Interview

中日ドラゴンズ 大塚 晶文コーチ【前編】 「プロ、アマチュアで出会った捕手の存在」

2014.12.01

 今季までB.C.リーグ・信濃グランセローズを投手兼任監督でチームを率いた大塚 晶文氏はシーズン終了後、古巣に復帰する形で中日の投手コーチに就任した。

 大塚コーチは、近鉄(現オリックス)入団2年目の98年から抑えになり、同年の最優秀救援投手に輝くと、04年にメジャーに移籍するまで、通算137セーブをマーク。メジャーでも2球団でリリーフとして活躍し、レンジャーズ在籍の06年には、第1回WBCで胴上げ投手にもなった。

 こうした栄光を手にした一方で、07年から現役引退を表明した今年9月まで、右肘のケガの影響で、投げられない日々が続いた。一時は左投げにも挑戦するなど、様々な経験をされている大塚コーチに、バッテリーコミュニケーション術について、お話いただきました。

サインが会話であり、コミュニケーション

中日ドラゴンズ 大塚晶文コーチ

 野球を始めてから今年9月に現役を引退するまで、大塚コーチは何人もの捕手とバッテリーを組んできた。その1人1人に思い出があるそうだが、真っ先に名前を挙げたのが、近鉄時代に受けてもらった古久保 健二氏(今季までオリックスコーチ。15年より韓国プロ野球・ハンファコーチ)だった。

「古久保さんは、投手や相手の状況を見ながら、サインを出すタイプの捕手でした。クローザーだったので僕の得意なボールを優先してくれるキャッチャーでしてね。ルーキーとベテランの関係でもありましたし、信頼していたのでだいたいサイン通りに投げていた気がします」

 時に、勝負球のスライダーを投げたいのに、インサイドの真直ぐのサインが出ることもあった。大塚コーチは首を振って、自分の意思を伝えるが、サインはまたしても真直ぐ。それが何度か繰り返され、なかなかサインが決まらないこともあった。しかし、「最後は古久保さんが折れてくれて、勝負球のスライダーを投げさせてくれたこともあれば、押し通されてそのとおりに投げることもありました。僕は自分中心で配球していましたが、古久保さんは打者心理も考えての配球だったのでとても勉強になりました」

 大塚コーチと古久保氏は、学年で7つ離れているのもあって、試合直後にその日の課題について話し合うことはあっても、食事を共にしてコミュニケーションを取ることはなかったが、キツイ冗談を言ってコミュニケーションを取ってリラックスさせられたこともあったという。
「1歳上の的山 哲也さん(現福岡ソフトバンクコーチ)さんとは、よく食事に行きましたが、古久保さんとはサインが会話であり、コミュニケーションだったような気がします。サインで納得させてくれる。そんな捕手でしたね」

 ところで、82年から02年まで近鉄でマスクを被った古久保氏はどんな捕手だったのか?筆者は以前、かなり以前のことだが、古久保コーチについて、大阪・太成高(現太成学院大)時代の恩師(奈良大付高・山岡 成光監督=当時)から、うかがったことがある。

 高校時代のエピソードもいろいろと教えてもらった中、印象的だったのが「テレビで、投手が捕手からの返球を捕る姿を見れば、捕手が古久保だとわかる」という話だった。つまり、そのくらい回転のきれいな返球を、投手が捕りやすいよう、グラブを持つ側の胸あたりに返すと。
もしかすると、これも1つのコミュニケーションスキルなのかもしれない。

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チーム内 コミュニケーション術
[page_break:捕手との関係改善によって生まれた勝負球]

捕手との関係改善によって生まれた勝負球

 大塚コーチの現役時代の勝負球は、タテのスライダーだった。この“伝家の宝刀”を武器に一時代を築いた。実はこの「タテスラ」誕生に大きく関わったのが、捕手とのコミュニケーションだったという。

中日ドラゴンズ 大塚晶文コーチ

 話は東海大時代にさかのぼる。当時、バッテリーを組んだのが、日本通運でも大塚コーチの女房役を務めた工藤 寿氏。この工藤氏と大塚コーチの、高校時代のキャリアは対照的だ。

 工藤氏は東海大四高の3年春(89年春)、センバツに出場。北海道では名の知れた好捕手で、ドラフト候補にも名を連ねていた。一方大塚コーチは、横芝敬愛高時代は県5回戦進出が最高で、甲子園は遠かった。エリート街道を歩んできた工藤氏は、東海大でも1年時から正捕手に。
大塚コーチは「彼は同級生なんですが、選手としては“格上”だと思ってました」

 その意識は、大塚コーチが東海大の主戦になっても変わらなかった。
「大学の時の僕のスライダーは“スラーブ”のような感じだったんですが、低めを狙うと、どうしてもワンバウンドになる。すると「おーい」と言われましてね。今思えば、相手を“格上”と意識するあまり、過剰反応してしまったのでしょう。それが何回か続いた後、ワンバウンドしないよう、ストライクゾーンにしか投げられなくなってしまったのです」

 転機が訪れたのは社会人1年目。都市対抗予選が終わった後、大塚コーチは足の甲をケガしてしまう。約半年間、ギブスが外せない重症だったが、その期間、いろいろな投手を見て、あることに気が付く。それは「いい投手には、決め球になる落ちるボールがあるんです」
大塚コーチは「僕の“スラーブ”は、キレはあると言われていたものの、ストライクゾーンにしか投げていなかったのもあり、落ちなかったのです」と言葉をつなぐ。

 自分がプロに行くためには決め球の習得が必要。そう考えた大塚コーチは、思い切って工藤氏に「ワンバウンドを投げる練習をさせてくれ」と伝えた。
「そうしたら、すんなり『わかった』と快諾してくれまして。考えてみれば、ワンバウンドになるボールを投げるのは当たり前なんですが、相手が同級生なのに、それを言えない自分がいたわけです。僕の性格が招いたことなんですが…」

 “大塚投手”の最大の武器・タテスラが生まれたのは、それから少ししてからだった。

 自らの経験も踏まえ、大塚コーチはこう話す。
「バッテリーはたとえ同級生同士であっても、立場が同じとは限りません。高校野球でも、1年夏からレギュラーの捕手と、最上級生でエースになった投手とでは、一般的に主導権は捕手にあると思います。もちろん、性格で決まるところもあるでしょう。ただ、いずれにしても、投手が『構えを低くしてほしい』とか『ヒザをついてほしい』など、捕手になんでも言える関係でないと…関係がぎくしゃくしてしまうと、チームはもちろん、2人の将来にも影響を及ぼします。

 そうならないよう、たとえば“甲子園に行く”という目標の下で、いい関係を築いてほしいですし、捕手には、目配り、気配り、心配り、あえて厳しいことを投手に言うことも必要だと思います」

後編では、MLBでのエピソードを交えながら、バッテリーの醍醐味を存分に語っていただきます。お楽しみに!

(インタビュー・上原 伸一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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