Column

沖縄尚学高等学校(沖縄)【後編】

2015.06.16

「最後の夏に来る『その時』への備え方」

 夏の全国高校野球選手権沖縄大会で、2012年から3年連続で決勝へ進出。さらに現在2連覇中でV3達成となると、1988年の沖縄水産以来27年振りの快挙となる沖縄尚学。後編では夏の強さにつながるトレーニングの一端を比嘉 公也監督と、選手を代表して中村 将己主将(3年)、4番の神里 廣之介選手(3年)に聞いてきました。

「ワンチャンス」をものにする練習

練習風景(沖縄尚学高等学校)

 前編でも触れたように、春の段階までは試行錯誤を繰り返す沖縄尚学。ただ、最後の夏は絶対に逃してはいけないワンチャンスを確実にモノにしている。
では、その原動力となる集中力を高める練習とはどのようなものがあるのだろうか?今年のキーワードは「追い込まれた状況からのシートバッティング」である。

 比嘉監督がこのヒントを得たのは、大阪桐蔭・西谷 浩一監督との会話を通じてであった。西谷監督はその時、こんな話をした。
「フリーバッティングをしない日はあっても、シートバッティングをしない日はないんだよ」

 大阪桐蔭の場合、1ボール2ストライクといったような、打者が不利なカウントからシートバッティングを始める。すなわち、より追い込まれた状況から結果を出していけるよう、精神も技術も高めていくのだ。
そこで比嘉監督は今年のチームにこのシートバッティング形式を導入することにした。もちろん、ここに至ったのは春までの蓄積を元にしたチームスタイル決定があったからこそである。

「毎年同じことをやっていてもダメだと思う。毎年チームのカラーは変わるのだから。今年のチームならここが苦手、だけどここなら何とかなると判断したならば、ナインと会話を重ねて。今年は『守り抜く野球とワンチャンスをモノにする野球』をしていこうと話をしました。そして今は、そのための練習を積むだけです」

 4季連続甲子園出場を果たしてきた山城大智(現:亜細亜大1年)、諸見里 匠(現:國學院大2年)や赤嶺 謙(現:亜細亜大1年)らのチームと、現在のチームは違う。

「山城のように三振を取れるピッチャーが今年はいない。ならば、投手はここぞという場面に変化球でストライクを取れ、狙い通りのゴロを打たせられるように。キャッチャーなら体で止めることと盗塁を阻止すること。
そして野手なら絶対に併殺を完成させること。外野なら三塁や本塁で刺す。今年は打ち勝てるチームではないということを、みんなが納得して受け入れることが、夏に勝つために必要なのです」

 もちろん冬の伝統的な練習は全てやる。が、に出た結果や内容を見定め、成長度を冷静に判断しスタイルを決めることは、夏に勝つための必須項目である。

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 夏に強いチームから学ぶ
僕らの熱い夏 2015
第97回全国高等学校野球選手権大会
【ひとまとめ】2015年の全国各地の高校野球を占う!
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夏の連戦を乗り切る疲労回復策

中村 将己選手(沖縄尚学高等学校)

 こうしてスタイルを定め、気持ちを整えたとしても、夏特有の連戦対策がなければ力を発揮することはできない。いわゆる「疲労回復策」だ。

「一番大切なのは食事ですね。自分はよく足を攣ってしまっていたので、ベンチでも黒糖や塩分を摂ることは意識します」
主将・中村 将己(3年)も話すように選手間の意識はさすがである。ただ、一筋縄ではいかないものも。

沖縄尚学ではアミノ酸とかサプリも摂取していきます。そうするとある程度の肉体的な疲れは取れるんです。ですが……」

 指揮官が指摘する「肉体的疲労」と同時に除去しなければいけないもの。それは誰にでも訪れるスランプに起因する「精神的疲労」である。

 特に最後の夏を迎える3年生の場合、焦りが焦りを呼ぶパターンは決して少なくない。その時、比嘉 公也監督は落ち着いて彼らにこう悟らせる。

「お前、そのスランプって初めてか?違うだろ。これまでも同じ経験をしてきたじゃないか」

 実は昨年4番を打っていた安里 健(現:亜細亜大1年)が、まさにそうだった。不振が続いた序盤戦「次はメンバーから外される」そう思っているのではないかなと感じた比嘉監督は、寮にいる安里に電話を入れる。

「明日もあるからな。ちゃんと素振りしておけよ」
これが安里を救い、昨夏決勝戦では6番起用で貴重な同点打。4季連続甲子園出場への道を拓いた。

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[page_break:プレッシャーの中で「夏の強さ」を発揮する]

プレッシャーの中で「夏の強さ」を発揮する


  

 いよいよ開幕間近に迫った沖縄大会。先日の春季大会嘉手納戦で12得点、3位決定戦でも8得点を記録し、最後の夏のシード権を得た沖縄尚学の選手たちは、歴代の選手たちも味わってきたプレッシャーを感じつつ、3連覇への気持ちを高めている。

「練習の中での、凄い緊張感とプレッシャーを積み重ねること。それを、3年間過ごしていくことで生まれる強さを感じます」(神里 廣之介・3年)

「ここまで苦しんで結果を残した先輩たち。それを思うと結果を残していない自分たちはまだ、苦しんでいないのではないかと。もっと行けるのではないかなと思っています」(主将・中村将己

 そして「ここでのプレッシャーに潰されるようなら、最後の夏にここ一番という場面がやってきたときのプレッシャーに勝てない」という信念の下、グラウンドでいつも伊志嶺 大吾副部長と共に容赦ないプレッシャーを浴びせる比嘉 公也監督。最後に夏への意気込みをこう話してくれた。

「僕らは打てないという現実を抱えたまま、最後の夏へ突入していくしかない。だったら守り抜けば僅差でも勝てるという安心感を与えておくことは、メンタルの強さにも繋がる。
もうこれ以下は無い。そのくらい打てない。もし打てたら儲けもの、だから守り負けだけはしないぞ、くらいの気持ちで臨みたいですね」

 沖縄尚学3連覇をかけた夏の沖縄大会は6月20日(土)開幕だ。

(取材・写真=當山雅通

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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