市立松戸高等学校(千葉)
この春、千葉県大会では1回戦で敬愛学園を下して、2回戦では甲子園帰りの木更津総合と当たった市立松戸は、県内一の安定感があるといわれている相手に対して、立ち上がりにミスで失点しながらも、その後を粘り強く原島 康平投手が投げて、堂々とした戦いぶりで下した。その勢いで、3回戦と準々決勝は1点差の厳しい試合だったものの、接戦を粘り切ってベスト4にまで進出した。関東大会進出は逃したが、周囲に「今年の市立松戸は要注意」と感じさせるのに十分の活躍だった。
春の県大会ベスト4を経て夏に挑む
「たまたま、偶然がうまく重なって、春の結果ということになったのでしょうけれども、夏は偶然では勝てません。ですから、春の結果は自信を持つというよりも、私の方では一度ぐちゃぐちゃに潰してしまっています。ドミノ崩しじゃないですけれども、一つ崩れたらガタガタといってしまいそうなところを何とかこらえられていただけですからね。ですから、今は改めて作り直していかないと…、というところですね。
ベンチの指示だけで勝とうとするのではなくて、自分たちで考えていないことが起きたとしても、それに慌てないでどう対処できるのか、そういったところにも対応できるチームを作っていかないといけないと思っています」
飯田 智市監督は、春のベスト4を勘違いして過信となってしまうことを戒める意味でも、あえて夏までのチーム作りのピークとなっていく6月の段階で、一度チームを崩していっているという作業である。そうした上で、改めて選手たちの意識をより高めていこうという方向性を示している。
そのためには、常に次に何が起きるのかということを考えて行動できること、それを徹底していくことを目指している。それは、プレーということだけではなく、練習の準備などももちろん、私生活含めて、すべての面で次のことを考えながら行動するということを意識させている。そして、そうした姿勢に持っていくことが、夏の結果に繋がっていくのだと考えている。
安定した守備力が持ち味のチームへ
試合に挑む市立松戸ナイン
学校の環境としては、陸上部やサッカー部が活動している学校の校庭に隣接した形で専用球場が設けられている。両翼は92メートルあり、中堅は110メートルだが、専用球場となっているだけに、グラウンドの土の状態も悪くない。市立校であり、地域の支援も多く、ネット裏にも出入りしやすいような配慮もされている。県内では、松戸市内からの甲子園出場はまだないだけに、熱い期待に応えたいという気持ちである。
3年生が20人、2年生14人、今年の1年生は24人が入ってきて、グラウンドには活気が溢れている。平日の練習は授業終了後の16時から集まり、19時頃までが原則となっている。そして土曜と日曜は練習試合がメインとなるのだが、主に自分たちが日頃使っているグラウンドで練習試合ができるということで、試合後にすぐ、その日の反省点などをチェックして確認することができる。こうしたことも、グラウンドのある学校としての優位な点とも言えようか。
今年のチームの特徴としては、安定した守備にあるといってもいいだろう。大事な局面で、守備で崩れていったら、それは致命傷になりかねない。そのことは、十分に認識している。主将でもある中嶌 陽太君は、日頃の地味な反復練習の成果を挙げている。
「しっかりとしたキャッチボールができるということを心掛けてきているからだと思います」
中嶌君自身も、三塁手として、派手さはなくても確実な守備をしていこうと心掛けているのだ。
そうした思いもあって、守りに関しては基本を中心として徹底してきた。今春の快進撃の背景には、昨年の秋に比べて、キャッチボールなどでのボール回しのタイムが向上してきたこともあると感じている。ボール回しがよくなるということは、確かな捕球ができていて、確かな送球ができているということだからだ。それだけに、一つ一つの基本プレーをしっかりとやれているということである。
飯田監督は、だからこそ安易なプレーで起きたミスなどには、徹底して厳しい姿勢で注意を与えていく。
「自分たちのミスで負けないチームにはなってきています。相手に打たれたり、力で負けた場合は仕方ないですけれども、キャッチボールなどのミスで負けたら後悔もしますから、まずは基本であるキャッチボールを徹底させるという意識でチームを作っていきました」
と、キャッチボール重視で守れる野球を作り上げていくという姿勢を貫いている。
木更津総合戦でも好投した、エースとして予定している左腕の原島君は、力で抑え込んでいくというタイプではない。サイド気味のフォームから、横の変化を中心として球の出し入れをしながら、コーナーを突いて巧みに打たせていくタイプである。それだけに、しっかりとした守りはチームにとってもより求められるところである。
走者を出しても、そこから粘っていくというのが持ち味である。だからこそ、捕球から送球という野球の基本は、より大事にしていかなくてはいけないのだ。そういう意味でも、しっかりとしたキャッチボールのできるチームは、市立松戸が目指すところでもあるのだ。
意志の力を信じて、肚を据えたプレーを
バックネット上の横断幕(市立松戸高等学校)
そして、夏へ向けて最終的に意識として目指すところとしては、「すべてのプレーを全力で行えるチームを目指したいですね」と、思いを述べる。だから、練習試合でも、全力プレーを怠った時には厳しく指摘していく。選手個々によって能力が異なるのは仕方ないが、それぞれの選手が今の自分の中で、どれだけ全力を出していけるのか、その意識を育てていくことが、これから夏へ向けての最大のテーマでもある。
「このチームは、人のために戦えるチームになってきています。メンバー外の仲間や親、家族のためにも頑張りたいという姿を見せている子が多いですね」
と思いを述べている。その背景には、現在の3年生が1年生の時に仲間を病気で亡くしているという悲しい出来事もあったからだ。それだけに、そんな思いをより強く育めていったのではないだろうか。
そんな思いを背負って戦えるチームなので、精神的にも強くなりつつある。だから、常に全力を注いでプレーしていかなくてはいけない、野球をやれる環境があり、その肉体があるという喜び、だからこそ、その思いをより強く出していきたいという、そんな市立松戸である。
その思いが結実していった時に、さらに大きな夢に近づいていくことができるのではないだろうか。
そのために、夏を勝ち抜いていくための要素としては、心のキャッチボール、言葉のキャッチボールで心をつなぐことも掲げている。また、心がしっかりとしていくことで、打順やポジションなどの変更があったとしても、質を変えないで対応できる能力を養っていくことも、心がけている。
そして、「意志の力を信じて、“肚(はら)”を据えたプレーをする」ことを目指している。そうした、意識作りも大事にしているのだ。
チームのキーマンとしては、勝負強さのある田中 雄大君と、長打力が売りで一発の魅力も秘めている捕手の塚原 萌樹君、さらにはどんな局面になっても冷静な判断力があり、派手さはなくても確実な守りをすることができる二塁手の小野 翼君などが挙げられている。
近年の千葉大会の勢力構図としては、毎年30~40校前後が多少の戦力的な凹凸はあるにしても、ほぼ横並びとなっているという状態である。春に実績を残せた学校はもちろん、中堅校にはどこにでもチャンスはある。その一方で、少しでもリズムを乱すと、どこにでも足をすくわれる危険性も内在している。
市立松戸の目指す、派手さはなくても地道な野球こそ、最も求められるものであろう。
(取材/文=手束 仁)