Interview

第96回全国高校野球選手権大会 1~3回戦を振り返る

2014.08.21

 21日をもって、甲子園ベスト8が出揃った。今年は東北2校(聖光学院八戸学院光星)、関東1校(健大高崎)、近畿1校(大阪桐蔭)、九州1校(沖縄尚学)、北信越2校(敦賀気比日本文理)、東海1校(三重)と地域が偏らず、バランス良く散らばった大会となった。

全試合、圧倒的な勝ち方を見せる敦賀気比


強力打線を擁し、試合のカギを握る敦賀気比のエース・平沼 翔太(2年) 写真提供:共同通信

 8校のなかで、最も力強い勝ち方をしているのが、敦賀気比。1回戦の坂出商戦は16対0、2回戦の春日部共栄戦では10対1、3回戦の盛岡大附戦は16対1。3試合連続二桁得点。そして失点もわずかに2失点と全く付け入る隙を与えない戦いぶりである。その敦賀気比を引っ張るエース・平沼 翔太(2年)は3試合23回を投げて2失点。防御率0.78と抜群の安定感を誇る。球速は既に144キロに達し、スライダー、カーブ、フォークとコントロール良く投げ分け、まさに本格派に相応しい投球でベスト8に導いた。平沼の他に大型選手が揃い、優勝候補に躍り出た。

 敦賀気比がこのように圧倒的なスコアで勝ち上がるのは想像できなかったことだろう。今年は予想外の戦いが多い。

 夏の甲子園はどのチーム、どの選手が主役になるか全く読めないものだ。大会前になると前評判の高いチーム、選手を紹介するが、前評判通りの力を発揮することもあれば、ケガなどもあって、全く力を発揮できないまま終わるチームもある。
中には、そこまで注目を集めていなかったが、予想以上のパフォーマンスを見せる選手やチームも多い。今年は予想外の結果と感じた方は多かったのではないだろうか。ここまでの戦いを振り返っていく。

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[page_break:選抜覇者・龍谷大平安が破れる!予想外の結果が起きた序盤戦]

選抜覇者・龍谷大平安が破れる!予想外の結果が起きた序盤戦

イーファスピッチで相手も観客も魅了した東海大四・西嶋 亮太(3年)

 今年はいきなり波乱の幕開けで始まった。開幕戦は選抜覇者の龍谷大平安と埼玉王者の春日部共栄だ。だが思わぬ形で決着がついた。1回表に春日部共栄が5点を先制したのだ。龍谷大平安にとって重い5点。反撃のチャンスも、春日部共栄のエース・金子 大地(3年)がインコースへ厳しく投げる投球に、打線は沈黙。
初回の5点も大きかったが、エース金子が走者を背負いながらも打者を抑えたことが勝利を呼び込んだ。龍谷大平安のペースにさせなかったことが勝因だろう。選抜覇者に勝利すれば、俄然と勢いに乗って上位進出してもおかしくない。だが春日部共栄の野望を打ち破ったのが、敦賀気比選手権2回戦春日部共栄と対戦した敦賀気比は金子を打ち崩し、10対1で圧勝し、強さを存分に見せつけた。

 開幕戦から波乱含みの開幕となった第96回大会。さらに2日目には歴史に残る大逆転劇を起こした。第4試合に登場した大垣日大は初回に藤代に8点を取られた後、すぐに4点を返し、その後、滝野 要の力投で、10失点にとどめ、藤代の投手陣を打ち崩した。高校野球は8点を奪っていても、試合運びによっては決してセーフティーリードではないことを実感させられるゲームであった。

 また、東海大四九州国際大附を破ったゲームも高い注目を集めた。九州国際大附福岡大会3回戦で、飯塚5回戦では福岡工大城東準々決勝では西日本短大附と強豪を打ち破ってきて乗り込んできたのだ。さらには、プロ注目の清水 優心(3年)、古澤 勝吾(3年)の2人を中心とした打線の破壊力は今大会屈指と言われていた。

 だが、その強力打線を手玉に取ったのが東海大四西嶋 亮太(3年)だった。身長は169センチと小柄ではあるが、ストレートには手元で伸びがあり、速度は130キロ後半でも勝負できる。そしてカーブ、スライダー、チェンジアップを駆使して、抑える投球は痛快だった。

 そして甲子園のファンを釘づけにしたのが、「スローカーブ」。投球に遊びを持たせるために、取り入れた球種だ。だが、山なりの軌道を描いた遅い球というのは、コントロールが難しい。時間をかけて完成させ、ついに甲子園で披露した。
このボールは効果的で、スローカーブを投げた後のストレートは迫力があり、余りの体感速度の速さに打者は付いていくことで精一杯だった。

