Interview

横浜ベイスターズ 筒香嘉智選手

2011.07.13

第75回 横浜ベイスターズ 筒香嘉智選手2011年08月05日


 GWの谷間、横須賀にあるベイスターズ球場では横浜のファームと社会人野球チームによる交流戦が行われていた。「4番・サード」でスタメン出場していた横浜・筒香嘉智は犠牲フライを放つなど、バッターボックスで独特の風格を見せていた。守る方でも、三塁線への強烈な打球をダイビングでキャッチし、落ちついて処理して見せた。本来ならここにいるべき選手ではないが、筒香は焦ることなく、ファームで研鑽の日々を積んでいる。

「まだ練習があるんで、少し待ってもらうことになりますけど、時間大丈夫ですか?」 

 筒香が試合を終えて、挨拶にやってきた。こちら側としては取材に来たわけだから、彼を待つ時間など惜しくないのだが、取材者を気遣う心遣いは非常に気持ちのいいものである。そんな言葉をスっと言えるのが筒香という男である。

 筒香と初めて会話を交わしたのは、彼がプロ入りを決めた09年冬のことである。中学時代を過ごした堺ビッグボーイズの南花台グラウンドで、当時の彼はこういったものである。

「みんなと同じということはないですから。特長やフォームは、それぞれある」

 高校通算68本塁打を放ち、『ハマのゴジラ』と称された。ホームランアーチストであることだけで、常に比較されることが多かった筒香だが、そんな中にあっても、自分の中にある軸を崩さなかったのである。

 さらに、その言葉は10年オフ、さらなる深みを増す。「ハマのゴジラ」として「55」を身に着けていた筒香の背番号が「8」へと変わったのである。いってみれば、「ゴジラ」の愛称を捨てたというわけだ。1年前に彼の意思を確認していたものからすると、いかにも彼らしいと感じる一幕だが、並大抵の男では果たせない。世間の評判に迎合し、そこに流されない芯の強さが彼にはあるのだ。

 彼自身がどのような野球人生を歩み、今を確立してきたのか。話は名門・横浜高時代をさらに遡り、中学時代の道筋から振り返ってもらった。

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【目次】
■将来にむけた土台作り
■長打力をつくりあげたトレーニング
■名門・横浜高校で学んだ休養の必要性
■高いパフォーマンスを維持するために

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【目次】
■将来にむけた土台作り
■長打力をつくりあげたトレーニング
■名門・横浜高校で学んだ休養の必要性
■高いパフォーマンスを維持するために

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将来にむけた土台作り

“先のことを考えて、レベルアップしていきたい”

――開幕は2軍スタート。今はどのような気持ちで取り組んでいますか?

筒香選手(以下「筒」) 今、結果ばかりを求め過ぎて野球をしても、いつか躓く(つまづく)時が来ると思っています。今は土台を作って、将来に向けてやることが大事じゃないかな、と。今、やっていることが、2年後、3年後に生きてくるように、取り組んでいます。

――キャンプ、OP戦では一軍でしたが、足りないものを感じましたか?

「筒」 全然、力が足りていないなと思いました。いい結果を求めて、上で活躍することを周りの人たちが求めていると思うんですけど、焦って結果だけになってしまっても、『本物』にはならない。すぐ駄目になると思う。そういう意味でも、2年後、3年後のためにやらなければいけないことが僕にはあるなと思っています。

――むしろ、中途半端に結果が出なくて良かったですか?

「筒」 『良かった』というと怒られると思うんですけど、逆にこうなったからこそ、できることがあると思う。自分に足りていないのは『これだけ』というより、全体的にレベルアップしないといけない。結果を出すためだけに必死にやるんじゃなくて、先のことを考えて、レベルアップしていきたい。バッティングで言えば、逆方向に大きい打球を打つことを目標にしていきたいです。 

――昨年のことも振り返ってもらいたいのですが、イースタンでは結果が出ましたよね?

「筒」 去年は下でじっくり育てていただけるという話で、しっかりやれたのが大きかったです。焦って一軍へ行くより、二軍で育てる方針でやっていただいたので、自分のためにはなったと思います。

――去年はどんなことをテーマにしていたんですか?

「筒」 バッティングはインサイドアウトでバットを出して、逆方向に大きいホームランを打つつもりでやってきました。守備・走塁に関しても、今まで以上にレベルアップすることを目指してきました。去年1年は、いろんな意味で勉強になりました。

――シーズン終盤には一軍に上がり、阪神の久保田からホームランを放ちましたね?

「筒」 確かに、ホームランは打てましたけど、あそこがすべてじゃないです。これから先もありますし、たまたまホームランを打つことができましたけど、バッティング自体が自分のものになっていないと思います。あの試合でホームランを打つのがすべてで野球をやってきたわけではないので、一つの打席として捉えています。

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【目次】
■将来にむけた土台作り
■長打力をつくりあげたトレーニング
■名門・横浜高校で学んだ休養の必要性
■高いパフォーマンスを維持するために

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長打力をつくりあげたトレーニング

“呼吸から始まってバーのエクササイズ”

――プロになる以前の話も聞きたいのですが、そもそも、筒香選手の中で原点というか、この時は忘れられない時期ってありますか?

