Column

富士大の強さの秘訣

2014.11.14

富士大

 岩手県花巻市にある富士大。所属する北東北大学リーグでは常に優勝争いを繰り広げている。2009年の大学選手権では決勝に進出し、2012年の明治神宮大会では4強入り。この秋もリーグ戦で優勝し、明治神宮大会出場をかけた東北地区代表決定戦を制して2年ぶりの明治神宮大会出場を決めた。

 個の能力も高く、近年では、2010年のドラフトで中村 恭平投手が広島から指名され、昨年は山川 穂高選手が西武に入団。今年のドラフトでは外崎 修汰選手が西武から3位指名され、3年生の多和田 真三郎2013年インタビュー投手が来年のドラフト候補に挙げられている。

 今回は、そんな富士大野球部の強さの秘訣を探った。

4学年全員でゲーム勘を磨く

練習前、外崎主将の話を聞く選手たち

 平日の17時。

 グラウンドでは、A班(主にレギュラーメンバー)ではなく、B班の選手たちが練習していた。その後、17時30分からA班の練習が始まると、彼らは校内のトレーニング施設に移動して練習を続ける。さらに、A、B班に属さない1年生で構成されるC班の場合は、19時から練習開始となる。

 この日、17時30分になると、豊田 圭史監督、奥玉 真大コーチ、外崎 修汰主将などが、A班のメンバーたちの前で話し、アップから練習がスタート。

 その後、キャッチボールを経て、ノックが行われる。

 富士大のグラウンドは内野が土で外野は人工芝になっている。明治神宮大会直前ということもあり、人工芝の[stadium]明治神宮野球場[/stadium]を想定し、レフトに内野のダイヤモンドが作ってあった。

 ボール回しでは、右回り、左回りにそれぞれタイムが設定されており、それを切らなければ延々と続く。この日は一発OK。
豊田監督は、「昨日は練習がオフだったんです。オフ明けは4、5回繰り返すこともあるのですが、1回でOKだったということは、隙がなくていいことですね。でも、ここまで来るのに1年かかりました」と話す。

 そんな豊田監督は昨年12月1日付けで監督に就任した。
全国区に育てた青木 久典前監督が母校・法政大の助監督に就いたため、OBで4年半コーチを務めていた豊田監督がバトンを受けた。
「監督になってから、青木さんが残された財産に加えていく形で、練習のシステムを変えた部分はあります」と豊田監督。

 その1つがゲーム量である。コーチ時代は主にB班を見ていたが、
「B班の選手たちにもっと試合をさせたら粋に感じてやってくれるのではないかと思ったんです」と、B班のオープン戦を増やした。

 A班はさほど変わらず年間50試合ほどだが、B班は昨年までの10~20試合から大幅増の年間80試合に。また、C班もオープン戦を行い、全員がゲーム勘を養えるという環境を作った。
「レギュラーでケガをした選手の代わりや、ここ一番の代打など、控え選手のレベルが上がれば勝てるのではないかと考えました」(豊田監督)

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[page_break:練習の質を上げるのは選手。量を与えるのが指導者]

練習の質を上げるのは選手。量を与えるのが指導者

A班が守備練習の間、B班は室内で打撃練習

 いつA班に入っても対応できる選手が増え、結果として、チームの活性化にもつながった。練習だけの日々ではモチベーションを保てない選手もいるが、1年生も試合に出られるため、今年の1年生58人は誰一人として辞めなかった。これは富士大野球部史上、初めてのことだという。

「大学生は伸び盛り」と言う豊田監督は、練習量も増やした。大学の敷地内に大きな寮が2つあり、専用グラウンドに室内練習場も完備され、野球に打ち込める環境が整っている。

 以前は、寮の夕食の時間に合わせて、15時半など冬場でも明るい時間帯から練習を始めていたが、今は17時30分開始で夕食後も練習が行われている。

 この秋の明治神宮大会出場をかけた東北地区代表決定戦の3週間前にも、1週間の強化練習が行われた。

 守備では、投内連携、タイムを設定したボール回し、重盗防止、ランダウンプレーなど細かい部分も数をこなした。打撃では通常もそうだが、フリー打撃、ロングティーなど4班に分け、常にバットを振っている状態を作る。

 ボール拾いはおらず、休憩している暇はない。長時間に及ぶ練習と追い込みに、「見ていて、かわいそうなくらいでした。だからこそ、勝たせないといけないと思いましたね。選手たちには、『やってくれれば勝てるから』と言い聞かせていました」と豊田監督。
選手たちにとっては「これくらいやってきたんだ」という自信にもつながり、その結果は大会結果に結びついた。