 九州国際大附は好投手・小野 郁西日本短大附)を打ち崩した打線だが、攻略の糸口を見出すことが出来ずに敗れた。これほど長打力のある打線でも、歯車がかみ合わないと力を発揮できないと感じさせた。

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[page_break:武修館、東海大四と創意工夫を凝らしたチームの登場が目立つ大会に]

武修館、東海大四と創意工夫を凝らしたチームの登場が目立つ大会に

継投が光った武修館。写真は山崎 永治(2年)

 今年の甲子園は、西嶋のように創意工夫を試みたチームが勝ち上がってきた。

 大会緒戦で敗れたが、武修館は3投手の継投を試した。その継投は明快で、3イニングずつの継投。高校野球で継投といえば、先発投手がいけるところまでいって、限界の時点で、投手を変える。先発投手を基準にした継投策だ。それではリスクがある。そういうリスクを避けたのが武修館だった。

 武修館は1人の投手を引っ張りすぎて、掴まってしまうリスクに注意し、試合状況を読んだ継投策が出来ていた。現在も複数の投手陣を抱えるチームが多くなっているが、武修館の起用法は全国の学校にとってはモデルケースになる起用法であった。

 また「機動破壊」というスローガンを掲げるほど、“走力”を武器にする健大高崎利府戦(試合レポート)で11盗塁。チーム全員が、機動力で相手チームを崩す野球も見応えがあった。健大高崎は足が速い選手が揃っているわけではなく、どうすれば、走れるのか。どの状況ならば走れるのか。走塁に対しての意識、技術を徹底的に叩き込んだところに強さがある。
この機動力を抑えるには投手のクイック、牽制、捕手のスローイング技術が大事になってくるが、健大高崎の登場は、高校生のクイック技術を高めるきっかけになるのではないだろうか。

 そして、投打の総合力が高くても、歯車がかみ合わなければ敗れるということもある。

 東海大相模は攻撃力、投手力、走力ともにAクラスと評されるに相応しい実力を持ったチームであった。
140キロを投げる左右の本格派を4人揃え、神奈川大会11本塁打を放った強力打線。さらにアグレッシブベースボールを掲げ、エンドラン、強打を織り交ぜた攻撃スタイル。上位進出する条件が揃ったチームであった。
だが初戦と言うのは難しいもので、東海大相模は投打ともに実力を発揮出来ずに散っていった。

 自慢の投手陣も、5回まで1失点と好投をしていた青島 凌也(3年)が後半で掴まり、その後も、2投手を送り込むも、逆転ならず、初戦で敗れた。神奈川大会では東海大相模主導に持っていけていた試合運び、采配も、この試合に限っては後手後手となってしまった。改めて全国で戦う難しさを感じさせた一戦であった。

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[page_break:北信越勢4校がベスト16! 躍進の兆候が見えた春季北信越大会!]

北信越勢4校がベスト16! 躍進の兆候が見えた春季北信越大会!


西東京大会7本塁打の日大鶴ヶ丘打線と、上位に高打率の打者が並ぶ関西相手に快投を見せた富山商・森田 駿哉(3年)

 今年、最も躍進を遂げたのは、北信越地域ではないだろうか。今年の北信越勢の出場校はすべて初戦突破を果たした。過去の北信越勢といえば、初戦で負けることも珍しくなかった。その分、今年の北信越勢の躍進は大きく感じたファンも多いだろう。

 <北信越勢の初戦結果>
新潟 日本文理 5-2 大分
富山 富山商 2-0 日大鶴ヶ丘
石川 星稜 5-4 静岡
福井 敦賀気比 16-0 坂出商 
長野 佐久長聖 3-1 東海大甲府

 日本文理は、大分の最速150キロ右腕・佐野を打ち崩し、富山商はエース・森田 駿哉西東京大会7本塁打の強打・日大鶴ヶ丘打線を完封。星稜は攻守で総合力が高い静岡を下し、敦賀気比も自慢の打線が初戦から爆発した。佐久長聖は強豪・東海大甲府を破っての初戦突破であった。

