Interview

石川ミリオンスターズ 吉田 えり投手インタビュー【前編】「究極のナックルボーラーになるきっかけ」

2015.01.20

 “ナックル姫”の愛称で親しまれる女性プロ野球選手、吉田 えり投手。彼女の1番の特徴は、愛称にもなっている「ナックルボール」。無回転で打者に向かっていき、不規則に変化する「魔球」だ。そのナックルを習得するにはどれほどの困難があったのか。
米球界、独立リーグを渡り歩き、現在は一昨年の独立リーグ日本一のチーム、石川ミリオンスターズ(ルートインBCリーグ)で技を磨く23歳が、「究極のナックルボーラー」への過程と無限の可能性を大いに語る。

ナックルボール習得のきっかけ

吉田 えり投手(石川ミリオンスターズ)

 ストレートがスタート。そこからカーブ、スライダーといった変化球へと進化していく投手の技術習得過程。その中でも最高難易度と言っても過言ではないナックルボールを、吉田 えり選手はなぜ、習得しようと思ったのか。そのきっかけは、中学校時代にまでさかのぼる。
「小学校から中学に上がるくらいまでは女の子の方が早く成長するため、男の子との力の差はなかったのですが、中学校2年生3年生となるにつれて、男の子との力の差を感じ始めました」

 そう語る吉田選手。しかし、そのような環境においても吉田選手の野球への情熱は冷めることがなかった。「女子が野球をできる環境は限られており、男子と混ざってプレーをすることは避けられない。しかし、力では男子にはかなわない」そのようなジレンマの中で目にとまったのが、あるメジャーリーガーであった。

「野球が大好きで、どうしてもやめたくないと悩んでいた時、テレビでウェイクフィールド選手がナックルボールを投げているのを見ました。『このボールならもっともっと野球を続けられる!』、そんな思いからナックルボールを投げ始めました」

――ティム・ウェイクフィールド――
ナックルボールを決め球にMLBで19年間活躍し、2011年に45歳にしてMLB史上11人目の200勝を挙げた大投手である。テレビの中で自在に魔球を操るウェイクフィールド。これをもし自分がマスターできれば、男子にも負けない強さを発揮できる…。悩みの先に光が見えた瞬間だった。

ナックルボールの握り

ナックルボールの握り方

 とはいえ、当時日本ではあまり知名度はなかったナックルボール。実際、「日本のナックルボーラー」と言われて名前が出てくる人はほとんどいないのではないだろうか。では、確立された指導法もない中で吉田選手はどのようにしてナックルボールを習得していったのか。
「始めはウェイクフィールド投手の動画を何度も見たり、変化球の本を読むなど自分で徹底的に研究をしました」

 見よう見まねで投げ始めたというナックルボール研究。たとえば握り方はこのようにして高めていった。
「ナックルって英語では『拳』って意味なんですよ。握った時の様子が拳の様に見えるのでナックルボールと言われるらしいです。多くの変化球の本には指三本で握る方法が紹介されていますが、私はウェイクフィールド投手の握りを真似て指二本で握っていますね。実は指二本で握るナックルボーラーの方が多いんです」

 その意味で吉田選手のナックルボールは、ウェイクフィールドの流れを汲んでいる。

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[page_break: 無回転にするコツとは?]

無回転にするコツとは?

吉田 えり投手(石川ミリオンスターズ)

 こうして握りを学んだ吉田選手。しかし、肝心なのはボールを無回転にすることである。では、無回転にするコツは何なのか?

「誰もがボールをはじくことで頭が一杯になってしまいがちです。そうすると、どうしても指に力が入ってしまい、結果として回転がかかってしまうんですよ。なので、投手の基本ですが、下半身、体幹、肩、肘、そして指というような一連の動きを大切にしないとですね。もちろん、最終的には指ではじくんですが、それまでの基礎を大切にすることを意識しています」

 野球選手としてすべての動作の基となる「基礎」。その上で無回転に大切なリリースが成り立つ。

「やっぱり、ナックルというのは手首を使ってはいけない。手首を使ってしまうとどうしても回転がかかってしまう。18歳のときに初めてウェイクフィールド選手にお会いすることができた時も、頂いたアドバイスは『手首をとにかく固定しよう』ということだったんです」
実は非常に難しいことをサラリと吉田選手は言ってのける。

 だからこそ、フォームも徐々に変化した。2012年にはこれまでアンダースローだったフォームをスリークォーターに変更。そこにもナックルボールをより効果的にする意図が含まれている。

「ナックルを投げ始める前までは、上から投げていたんですが、やっぱり、上からだと手首を使ってしまう癖がついているので無回転にならなかったんですよ。だから癖がついていないアンダーハンドから投げることで、手首を使わず無回転のボールを投げることができるようになりました。しかし、横から投げるとどうしてもコントロールが定まらなくなってしまいます。なので、コントロールを徹底するために再び上からのフォームに変更しました」

 しかし、ここで出てくるのがナックルボールの長所である「無回転」と、投手にとって不可欠である「コントロール」のバランスをいかにとっていくかということだ。ここで吉田選手が出そうとしている解答とは?(後編に続く)

 後編では、ナックルという特殊な球種を操る上での苦悩や方法論。そして「究極のナックルボール使いとは?」について語って頂きます。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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