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ブルペンキャッチャーの心得 大滝裕也(日本文理)

2012.02.03

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ブルペンキャッチャーの心得 大滝裕也(日本文理)2012年02月03日

 2011年、夏の甲子園に2季連続出場を果たした新潟の日本文理田村勇磨波多野陽介の2人の2年生投手を軸に、新潟大会を無敗で勝ち上がってきた。

 そんな投手陣を支えてきたのが、3年生捕手の大滝裕也。高校2年の夏、自らブルペンキャッチャーの道を選んだ。それは、高校野球の残りの一年間を“プレーヤー”としてではなく、“裏方”というポジションで自分を生かすという選択でもあった。

 まだマウンド経験少ない後輩投手たちを育ててきた大滝の存在は、チームにとっても大きかった。いったい、なぜ大滝は自ら決断をしたのか。また、どんな工夫をして負けない投手陣を育てていったのか。

 今回は、2012年3月に高校卒業となる大滝裕也選手から、チームと後輩が成長するためのヒントを語っていただきました。(以下、大滝裕也選手談)

チームの戦力になりたかった

 大滝裕也(日本文理)

 当時、正捕手には同級生の村上がいて実力もダントツだったので、チームのことを考えたら、自分がブルペンキャッチャーに専念すれば、ピッチャーがもっと育つんじゃないかな。そういった存在がチームに必要なんじゃないかなと思って、新チームが始まった8月のはじめに選手から転向しました。

 僕は甲子園で勝つために文理に入ったので、その中で自分が戦力になれるには、これしかないなって感じたんですよね。試合に出ている9人だけが戦力じゃないって思っていましたから。

意味のない練習をさせない

 波多野陽介(日本文理)

 田村や波多野たちとは、学年が違うので学校とか寮ではあまり一緒にいることが出来ない分、練習中は邪魔だって思われるぐらい常に一緒にいました。

 ランニングも一緒に長距離を走って、一緒にキャッチボールもやる。常に近くにいて、今日の課題を聞きながらアップしたり、僕からも「今日はこうしたらいいんじゃない?」とコミュニケーションをとる。ブルペンに入る前に、ピッチャーとの意識統一を図ることが大事だと考えていたからです。

 もし、ピッチャーが何かその日に課題を持っていたのに、キャッチャー側が分からずになんとなくブルペンに入っていたとしたら、練習の意味がないんですよね。

 ただ速い球を投げる、ただ球数を多く投げることなら誰でもできるけど、高校野球は考えてやらないと勝てない。だから、「こういう場面を想定してやろう」とか、「今日はクイックやろう」とテーマを決めたり、ピッチングフォームのビデオを撮って「明日はこういうふうにして投げよう」とピッチャーと話し合いながらやっていましたね。

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[page_break:ブルペンキャッチャーの役割とは?]

ブルペンキャッチャーの役割とは?

“選手に合わせて伝え方を工夫しました”

 1学年下の投手陣は全員、性格が違いました。やる時はやる投手、言わないとやらない投手。その選手に合わせての伝え方に気をつけました。こういう言葉を使って伝えたら、どんなこと考えるかな?って。
 実は、僕は中学時代はキャプテンをやっていたんですけど、何でもかんでも自分が正しいと思ってたんです。そんな時、当時の監督さんから「人のこと考えろ」って言われて、ハッと気付くところがあったんですよね。

 「やれよ」と命令口調で言っても、その場ではやるけど続かないんです。だから、「やってみない?」「これやったら絶対よくなるよ」そういう言い方を選ぶようにしました。

 もちろん、立場によって使う言葉は変わってくると思うので、後輩に気を遣うわけではなくて、ブルペンキャッチャーの立場として僕はそういう言葉を選ぶようにしました。

 試合においても、頻繁に声を掛けました。冷静に見れるポジションにいる分、「あそこは、この球だったんじゃない?」とピッチャーとキャッチャーの両方に声を掛けたり、監督が何か大事なことをベンチの中で言っていたら、それを伝えたりしましたね。

 だけど、教えすぎてもダメなんですよね。ピッチャーが、考えて投げていかないと、僕らが引退したら、今度は自分の力で勝つことが難しくなってしまう。だから、日頃の練習から考えさせて投げるようにしていました。

 また、調子が悪くても悪いなりに投げさせることも大事だと思っていました。
「今日は、球がいかない」「調子が悪い」となったら、よくピッチャーは練習での球数を減らしたがるけど、調子が悪いときに、試合に当たったりすることだってある。だから、そういったことも考えて、ピッチングさせるのもブルペンキャッチャーにとっては大事だと思うんです。

 ただ速い球を投げる、ただ球数を多く投げることなら誰でもできるけど、高校野球は考えてやらないと勝てない。だから、「こういう場面を想定してやろう」とか、「今日はクイックやろう」とテーマを決めたり、ピッチングフォームのビデオを撮って「明日はこういうふうにして投げよう」とピッチャーと話し合いながらやっていましたね。

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[page_break:後輩の成長を感じた冬]

後輩の成長を感じた冬

 第93回選手権大会1回戦 日大三対日本文理

 ひと冬越えて、後輩たちは大きく成長してくれました。自主的に雪道を走りに行くようになったり、体幹トレーニングを自分で取り組むようになりました。とくに、冬場に追い込めば絶対に変わるんだってことを証明してくれたのが波多野です。あれだけやったんだという自信もついたと思います。

 夏の新潟大会は苦しんだけど、負ける感じはなかったですね。波多野は、真っ直ぐがいいピッチャーなので、「真っ直ぐで勝負すればいける」って思って、試合中はそういった声を結構掛けていました。

 夏の甲子園では、初戦日大三と対戦して、先取点は取ったけど、日大三にあったあの勢いがうちにはなかった。相手打線の対応力は高くて、空振りするんじゃなくて全部ファールにして、それでピッチャーが置きにいった変化球を打たれてしまった。僕は、相手のベンチを意識して見ていましたが、どの選手も考えて野球をやっているなっていうのが伝わってきました。

甲子園で感じた野球の楽しさ

“後輩たちには常に高いところを目指して欲しい”

 僕は、大学でも硬式野球を続けます。甲子園を見て、全国の舞台っていいなって改めて思ったんです。高いレベルの選手と同じのダイヤモンドの中で野球がやれるって楽しいなって思いました。ベンチやブルペンにいるだけで、あれだけ楽しかったんで、試合に出てキャッチャーが出来たらもっと楽しいのかなって。

 文理で学んだ野球と考え方を生かして、今度は選手として失敗する、成功するということではなくて、楽しみたいなって思っています!
 後輩たちには、自分たちができなかった全国制覇を目指してほしいですね。140キロ投げて満足するんじゃなくて、やることしっかりやって、常に高いところ目指してやってほしいです。

大滝選手がサポートしてきた田村投手や波多野投手をはじめとした2年生たちは今年がラストサマー。
大滝選手から掛けてもらった熱い言葉を胸に、この夏は頂点を目指します!

(文・編集部、試合写真・中谷明

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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