敦賀気比vs盛岡大附
試合中の一つのプレー・瞬間のジャッジで大きく結果が変わってくるのが野球である。
今大会、松倉雄太が試合を決定づける「勝負の瞬間」を検証する。
雨上がりの外野芝生を読んで
36校出場の今大会は変則的な日程になっている。このゲーム、2戦目のなる盛岡大附は大会2日目に勝利した後、中4日空いての3回戦。逆に2勝を挙げた敦賀気比はトーナメント表の性質上、中1日でゲームに臨まなければいけなくなった。
序盤3回までは盛岡大附の左腕・及川豪(3年)と、敦賀気比の岸本淳希(3年)が頑張り両チームともに無得点で中盤に入った。
ゲームが大きく動いたのは4回表。敦賀気比は先頭の2番米満一聖(3年)がセンターの右を抜ける二塁打を放って出塁した。続く打順は3番山田誠也、4番喜多亮太(ともに3年)の中軸だが、ここは及川が踏ん張り二人とも凡退。二死と二塁と場面が進んだ。
5番は初戦(沖縄尚学戦)で5打数5安打と好調だった2年生の浅井洸耶。マウンドの及川はボールが先行し、3ボールとなった後に1球ストライクを取る。そして5球目、及川の投じた球に浅井のバットが反応。打球は三遊間を破りレフト前へ転がる。レフトの吉田嵐(3年)はやや浅めに守っていたが、二塁走者の米満一は三塁ベースコーチである弟・米満凪(2年)のグルグル回す腕を見て一気に本塁を狙う。吉田からの返球が少しだけ一塁寄りに逸れて、米満一は先制のホームを踏んだ。
三塁ベースコーチである米満凪は浅めのシフトにも関わらず、抜けた瞬間に迷わずに本塁突入を決めた心境をこう話す。
「チャンスが少なかったので、一つのチャンスをものにしたかった。ランナーが兄(一聖)であり、足が速かったので還れると頭に入れて思い切りまわしました」。
兄の生還にしてやったりという表情を見せた弟。打撃好調のチームで先制点に貢献できたことを喜んだ。
実は先制点に繋がるポイントは前のイニングである3回表の攻撃にある。
敦賀気比は二死二塁の場面で1番峯健太郎(2年)がライト前へゴロで抜けるヒットを放った。バックホームに備えて少し浅めだったライトの松本裕樹(2年)。だが、三塁ベースコーチの米満凪は心に決めていた。
「雨上がりのグラウンドだったので、外野にボールが転がると濡れる。滑ってしっかり返球できない可能性が高い。そういう部分につけ込みたかった」と迷うことなく本塁突入を決断する。
この場面では、「ベストボール。あれだけの返球をされるとは」と東哲平監督が話すように、松本の強い肩とストライク返球で三塁走者の山根貴基(3年)はアウトになった。
「あれは仕方がない」と話した米満凪は、松本の肩の強さを讃えることが、同時に自分の判断が失敗だったわけでは捉えていた。さらにその裏には、『何度も同じような返球ができる確率は低い』との見方をすることもできる。
チャンスを潰したことでも後ろ向きにならず、少々浅くてもドンドン攻めようと決心させるきっかけにもなった3回の本塁憤死。
ここがこのゲームにおける本当の勝負の瞬間(とき)だった。
米満凪にお話を伺うと元々は一塁ベースコーチで、大会直前の3月に三塁ベースコーチへ抜擢されたという。
「直前までベンチに誰が入るわからない状況だったので誰にするか決めていなかったのですが、声が出るし、ジェスチャーもしっかりできる。凪が適任かなと思いました」と東監督は思いを話す。
その米満凪は、「経験がまだないので、勘だけです」とはにかんだ。
4回には力投する岸本自身のタイムリー二塁打と、好調の兄・米満一の一打で2点を追加。「序盤は球が荒れていた」と話す岸本は毎回のようにヒットで走者を背負うが、相手打線を繋げずに散発の7安打完封。厳しい日程を乗り越えてベスト8進出を決めた。
一方で敗れた盛岡大附。7安打のうち6安打がイニングの先頭打者が放ったヒット。それを「送らせないようにしよう」(敦賀気比のキャッチャー・喜多主将)という相手の術中に、中々攻略の糸口を見いだせなかった。
三浦智聡主将(3年)は、「チャンスの時に、打席の選手が気負っているのがわかった」とあと一本が出なかったことに課題を感じていた。
春夏合わせて10回目の出場で初勝利を果たした今大会。新たな1ページを加えて、夏の岩手大会2連覇を目指す。
(文=松倉雄太)