村も自覚している様子だった。
「全国のレベルを実感して、自分の実力不足を実感しました。ストレートのスピード、スタミナなど諸々伸ばしていかないと厳しいと思います」と語るように、有村は今の最速142キロから10キロアップの152キロ、そして堀江も145キロとという数字的な目標を掲げ、厳しい冬のトレーニングに取り組んでいる。彼らが掲げた目標はかなり高いハードルだが、それぐらいを目標に取り組まなければ全国では戦えないと自覚しているのだろう。

 秀岳館は年末年始に宮崎合宿を行った。鍛治舎監督は「まだ未熟の身、休んでいられないよ」と話していたように、今年は掲げた目標「3年以内に日本一」の最終年になる。それだけ今年にかける思いは強い。

 開催まで2か月を切った選抜について、鍛治舎監督は「決まったとなればテンションを上げてやっていきたいですね」と意気を高めている様子。主将の九鬼も、「自分たちはまだまだなので休みなく鍛えていきたい」と語る。また九鬼は明治神宮大会で藤嶋と対戦した経験から、対応力を課題に挙げていた。
「藤嶋投手から9安打を打ちましたが、球威、変化球のレベルの高さは確かなものがありました。甲子園にいけば、ああいう投手は当たり前。140キロ台にも振り負けないスイングスピードはもちろんですが、変化球をしっかりと見極め打ち返せる対応力をしっかりと磨いて、春に臨んでいければと思います」

 敗れはしたが、東邦と対戦できたことには大きな意味があった。体力、技術、精神力のすべてが合致し、鍛治舎監督が「全国制覇を狙えるチームになってきた」と言わしめるようなチームに成長を遂げることができるか。

だがここまで急速的な成長をもたらしたのは、合理的かつ豊富な練習メニュー、練習量だけではない。絶対に日本一になりたいという強い気持ちと、強豪校に対しても気後れしない、そのメンタリティがあったからといえる。

 2年前まではまさに雲をつかむような話だった全国制覇。それが今では、頂上を目指せるスタートラインに立ったのである。今まで積み重ねてきたものを発揮し、その勢いのまま熊本県では1958年濟々黌以来となる頂点を狙っていくだけだ。

(取材・写真:河嶋 宗一


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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