 今年の北信越勢が強い予感は春季北信越大会から感じられた。
野球は投手がカギを握るといわれるが、今年の北信越は全国で戦える投手が各地域に揃っていた。

 春季北信越大会では、1回戦福井工大福井vs高岡商など、ハイレベルな戦いが繰り広げられた。福井工大福井のエース・田川 佳弥(3年)が130キロ後半の速球を披露。それを打ち返す高岡商の各打者。そして、高岡商のエース・河端 優馬(3年)が長身から常時140キロ台の速球を連発。ここまで全国の各大会をみてきた中でも、130キロ後半の速球を計測する投手は稀だっただけに、北信越大会で各出場校が140キロを投げる投手が揃っていることに驚きを隠せなかった。

 小松大谷vs新潟明訓では、140キロを計測した投手が、3人いた。
小松大谷のエース山下 亜文が140キロ、新潟明訓漆原 大晟が141キロ、エースの村山 賢人が144キロ。3人とも、それぞれ特徴があり、山下は力強い速球にハードな曲がりで勝負する左腕、漆原は長身から振り下ろす快速球で勝負する右の本格派、村山は球威ある直球で詰まらせる投手だった。軽々と140キロ台を出す3投手を見て、改めて北信越の投手力のレベルの高さを実感した。

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[page_break:北信越大会で活躍した日本文理、富山商が甲子園でも躍動!]

北信越大会で活躍した日本文理、富山商が甲子園でも躍動!


3回戦の富山商戦で9回裏、一死一塁から逆転サヨナラ本塁打を放った日本文理・新井 充(3年)

 そして春季北信越大会2日目には森田 駿哉(富山商)が登場した。この時から北信越屈指の左腕として注目されていた森田は最速143キロの速球、キレのあるスライダーを武器に小松大谷打線を9回1失点に抑え、11奪三振に奪う快投を披露した。
高校生左腕ながら常時140キロ台の速球、キレのあるスライダー、そしてコントロールも良い。さらに183センチの大型左腕。その森田が甲子園に出場すれば、一気に注目度が上がる左腕になる投手であることは想像出来た。

 そして富山大会を勝ち抜いた森田は、大会3試合で26イニングを投げて、4失点。前評判通りの活躍を見せた。左腕から140キロ台の速球、スライダー
で圧倒する投球は多くのファンに強烈な印象を残したはずだ。

 春季北信越大会で優勝した日本文理飯塚 悟史(3年)が粘り強い投球が出来る投手へ成長し、決勝戦でも森田擁する富山商から12得点を奪う破壊力を存分に見せつけ、二季連続の北信越のチャンピオンとなった。その日本文理は、甲子園でも初戦突破を決めた後、愛知の名門・東邦逆転勝利
そして3回戦では、富山商との北信越決戦となった。試合は1点ビハインドの9回裏、新井 充(3年)の逆転サヨナラ2ラン本塁打で、2009年以来のベスト8。2009年の甲子園準優勝で、北信越大会では別格の活躍を見せてきた日本文理は今年になっても、北信越をリードする学校として、粘り強い戦いを見せている。

 また星稜はエース岩下 大輝(3年)など大型選手が揃い、第96回石川大会決勝では小松大谷相手に8点差を大逆転し、甲子園出場を決め、大きな話題を呼んだ。その勢いは甲子園でも持続し、初戦の静岡戦に勝利した後、さらに2回戦の鹿屋中央戦でも、エース岩下の好投で、快勝。3回戦の八戸学院光星戦では惜しくも敗れたものの、エース岩下は8回二死まで完封ペースと試合の主導権を握る戦いぶりを見せていた。星稜も全国でその力を遺憾なく発揮したチームだった。

 北信越大会出場は逃したが、夏5年ぶり出場の敦賀気比は3試合連続二桁得点と圧倒的なスコアで勝ち上がっている。投打の総合力は日本文理と遜色ない凄味がある。
エース平沼 翔太(2年)はまだ2年生ながら、完成度の高い大型右腕。来年のドラフト候補に挙がる存在となるだろう。

 さらに強打で引っ張る遊撃手・浅井 洸耶(3年)、パンチ力ある打撃と守備範囲の広い中堅守備が光る峯 健太郎(3年)、春日部共栄戦(試合レポート)で本塁打を放った強打の捕手・岡田 耕大(3年)と魅力的な選手が揃っている。

 敦賀気比は昨年の選抜でベスト4に進出し、2年続けて甲子園の上位に入っており、黄金時代を迎えつつある。

 北信越全体では昨年は富山第一がベスト8、今年は日本文理敦賀気比の2校がベスト8進出。 今大会もっとも躍進を見せた北信越勢。この勢い、何年もかけて持続できるか注目していきたい。

(文=河嶋宗一

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