大阪桐蔭vs遠軽
3連覇へ 大阪桐蔭上々のスタート
甲子園大会史上初となる「春→夏→春」の3連覇を狙う王者・大阪桐蔭が登場。21世紀枠出場の遠軽相手に11点をあげ初戦を制した。
のっけから驚かされたのは1回表の大阪桐蔭の攻撃である。一死走者なしで打席に立った2番峯本匠(2年)がバットを一閃すると打球はセンター前に鋭いライナーになって飛び、これをダイレクトで捕ろうとしたセンターのグラブをすり抜け、打球はセンターフェンスまで達した。峯本はこれを確認するとそれからは三塁ベースコーチの指示だけを見て、気がついたときはホームベースまで生還していた。この間に費やした時間は14.99秒。今シーズン私が見た中で初のランニングホームランである。
14.99秒というタイムは超高校級と言って過言ではない。プロ野球の練習ではベース1周14秒台は珍しくなく、巨人の鈴木尚広クラスなら13秒台で走る。しかし実戦で打ったあと走塁に向かうまでの態勢作りや、打球の行方を確認する作業を考えたら13秒台で走ることは至難の業である。高校生が14秒台で走ることの素晴らしさに驚いてほしい。
最初にもの凄いプレーを見せられてしまったからか、遠軽バッテリーは慎重に行きすぎた。何とその後の死球が6個を数えたのだ。7番辻田大樹(3年)などは1~3打席まで連続して死球を受けている。
それも影響したのか、大阪桐蔭各打者の振りが固い。友人のスポーツライターが試合中、同校コーチと顔を合わせたとき「皆ガチガチになってヘッドが出てこない」と言っていたという。私は捕手寄りのミートポイントを徹底しているための打球の詰まりだと思っていたが、精神的な問題だったようだ。これに相手投手の制球難が加わり、大阪桐蔭打線に奇妙なプレッシャーが生じた。
大阪桐蔭で不安なのは打線だけではない。守備の要で、ドラフト1位候補の呼び声高い森友哉(3年)も不安要素を抱えている。
遠軽は1回裏、1番鴨野崇希(3年)がセンター前ヒットを放つと、バント、三盗などをからめ二死三塁のチャンスを作り、4番柳橋倖輝(3年)の内野安打で同点としている。6回にも荒谷偉吹(3年)が二盗してチャンスを作っているが、どうして足に特徴のない遠軽に強肩の森が2盗塁を決められたのだろうか。それを考える前に、この試合のイニング間で森友哉が記録した二塁送球タイムを紹介しよう。
※投手が投球練習の最後に投げたボールを捕手が捕球し、その球を二塁に投げる練習をする。これがイニング間の二塁送球である。
「2.04秒、2.26秒」――これが私が計測したイニング間の二塁送球タイムで、あまりの気の乗らなさぶりに呆れて、これ以外はストップウォッチを押さなかった。ちなみに、1回に三盗されたときの三塁送球タイムは1.67秒と遅かった。森友哉クラスの強肩なら1.5秒台で投げるのが普通である。
いろいろな部分で不安要素を露呈したが、それでも大阪桐蔭は強かった。森友哉は打つことに関してはまったく不安がなく、昨年春、夏に猛威を振るったフルスイングは今年も健在。さらに最初に話題にした峯本の俊足ぶりや、5番笠松悠哉(3年)の長打にも驚かされた。整備途上の投手陣次第という注釈はつくが、大阪桐蔭は史上初の3季連続優勝へ向けて上々のスタートを切ったと言っていいだろう。
(文=小関順二)