Column

体力要素をアップさせるための体づくり

2014.12.30

 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。

 ボールを握るだけでも手がかじかんだり、思うように体が動かなかったりするこの時期は、体力トレーニングやランニングなど体づくりを中心に練習に励むチームが多いと思います。

 ところで野球をやっていると、「なぜ野球以外のトレーニングやランニングが必要なのだろう?」と疑問に思ったことはありませんか。陸上部のように走り込んだり、ウエイトトレーニングなどで汗を流したりといった体づくりは、どのように野球の技術と結びつければよいでしょうか。

体力要素を効果的に鍛える

トレーニングで重点的に体力要素を鍛える(筋力)

 野球の練習を積み重ねると、野球の技術はもちろんですが、それを行うだけの体力要素も向上します。体力要素は大きく8つにわけて考えることが出来ます。

1)筋力(筋肉が発揮する力)
2)スピード(筋肉が力を発揮する速さ)
3)パワー(筋力×スピード、いわゆる瞬発力)
4)敏捷性(方向転換を伴う動きの調整力)
5)柔軟性(筋肉・腱等の柔らかさ、関節可動域の広さ)
6)バランス(自分の身体を支えるバランス感覚)
7)全身持久力(心肺機能の強化、スタミナ強化)
8)筋持久力(筋肉を継続的に動かす力)

 トレーニングやランニングではこうした体力要素のある部分を重点的に鍛えることで、野球の技術練習だけでは得られない大きな効果を期待することができます。たとえばスイングスピードを向上させるために素振りを1000回行うよりも、筋肉を大きくし、筋力をつけたほうがより力強いスイングが出来るようになります。

 長距離走のランニングであれば、試合終盤になってもスタミナ切れでバテてしまうことなく足が動いてプレーが出来ることや、下肢の筋持久力が向上し、投球フォームの安定感を得ることが出来るといった狙いがあります。

 またプレー中の心拍数よりも高い状態で負荷をかけることが全身持久力の向上につながります。こうした体力要素をさまざまなトレーニング方法で重点的に鍛えると、野球のプレーそのものが向上し、全体のレベルアップにつながるというわけです。

 逆にこうしたトレーニングやランニングは野球の練習で得られる体力要素よりも高い負荷のものでなければならず、練習と同じ程度の負荷であったり、楽に走りきることの出来るランニングでは、わざわざ時間を割いて行う必要性がないということになります。

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[page_break:キツいトレーニングは当たり前なのですが… / 冬だけで終わらない]

キツいトレーニングは当たり前なのですが…

 体力トレーニングやランニングは、野球の練習をしているだけでは得られない体力要素を強化するのですから、野球をやっている以上に「キツい」と感じるのは、ある意味当然であるとも言えます。ただし、こうした体力要素の強化とかけ離れたトレーニングはあまり効果がありません。

 よくランニングで「足腰を鍛える」といいますが、「足腰を鍛える=筋力アップ」を目指すのであれば、長距離走を行うよりも、坂道ダッシュやタイヤを使ったトレーニングを行ったり、ウエイトトレーニングで下肢筋力を鍛えたりすることのほうが効果的なのです。長距離走を行うのであれば、タイムを設定してその時間に走りきるだけの心肺機能を強化する、長時間走ることで下肢の筋持久力を鍛えるという目的に沿ったランニングプログラムを行う必要があります。

 野球は高強度・短時間の運動と休みをはさむ間欠的な持久力が求められますので、走る時間と休む時間を設定するインターバル走などを取り入れることもオススメです。

 このように考えるとトレーニングやランニングを行って、結果的に選手たちが「キツい」と感じることはまったく問題ありませんが、「キツい」トレーニングやランニングありき、ではただの「しごき」になってしまいます。

冬だけで終わらない

オフシーズンだけではなくシーズン中も継続して行おう

 こうしたトレーニングやランニングは主にオフシーズンに行われることが多いのですが、強化された体力要素はそれ以上の負荷がかからない状態でいると自然と元のレベルまで下がってしまいます。
冬にたくさん走って心肺持久力や筋持久力を強化しても、シーズンに入り野球の練習だけを行っていては、高いレベルの体力要素を維持することはむずかしいのです。

 筋力は2週間から1ヶ月程度のブランクであればさほど劇的に落ち込むことは少ないようですが、それでもゆるやかにその能力は減少します。

 オフシーズンに重点的にトレーニングすることはもちろん大切ですが、シーズンに入ってからもなるべく筋力レベルが落ちないように、練習内容を工夫してトレーニングを継続することが望ましいと考えます。

 2014年最後のコラムとなりました。セルフコンディショニングコラムを楽しみにしてくださっている皆さまに深く感謝いたします。2015年もどうぞよろしくお願いいたします。

※参考書籍「スポーツ科学の教科書」(谷本 道哉編著/石井 直方監修・岩波ジュニア新書)

 【体力要素をアップさせるための体づくり】
●体力要素は8要素(筋力・スピード・パワー・敏捷性・柔軟性・バランス・全身持久力・筋持久力)
●トレーニングやランニングは特定の体力要素を重点的に鍛えることができる
●足腰を鍛える=筋力強化であれば、ランニングよりもトレーニング
●「キツい」と感じることは当然ですが、「キツい」ことを前提とした内容にならないように
●体力要素は鍛えなければ元に戻る。シーズン中も継続できるようにしよう

(文=西村 典子

次回コラム公開は1月15日を予定しております。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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