試合レポート

花咲徳栄vs松山

2015.07.26

番狂わせモードの嫌な空気一掃、花咲徳栄が先制攻撃で一気に決める

  前の試合で、ノーシードの公立校で昨秋も今春も一次予選で敗退して、県大会進出も果たしていなかった白岡が、センバツベスト4で関東大会も制した浦和学院を下すという番狂わせがあって、球場全体が不思議な空気で包まれていた。その余韻を残しながらのプレーボールとなった試合、甲子園常連校に成長してきた花咲徳栄にとっては、いささか嫌な空気が流れていたのではないだろうか。

 対する埼玉松山は、公立の雄といってもいい存在で、旧制中学時代からの歴史を背負う名門校である。ことに、その応援団の盛り上がりぶりは、県内はもちろんのこと、全国の高校野球ファンの中でも話題になるくらいの存在なのだ。

 全国的に見ても、公立校で男子校と女子校とが存在しているのは数が少なくなってきている。いわゆる、旧制中学の流れを汲みながら、男子校として残っているのは、埼玉県と群馬県、栃木県の一部だけである。埼玉松山は、そんな中の一つで、県内でも人気校である。ことに、その応援団のバンカラスタイルは、「松山の応援を見るのを楽しみにしている」という人もいるくらいである。

 そんな埼玉松山の応援席は、準決勝進出でさらに盛り上がっていた。それを、前の試合での番狂わせモードが後押しするのか…、とも思われた。ところが、花咲徳栄はそんな空気を一掃する序盤の猛攻で、一気に試合を決めていった。

 初回、花咲徳栄は1番久々宇君が四球で出ると、バントは失敗するが岡崎君が死球で一、二塁。4番大瀧君が期待に応えて右前打してあっさりと1点を先取。なおも、里見君も三遊間を破るタイムリー安打。楠本君も一、二塁間を破り、埼玉松山に送球ミスもあってこの回4点が入った。

 花咲徳栄の勢いは、これで止まらなかった。2回にも、一死二、三塁から岡崎君が右越三塁打して2者を帰す。これで、埼玉松山ベンチの瀧島 達也監督は、この大会ここまでほとんど一人で踏ん張ってきた北島君を諦めて、2年生の金子君を送り出さざるを得なくなった。北島君は、調子が云々というよりも、ここまで投げてきて力尽きたという感じだったのではないだろうか。その代わり端に、暴投でさらに1点が入り、花咲徳栄は大量7点をリードした。3回にも、9番上村君や岡崎君のタイムリー打で、さらに3点を追加して、花咲徳栄は球場内に漂っていた番狂わせモードの空気を一掃したばかりではなく、「さすが花咲徳栄」と思わせる空気を作っていった。

 それでも、埼玉松山も反撃して、3回には一死から4番西山君が四球で出ると、川崎君以下、鈴木 武虎君、主将の和木君と3連打するなどで2点を返した。しかし、花咲徳栄は4回には7番笹谷君のタイムリー、6回にも二死一三塁から、代打青木君がタイムリー安打を放って10点差として、その裏には二番手としてマウンドに立った高橋昂君が無死満塁とピンチを作りながらも0に抑えて切り抜けた。

 結果として、6回コールドゲームだったが、内容はそれなりにある試合だった。また、どれだけリードされても、ひたすら応援し続ける埼玉松山の応援スタンドも見事だった。まさに、立錐の余地もないくらいに一塁側スタンドは埋め尽くされていたのだが、そこから声援が途切れることがなかった。また、3回に2点を返した時には、まさにスタンドを揺るがす大応援で、応援歌「空は晴れたり」を歌いつくされた。こういうシーンもまた、高校野球文化であると改めて思わせるものでもあった。そして、こうした支えがあったことが、今年高校野球100年を迎えたということの背景にあるのだということもまた、再認識してほしいという思いでもある。また、余談ではあるが花咲徳栄のグラウンドは、今年早々に公開された高校野球をテーマとした映画『アゲイン~28年目の甲子園』(原作・重松清/監督・大森寿美男)のロケ地として使用されていた。花咲徳栄も、甲子園AGEINへあと一つとなった。

(文=手束仁)


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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