関東第一高等学校 オコエ 瑠偉選手【後編】「苦悩を乗り越え、ラストサマーは大爆発!」
今年の東京都で最も期待されるオコエ瑠偉。前編では彼が成長するきっかけから2年夏までの軌跡を描いた。だが3年間、右肩上がりで成長曲線を描くとは限らない。オコエは昨秋、初めて苦悩を味わうことになる。
各校の厳しいマークで打撃不振に
オコエ瑠偉選手(関東第一高等学校)
夏、絶好調のオコエが抱いた不安。その予感は的中してしまうことになる。
「オコエを抑えなければ甲子園の道はない」
各校はそれぐらいオコエに対して警戒していたのだ。オコエは厳しい内角攻めに遭い、打撃の調子を崩していく。
「インコースにどんどん投げ込まれて、それを打とうとするあまり、フォームを崩していました」
一つ苦手なコースを打とうとするあまり、フォームが崩れ、また外角も打てない状態になっていた。全く安打を打てなかったというわけではないが、オコエ曰く、安打にしたのも、全く感触がなく、秋の大会準決勝・二松学舎大附戦では左腕・大江竜聖(インタビュー)から適時打を放つものの、「あれは完全に詰まっていて、コースが良かったので安打になっただけです。秋の大会、自分が捉えたと思った打球は一つもなかったと思います」と振り返るぐらい調子が悪かった。
そして準決勝で敗れ、甲子園行きもなくなった冬。オコエは自分の課題と向き合った。内角を打てるようになるために米澤 貴光監督、佐久間コーチとともに打撃フォームの修正を図った。秋不調だったオコエを見て佐久間コーチは、
「なんでもかんでも打ちに行くとやっぱりドツボにはまるんですよね。私はインコースはファールにして、甘く入ったボールを叩くことができればいいじゃないかという話はしましたが、本人はなんとしてでも打ちたいという気持ちだったようですね(笑)」
とアドバイスをしたが、本人はインコースを打ち返そうとフォームの修正、振り込みに取り組んだ。
そして更なるパワーアップへ、食事の量を増やし、また走り込み、ウエイトトレーニングも1年冬の時よりも増やして、さらに自分を追い込んでいった。そうしていくうちにオコエの肉体はかなり変わった。現在、183センチ85キロ。入学時は80キロを超えていたが、それは脂肪。75キロまで落として、そこから筋肉質の肉体に鍛え上げたオコエは、一冬越えて、さらに飛距離が増しているようだ。
個人の結果ではなく、チームの勝ちを最優先に
オコエ瑠偉選手(関東第一高等学校)
そして冬が明けての練習試合。オコエは好調をキープ。出場した試合すべてで安打を放ち、またある試合では、内角直球を振りぬき、レフトスタンドへ打ち込んだようだ。一冬の成果がしっかりと出ていたのだ。
そして同時に自分に可能性がないと思っていたプロ野球選手の夢も、目標に変わった。そして同時に夏の甲子園に出場することも目標に挙げてくれた。
そんな姿を見て、1年から見ていた佐久間コーチは
「彼は1日、1日、成長しているように感じます。1年生の頃がまるで笑い話になるぐらいですね」
入学当初、集中力がなくなってすぐに飽きていた選手が2年経て、人間的にも大きく成長した。それはオコエ自身が変わったことが一番の要因だが、彼に人間面においての変化をもたらした佐久間コーチらの指導者の存在も大きかった。
佐久間コーチに今後、さらにステップアップするために求めていることについて聞いてみた。
「打撃はどんどん伸びていくと思います。木製バットでの練習をしていますが、それでも鋭い打球を飛ばしますし、我々が評価している足、肩の部分も多くの方に評価していただいています。あとはワンプレーの集中力ですね。例えば、ゴロを捕って、バックホームするときに、ぽろっとしたり、またバックホームの返球が高めに浮いたりと、アグレッシブな反面、雑なところがまだ見られますので、自分の力を信じて、安定して自分の実力を発揮してほしいと思います」
そして最後の夏へ向けて、意気込みをオコエはこう語った。
「個人の結果にこだわらずチームが勝つことを最優先に、自分が打てなかったらといって落ち込んだりせず、明るくしてチームを盛り上げていきたいと思います」
最後の夏は甲子園に出場するために個人の結果を気にしない。苦しい経験を経て、さらに大きくなったオコエはこの夏、去年以上に走攻守すべてにおいて躍動することだろう。
(インタビュー・文/河嶋 宗一)