頑張れ商業高校!!全部員16人で頑張る半田商野球部
1、2年生14人 マネージャー2人
“その日の練習のテーマを話す伊藤監督”
商業科教員として赴任してきて4年目の伊藤仁監督は、県内公立の強豪として、甲子園出場実績もある成章の出身だ。高校時代の恩師である糟谷寛文監督から、心の足並みが揃った野球を徹底してたたき込まれている。岐阜経済大を卒業後も、成章でコーチとして糟谷監督をサポートしていたこともある。
そして、初任校採用として赴任してきたのが半田商だった。
かつて、広島カープの創成期から活躍していた長谷川良平投手(通算197勝208敗、後に広島監督、00年に野球殿堂入り)やロッテで新人王(1974年)も獲得した三井雅晴投手(通算29勝28敗22S)というプロ野球選手も輩出している伝統の野球部だ。しかし、近年は全国的な傾向でもあるのだが、商業校の男子生徒激減に伴い、部員不足で部活動として存続そのものも危ぶまれるくらいだった。
それに、学校自体も荒れてきていた時代もあった。それでも、伊藤監督が赴任してきて4年前には、野球部としては強い弱いは別にして、基本中の基本である、挨拶やマナーは何となく整いつつあるようにはなっていたという。
“県立半田商高等学校 伊藤仁監督”
ただ、チームとしての内実は厳しかった。伊藤監督自身が経験してきた野球とは、別次元のものだったというのが正直なところだった。本人も、「ここへ来て見て、自分たちが、高校時代には、いかに恵まれた中でやっていたのかということを、改めて実感しました」というのが、本音である。
そして、自分が学んできた野球を、少しでも多く、この半田商の選手たちに伝えてあげたい、そんな気持ちで熱心に指導している。そして、それに、選手たちも徐々に反応して応えつつあるのだ。
「正直言って、ウチへくるような子は、中学時代にだって、クラスでも部活でも目立っていて、リーダーシップを取ってきたようにタイプの子じゃないんですよ。誰かの後を突いてきたという子が多いと思います。だから、まずは、気持ちを積極的にさせてあげること、そこからはじめていかないといけないんです」
これが、半田商で指導を始めて実感したことでもある。そのためには、選手個々に自信を持たせることと、積極性を持たせること、このことがメインとなる。
成章出身・伊藤監督の冬季トレーニング計画
“息が上がってきても、歯を食いしばって明るく走る”
冬場のトレーニングでは、8時半から、最初にフリー打撃とロングティーなどさまざまなティーバッティングで振りこんでからは、砂浜トレーニングになる。ここでは、特に気持ちを強く持たせていくようなトレーニングメニューを中心として組んでいる。学校から、約7キロ離れた亀崎港の砂浜まで走っていくと、そこで行う強化トレーニングは、声出しから始まる。自由なパフォーマンスから大声を出して気持ちを鼓舞していくのだ。
これで身体と心がほぐれると、部員を二つに分けて、相撲の対抗戦なども行う。当たりが弱い選手に対しては、30歳の伊藤監督自身が相手になって、投げ飛ばしていって、選手たちの反発心や負けない意識を育てていく。
サッカーボールを使ったパントゲームでも、負けチームは、罰ゲームで砂浜ダッシュとなる。まずは、遊びながら足腰と体幹、さらには精神力を鍛えていくという目的である。
その後は、定番のトレーニングメニューが待っている。ノーマルダッシュの他に、腕立て前進やジャンプ、スケートダッシュなどをこなしていく。さらには、砂浜で広い場所を利用して、外野ノックからの中継練習も行う。
海岸で風が強くて冷たいのと、足場も思うにならない状況である。それでも、いつものグラウンドと同じような動きを要求される。砂浜だけに、捕球に関しては思い切って飛び込んでいくこともできるが、ボールの追い方、カットの入り方など、基本的なことを確認していくのが目的だ。
“砂浜トレーニングは地下足袋で行う”
再び、学校まで戻っていくと、昼食を挟んで、午後からはボール回しに重点を置いた守備練習となる。ここでも、どういう捕球姿勢が次の動作に持っていきやすいのかというような、徹底的に基本を確認し合っていく。伊藤監督は、場合によっては自分が動いてプレーを示しながら指導していく。選手たちは、それを姿勢を正して聞いていく。
こういう繰り返しをしながら、冬場のトレーニングは進んでいく。
休日だと、女子バレー部やバスケット部は地元では強豪で、活発な活動をしているが、グラウンドでは、他の部はほとんど活動をしていないということが多い。だから、グラウンドはほぼ専用球場状態で使用できる。グラウンドには黒土が入れられており、このあたりの整備は行き届いている。
練習開始前には、全員でグラウンドに向かって校歌を斉唱する。そこから、全員の足が揃うまで、徹底してランニングをする。ランニングで足並みをそろえるというこだわりは、成章時代に伊藤監督自身が身をもって学んでいったことでもある。
コールド負けから県大会進出までの道のり
“半田商部員達”
3年前は公式戦がすべてコールド負けという最悪の状態からスタートしたのだが、昨秋は知多地区予選を勝ち上がって、県大会進出を果たすことが出来るチームにまで成長してきた。この夏は、3回戦で知多翔洋に敗退したが、もう一つ勝てば、成章との対戦が待っていたが、伊藤監督としては、それがならなかったのは残念だったという。
男子生徒の絶対数が少ないという現実があり、部員確保は毎年大変だというのは、半田商に限らず、地方の公立商業校の現状である。それでも、部活動を通じて学校そのものを活性化していきたいという指導者の意識が根差しているところでは、確実に結果を残すようになってきている。それが、学校全体にもいい雰囲気、いい空気を作りだす一助を担っている。
半田商も、そんな一つに復活しつつある。かつての強豪時代を知るOBや地元の人たちも、そんな「HANSHO」の復活を待ち望んでいる。
ひと冬越えて、心身ともに、さらに逞しくなった半田商野球部が来春、どんなチームになっているのか楽しみである。
(文・写真=手束仁)