 豊田監督は、「練習の質を上げるのは選手。量を与えるのが指導者」とも話す。

 2年前の明治神宮大会で1年生ながらノーヒットノーランを達成した多和田 真三郎投手は、「高校の時は、例えば、ピッチングで100球投げるなら100球をこなすだけでした。練習だけのピッチングで、試合を想定していませんでした」と言う。

 1年春のリーグ戦で、デビューこそ上々だったが、次第に打たれるようになる。反省を踏まえて、練習のピッチングから一球、一球、試合で使えるかを考えて投げるようになった。

 現在、1年生で正捕手を務める小林 遼選手は、
「多和田さんの投げるボールは、一球一球、無駄がありません。練習から気の抜けたボールがないです」と証言する。

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[page_break:一球、1プレーへの意識の高さを求めて]

一球、1プレーへの意識の高さを求めて

選手にアドバイスをする豊田監督

 一球、そして1プレーへの意識の高さは富士大の伝統になっている。
「山川さん(現西武)を見ていると、バッティング1つにしろ、考えていて奥が深い。どれだけ考えていて、意識しているか」と多和田投手。

 小林選手も、
「外崎さんや久保さん(皓史)はバッティングも守備も一球に対しての集中力がすごい」と、先輩の背中を見て後輩が育っている。

 自主練習でもそうだ。日によって終わる時間は異なるが、全体練習の後も、グラウンドや室内練習場など、いたるところで自主練習が行われている。

「選手たちは指導者にアピールしようと思ってやっていないですよ。自分のためにやっています」と豊田監督。

選手たちは指導者の目は気にせず、自分の世界に入って、自身の課題に取り組んでいる。

「最初の頃は、どんだけやるの?!と思いました。高校の時は、全体練習をきっちりやったからという自己満足もありました。今では、高校の時に、もっと自主練習をしておけばよかったなと思います」と外崎選手。

 レギュラークラスの選手たちが自主練習に打ち込む姿を目にすることで、自主練習がチームの伝統となり、個を高める一端を担っているようだ。

 準備と徹底も強さにつながっている。リーグ戦中は5日間、相手チームを研究する時間ができる。例えば、打者ならば、何度も対戦している投手と当たるため、攻略法を考え、「どのボールを狙うのか、逆にどのボールを捨てるのか」や「打席での立ち位置」などを徹底する。

 打ち方やフォームは個々によって違うが、こうした徹底は誰でもができることだ。それも、試合直前に言うのではなく、練習から意識させる。どう攻略するかを考え、練習をして、試合で徹底する。
負けたチームのコメントで多いのが、「こうしようと思ったのですが、チームで徹底できませんでした」というもの。
チームで捨てようと言っていたボールに手を出して凡打するといった例が多い。自分勝手な選手が多いチームと、まとまりのあるチームでは、大事な場面での徹底力の差が勝敗を分けることがある。

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[page_break:食への意識高く、強い体を]

食への意識高く、強い体を

寮での食事

 また、上の世界で結果を残すために大切な野球選手としての“体作り“も、富士大の選手たちはそれぞれに意識高く取り組んでいる。

 選手たちは、食事は毎日三食、寮で食べている。夕食後も練習があるため、体重が落ちることを防ぐために全ての練習が終わった後にも、炭水化物を摂るように指導されている。多和田選手は入学時に74キロだった体重が、食事とトレーニングで現在は81キロに増えた。

 また、密度の濃い練習が長時間行われるため、小林選手の場合は、「体を大きくする目的以上に、疲れを残さないためにも、ザバスのプロテインをとっています。

 プロテインを飲んだ次の日は調子がいいですね。あとは練習後は、ストレッチもしっかりとして、食事では野菜をきちんと食べるようにしています」と話す。

 個の力を結集し、それをチーム力として戦う富士大
豊田監督が高校生を見る時のポイントは「1つ、光るものがある子」だという。

「高校の時にチームのエースやレギュラーじゃなくても、足が速いとか、打つだけならチームトップレベルだとか、コントロールはいまいちだけどボールは速いとか、何か光るものがある選手はいいですね。野球をやりたい、レギュラーをとりたいと思ってくる。その気持ちさえあれば、通用します」

 豊田監督は奥玉コーチ、佐々木 敬之コーチと共に、選手一人ひとりの光る能力を磨き、伸ばす環境を作っている。その環境を富士大の選手たちは最大限に生かし、大学日本一に向けて、強いチームを作り続けているのだ。

(文=高橋 昌江

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