試合レポート

明徳義塾vs宇和島東

2011.10.26

明徳義塾vs宇和島東 | 高校野球ドットコム

明徳義塾先発・福丈幸(2年)

優勝候補が接戦で示した「勝利への定義」

「優勝候補?そこに落とし穴があるんよ」。
これは今大会初日、敵情視察に訪れた明徳義塾・馬淵史郎監督が「優勝候補はどこや?」と筆者に問い、思わず視線を送った瞬間の返答である。

右本格派・最速140キロの福丈幸(2年)、183センチの大型左腕・小方聖稀(1年)、「明徳の林昌勇(東京ヤクルト)」最速144キロ右サイドハンド福永智之(2年)の豪華投手陣3本柱。ムードメイカーの伊與田一起(2年)をトップバッターに、相手投手に合わせどんな打順も組める剛軟交えた攻撃陣。そして大胆不敵なリードが冴える杉原賢吾(2年)、伊與田、今里征馬(2年)が組む鉄壁の二遊間、俊足のセンター合田悟(2年・主将)が組むセンターラインを中心とした水も漏らさぬディフェンス。例年以上に「絶対本命」の名にふさわしい形で乗り込んできた秋季四国大会でも、名将の手綱は全く緩んでいなかった。

かくして迎えた宇和島東との初戦。「2007年・こけら落としで小松島高と試合をして以来」(飯野勝部長)となるアグリあなんスタジアムで、彼らは高知県予選5試合30得点5失点の実力をいきなり観衆に披露する。まず攻撃ででは2回表、1死から6番・髙橋拓也、7番・宋皞均(ソン・ホキュン)の1年生コンビが直球に詰まりながらヒットゾーンに運び髙橋の好走塁もあって1・3塁とすると、続く福の5球目に宋も盗塁で2・3塁に。

いかにも「らしい」相手の動揺を誘う小技の連続で、明徳義塾はプロ注目の144キロ右腕・中川源和(2年)を徐々に袋小路へと追い込んでいく。
次のボール、中川の「慎重になりすぎた」甘いスライダーを狙い打った福の一打はレフト線に弾み、明徳義塾は2点を先制した。


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大先輩・岩村明憲(楽天)ばりの巧打を見せる4番・岩森健一郎(宇和島東)

さらにこの先制打で気分も乗った福はマウンドでも「スライダーのキレを増すために修正した」新フォームもフィットし4回2死までパーフェクトピッチ。このように宇和島東に何もさせない明徳義塾の戦いぶりにスタジアムには早くも「快勝」と「完敗」ムードが交錯し始めた。

ところが宇和島東はここから怒涛の反撃を見せる。そのきっかけはベンチが牛鬼打線に与えた的確なアドバイスであった。「変化球に合っていなかったので『外のスライダーはストライクでも振るな、見逃し三振でもいい』と話をしました」(浅野秀夫監督)。

こうして狙い球を絞りなおすことができた選手たちは4回裏2死から3番・山内省吾(2年)が初ヒットで口火を切ると、4番・岩森健一郎(2年)も大先輩の岩村明憲(東北楽天)を想起させるどっしりした構えからカーブを巧くセンターに運んで1・2塁。さらに5番・原田裕輔(2年)「投げる際に沈み込むことができなくなって、ボールが浮いてしまった」福の甘いスライダーを三遊間へ。アドバイスをすぐに打席に表現した中軸打線の3連打で宇和島東は1点を返した。


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9回表明徳義塾2番合田悟(2年・主将)中の犠飛で今里征馬(2年)が生還

一方、中川も3回以降はこの日最速140キロを掲示した直球主体に配球を切り替え4イニング無失点。完全に明徳義塾の勢いをせき止めた彼らは6回・先頭の1番・坂井勇文(1年)が絶妙の投手横ドラックバントで出塁すると、犠打でランナーを進めた2死2塁から岩森がアウトローの難しいボールをレフト線に落とし同点。

2点を先制された後、わずか1時間あまりで馬淵監督が懸念していた「落とし穴」に明徳義塾を突き落とした宇和島東の修正力は見事という他ないものだった。

全く土俵中央、互角の展開で終盤へと突入した両者。そしてこの好ゲームを最後に制したのは相手のミスを確実に得点へ結び付ける明徳義塾の二枚腰であった。7回表には9番の今里が四球で出塁し、伊與田が犠打で送った2死2塁から3番・杉原のセカンドゴロがエラーを招き勝ち越し。9回にも連続四球を選んだ今里を再び伊與田が2塁へと送り、さらに相手パスボールで3塁に進んだ今里を2番・合田が中犠飛で迎え入れ4点目。

その裏、福が1死2塁から6番・宮本広大(2年)に適時打を浴び1点差に迫られただけに、この1点は明暗を分けるものとなったのである。

「いらないランナーを出しすぎた」と指揮官が唇を噛み、エースも「コントロールを身に付けないとチームが負けることになる」と悔しさを露わにした宇和島東の悔い。それは裏を返せば6回以降無安打のわずか5安打も6四死球を選んで3回を除き毎回塁上を賑わせ、センバツ中四国一般選考への最低条件となる四国大会ベスト4をもぎ取った明徳義塾の「勝利への執念」を認める発言でもあった。

そして「宇和島東はさすが。四国大会に出たら簡単には負けないチーム」と相手の健闘を素直に称えた馬淵監督は帰り際に故郷愛媛県の代表校に対しチクリとこう釘を刺した。

「でも、守りとバントがしっかりできないと四国大会では勝てない。だから、負ける気はしなかったですね」。

(文=寺下友徳)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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