Column

野球選手にとって睡眠が大切なワケ

2013.05.15

ケガをしている選手こそよく睡眠をとろう

こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

毎日練習で夜遅くに帰ってきても、自宅でついつい夜更かしをしてしまったり、朝食の時間を抜いてまで寝ていたり。皆さんにそんな身に覚えはありませんか? 野球の練習を積み重ね、トレーニングで基礎体力をつけ、身体を作るためにしっかり三食の食事をとっていても、睡眠が不十分であったり浅い眠りが続いたりしてしまうと、身体のコンディションに大きく影響してしまいます。今回はなぜ野球選手にとって睡眠が大切なのかについてお話をしたいと思います。

睡眠時には脳の視床下部で成長ホルモンと呼ばれる生理活性物質が生成され、血液にのって全身に運ばれます。成長ホルモンはその名の通り身体の成長を促す作用があり、骨の伸張作用(いわゆる骨が伸びる)、筋肉の成長、栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質等)の代謝を促進することなどが知られています。「寝る子は育つ」という言葉は、睡眠時に成長ホルモンが分泌されることで身体が大きくなることを言い表している言葉と言えるでしょう。

また成長ホルモンはトレーニングや運動後、疲労した筋肉の修復を行うためにより多く分泌されることがわかっています。たとえば筋肉痛を起こした筋線維は適切な栄養と休養によって、受けたダメージに負けない強い筋線維を作ろうとします(これが超回復と呼ばれる)。そのため、トレーニングや練習後にアミノ酸など筋肉のもととなるタンパク質を摂取することは、成長ホルモンの恩恵を受けながらより早く筋肉の回復効果を期待したものと言えます。こういった栄養補給の仕方は睡眠時にも効果的であり、タンパク質を含むバランスの良い食事をとってよく眠ることは、野球選手にとって身体を大きくするために不可欠なのです。

成長ホルモンがより多く分泌される時間帯については諸説ありますが、22時~2時をピークに分泌されると言われているので、遅くても深夜0時までには就寝することが望ましいと考えられます。一方で昼寝であっても成長ホルモンは分泌されると言われていますので、身体の疲労感を感じる場合などは、練習と練習の合間に休憩時間を設けるなど積極的に睡眠による疲労回復を取り入れることも一つの方法です。また睡眠時には細胞内にある老廃物の除去や、新陳代謝が盛んに行われるため、ケガをした選手ほど十分な睡眠をとるようにしましょう。損傷した組織を修復するためには患部のリバビリテーションや筋力トレーニングだけではなく、質の良い睡眠がケガの回復を早めると考えられます。


睡眠不足は集中力・判断力・やる気に影響を及ぼす

睡眠は身体のさまざまな部分を修復し、身体を大きくするため、ケガから回復するために必要不可欠なものですが、身体のみならず脳に対しても睡眠は大きな影響を及ぼします。身体はたとえ丸一日眠らなかったとしても、ロボットの電池切れのように「動けなくなる」といったことはありませんが、脳に関連すること、たとえば「集中力」「判断力」「やる気」といったことは、睡眠不足によってかなり低下すると考えられます。雑誌「ナショナルジオグラフィック」によると「睡眠不足は酔っているのと同じくらい集中力や判断力を損なう」ということが紹介されており、野球のプレーにおいても集中力、判断力の欠如は大きなマイナス要因となります。

また脳に及ぼす睡眠の影響としては、起きている時の記憶や感情の整理・消去などを行うことがあげられます。睡眠には記憶を固定させる働きがあり、日中に練習した内容などを就寝前に思い返してイメージしながら眠ることは、記憶の強化につながることが期待できます。その一方で睡眠には不快な記憶や感情を消去する働きがあり、ぐっすり眠った翌日に気分がスッキリするのは、このメカニズムが関与しているのではないかと考えられます。

睡眠は脳に休息を与えることができる唯一の行為です。レム睡眠(浅い眠り)とノンレム睡眠(深い眠り)については以前のコラム「良い睡眠を心がけよう」でもその出現リズムについてご紹介しましたが、深い眠りであるノンレム睡眠時には大脳の活動が休息状態に入っています。一日の中で脳が休める時間帯はこの限られたノンレム睡眠時のみになるため、睡眠不足によってこのリズムが乱れると脳が十分休むことが出来なくなってしまいます。しっかり眠って心身ともによい状態でプレーできるよう心がけましょう。

参考ページ)特集:眠りの神秘(ナショナルジオグラフィック 2010年5月号)
http://nationalgeographic.jp/nng/magazine/1005/feature03/

【なぜ野球選手にとって睡眠が大切なワケ】
●睡眠時には身体の成長に不可欠な成長ホルモンが分泌される
●成長ホルモンがより多く分泌される時間帯がある
●睡眠はケガをした部位の組織修復を早める効果が期待できる
●睡眠不足は身体へのダメージだけではなく脳にも大きな影響を及ぼす
●脳は睡眠中に記憶や感情の整理・除去などを行う
●睡眠は脳に休息を与えることができる唯一の行為

(文=西村 典子

次回、第69回公開は05月30日を予定しております。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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