夏直前!戦力レポート 桐蔭学園高等学校(神奈川)
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二度の敗戦が桐蔭学園を変えた
今年の春季神奈川県大会で14年ぶりの優勝を果たした桐蔭学園。桐蔭学園は高橋由伸(読売ジャイアンツ)、平野恵一(オリックス・バファローズ)、鈴木大地(千葉ロッテマリーンズ)を筆頭にプロで活躍する選手だけではなく、大学・社会人で活躍するOBを多数輩出してきた名門だ。
活躍する要因は練習の取り組む姿勢、挨拶など基礎的なモノまでしっかりと叩きこむチームカラーがある。打撃は確実にミート出来る形をつくり、守備では球際の強い守備を完成させる。そして選手の姿勢は前向きで、意欲的に取り組む姿勢が多く、チームワークを大事にする選手が多い。桐蔭学園のチームワークの良さ、結束力の高さを象徴しているのは試合前のランニングだ。ランニングをする選手が掛け声をかけ合いながら両足を綺麗に揃え、歩幅が乱れずにランニングを行なっている姿は美しい。
だが、桐蔭学園は、14年も夏の甲子園に遠ざかっている。これほどの好選手を輩出しても甲子園に行けない。それだけ神奈川の夏の厳しさを物語っている。
春季大会優勝は、甲子園に出場した14年ぶりのことだ。また、桐蔭学園は過去2年間、夏は苦杯を舐め続けた。2011年夏は、準決勝で桐光学園に4対5で敗戦。2012年夏も、今度は決勝で桐光学園に4対11で敗戦した。
▲桐蔭学園・斎藤大将
夏の雪辱を果たそうと誓った秋の県大会でも準々決勝で東海大相模に1対2で敗れ、関東を逃した。
雪辱を果たすために桐蔭学園は、戦い方のスタイルを変えた。エースの斎藤 大将(3年)がほぼ一人で投げたことである。桐蔭学園は一人の投手ではなく、複数の投手を起用するチームだ。2011年夏のベスト4、2012年夏の県準優勝の時もそうだ。2011年には、内海 裕太、藤岡 雅俊、2012年には斎藤の他に瀬古 拓央(3年)、横塚 博亮(現・国士舘大)、辻中 知樹(3年)が投げていた。今年は瀬古、辻中が残り、力量のある投手がスタンバイしている。だが県は斎藤がほぼ一人で投げ抜いた。とはいえ、夏の連戦を考えたら複数の投手陣がいたほうがいい。
春の県大会はセンバツ選考の大会でもない。関東出場したとしても夏の甲子園に直結しない。そのためエースではなく、二番手投手を登板させ経験を積ませるケースもある。桐蔭学園はどちらかというと複数の投手を投げさせるチームだったが、この春の県大会に一人のエースを投げさせたのはやはり夏のためである。大事なところで踏ん張り切れるエースを作る必要があった。複数の投手で投げていたチームが一人のエースに拘ることを貫くにはその投手の絶対的な能力、完投できるスタミナ、精神的な強さが必要になる。その素質があったのが斎藤であった。
一試合に懸ける意気込みが強いチームへ
斎藤は昨年まで140キロ近い速球を投げ込み、キレのあるスライダーを投げる好投手。だが、スライダーに頼り過ぎてしまい、直球のコントロールが甘くなって打ち込まれることがあった。今ほどの絶対感はなく、桐蔭学園の複数投手陣の一人という印象しなかった。
夏決勝の桐光学園戦、秋準々決勝の東海大相模戦の敗戦が彼を大きくしたのだろう。1年経って斎藤は変幻自在の投球ができる投手に成長していた。右打者には内角に食い込む140キロ近いストレートに、外角に逃げるツーシームを取り入れ、投球の幅が格段に進化。そしてピンチになっても動じずにカウントを組み立て、打ち取れるようになった。
斎藤は県大会2回戦の相洋戦で6回無失点、3回戦の戸塚戦で6回1失点、4回戦の法政二では1安打完封勝利、準々決勝の平塚学園戦では4安打完封勝利を上げ準決勝に進出した。
続く準決勝の東海大相模戦。昨秋に敗れている相手に対し、斎藤は燃えに燃えていた。いきなり1番の遠藤 裕也を空振り三振。振り逃げになったが、後続の打者を打ち取り、無失点。得意のスライダーが冴え渡り、東海大相模打線を封じるそして3回表に打席が回った斎藤は走者一掃の三塁打を放ち、5対0と突き放す。なおも追加点を加え、7対0のまま9回裏。斎藤は1点を返されるが、見事1失点完投勝利をあげて雪辱を果たした。
決勝戦の桐光学園戦では、関東大会出場が決まっていて、エースを投げさせる必要もなかったが、桐光学園がエースの松井ではなく、2年生右腕の山田 将士が登板したのに対し、桐蔭学園はエースの斎藤を先発させた。桐蔭学園は本気で春の優勝を狙っていたのを確信した。試合は桐蔭学園が2回に2点を先制。斎藤は再三ランナーを出しながらも要所で、開き直って打者に立ち向かっていく投球で、桐光学園打線を無失点に抑え、そして打っては8回に本塁打を放つ大活躍。斎藤は8安打完封勝利を果たし、14年ぶりの県優勝に輝いたのである。
斎藤は神奈川春季県大会で48回を投げて48イニングを投げて僅か2失点。防御率0.19ではまさに大エースに相応しい活躍を見せたのだ。打者としても自分からチャンスを切り開き、チャンスの場面で決める勝負強い打者になった。
また斎藤が好投できたのは守備陣の支えもある。今年のチームには、田畑 秀也(現・JX-ENEOS)、茂木 栄五郎(現・早大)のような存在感を示す選手はいない。だが野手全員がカバーしあって斎藤を盛り立て、チームワークの良いチームに成長した。
捕手の伊勢 裕行(3年)はキャッチング能力が優れ、斎藤のストレート、変化球も難なくキャッチし、斎藤は投球に専念し、投球の幅が出てきた。伊勢は自慢の強肩でランナーを刺し、斎藤を助ける。内野手陣では三塁・高橋 塁(3年)、遊撃・星 貴裕(3年)、二塁・町田 大輔(3年)が堅実な守備で、アウトを積み重ね、外野手も堅実な守備で、斎藤の無失点の投球を演出したのだ。
桐蔭学園が変化したこと。表向きに見れば、斎藤一人で投げていることに見える。だがそれだけではない。エースが打たれたら仕方ない。力尽きたら仕方ない。でもゲームセットがコールされるまでは全力で闘いぬく。桐蔭学園の春季大会の戦いぶりを見るとそれぐらい腹をくくって試合に臨んでいる。一戦一戦が勝負。一つの試合にかける意気込みの強さ、選手の気迫の強さは今まで強いチームだ。
そして今年の桐蔭学園は特別な年である。長年、桐蔭学園を率いてきた土屋恵三郎監督がこの夏で勇退することが決まっている。チーム全体が勝ちたい意気込みの強さが例年以上なのは土屋監督の最後の年で有終の美を飾ろうと桐蔭学園全体で機運が高まっているのかもしれない。
大会は7回勝たないと甲子園に行けない激戦区。だからこそ春では勝負にこだわって勝ちに拘る強いチームになった。一つ一つの勝負に全力を出したことが、選手の成長につながった。
一戦、一戦勝ち進み、昨年、悔しさを味わった決勝の舞台へ。次こそは勝者になるつもりだ。