「筒」 小学校の時はガムシャラに野球が好きで、練習もたくさんしたと思うし、それはそれで良かったなと思うのですが、野球人生が変わったなと思ったのは中学生ですね。

――中学時代について詳しく教えてください。

「筒」 僕が所属していた堺ビッグボーイズは指導者の方が結果だけを求めるんじゃない方針で見てくれていたのが大きかったです。じっくり身体を作れましたし、いろんな方にお会いできて、いろんな話も聞けた。指導者の方が、結果だけを追い求めずに、逆に野球以外の私生活などの重要性を教えていただいたので、それが大きかった。また一般的なものとは違うトレーニング方法も、矢田先生(矢田整骨院)という方に教えていただきました。「結果を出すために練習をやっているんじゃないよ」というのが分かって、成長できたと思う。

――矢田先生からはどんなことを教わったんですか?

「筒」 正直にいうと、兄にやれって言われて、矢田先生のところに連れていってもらってたんですけど、最初はやっていることの意味が分からなかった。(矢田先生は)体操を教えてくださるのですが、ただやっているだけだった。それが、2年生の終わりから3年生の始めくらいになるにつれて、意味が分かるようになってきた。それからは体操をやった方が、身体が良くなるというのを感じながらできるようになりました。

――体操とは、つまりどんなことですか?

「筒」 どうやって説明したらいいのか難しいのですが、呼吸から始まってバーのエクササイズです。要するに、自分の正しい重心の置き方を確認するというものです。重心の置き方が段々分かるようになってきてからは、身体の動かし方が分かってきました。呼吸法というのは20秒吸いきって、20秒止めて、次は20秒吐き切る。これをやることで、自分の重心の位置が分かってくるようになる。バーのエクササイズはバーを持って下を固定して横に動く。分かりやすく言えば、身体の体幹、中身を動かす体操ですね。身体の中から動いているのを確認できました

――体操に重きを置くということは、ウェイトはしていなかったんですか?

「筒」 今まで、ウェイトってしたことないです。しようとさえ思ったことがないです。その体操があったからです。ウェイトは筋肉がついて、どこかしら、今までとは違う動きになるわけですじゃないですか。そうなってくると、故障っていうのが出てくると思う。今、野球をやっている中学生、高校生とか、ウェイトをしていると思いますが、僕は必要ないと思います。

――筒香選手は、中学の時に怪我をしたそうですね?

「筒」 中学生の早い時期に怪我をしています。ピッチャーをやっていて、肩が痛くなりました。小学校の時に投げすぎていたのだと思いますが、中学生になって、すぐに肩が痛くなった。今までやっていた疲労が来たのだと思います。そこで矢田先生に体操を教えてもらって、体操をしていくうちに、だんだん良くなってきた。最初は「この先生、すごいわぁ。治してくれる」くらいに思っていたんですけど、先生の言っていることが理解できて、体操の意味が理解できるようになってからは、自分の体重が乗っているかどうかが、分かるようになってきました。

――ひょっとすると、スイッチヒッターをやっていたのも、その流れがあったからですか?

「筒」 そうです。バランスの問題で大事だってことで教えてもらいました。左打ちの練習をしたら、必ず右打ちもやるようにと言われていました。最初は試合で打つために練習している感じじゃなかったんです。体操で自分の身体のバランス的な問題で、矢田先生の体操の中でやっていただけでした。それがトレーニングで終わらなかったんです。でも、体操をやっていたんで、スイッチをやる意味を理解できたのかなと思います。普通にスイッチをやっていたら効果が分からなかったかもしれないけど、体操をやっていたので、右も同じ感覚でできました。

――どのような効果を感じましたか?

「筒」 ボールの見え方から、偏っていたなぁと思いました。左だけやっていたら気付かない部分があると思うんですけど、両方をやることによって、バッティングフォームでも、右打席ではこうなっているけど、左ではこうなのかと気付く部分はありました。

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■長打力をつくりあげたトレーニング
■名門・横浜高校で学んだ休養の必要性
■高いパフォーマンスを維持するために

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名門・横浜高校で学んだ休養の必要性

“身体を休める時は休めて、やる時はやる”

――中学時代に学んできたことと、今やっている、逆方向というテーマはつながってきているような気がしますか?

「筒」 小学校の時はガムシャラに野球が好きで、練習もたくさんしたと思うし、それはそれで良かったなと思うのですが、野球人生が変わったなと思ったのは中学生ですね。

――中学時代について詳しく教えてください。

「筒」 今も体操をずっとやっていますし、体操が重要だというのは変わりません。小さい時から怪我をしてしまったら、本当に意味がないと思います。高校になっても無理しすぎることによって将来に響く。若い時は気付かないと思うんですけど、年齢を重ねて野球をやっていくうちに、昔やっていたことの意味が出てきました。僕の場合は、中学生の時に結果だけを求められずに無理をせずにやってくださったことが良かった。今につながっていると思っています。

――中学生の時点で、結果を求めずにやるって、結構、難しいことだと思いますが、打ちたいとか思わなかった?

「筒」 1年生の間は打ちたいと思っていました。けど、ずっとそう言われてきたんで、指導者の方が言うことの意味が理解できるようになってからは冷静に判断できるようになりました。今だけを求め過ぎずに、これから高校生になって野球を続けていくことになるんで、先のことに重点を置いてやれました。

――特に重要に思っていたことは?

「筒」 土日の練習だけが一番大事じゃなくて、日頃の私生活とか、すべてが野球に影響してくるということです。「野球のためなら」という気持ちで取り組みました。勉強にしても、高校のこともあるので大事に思っていましたし、遊ぶ時間を削ってでも、矢田先生から教えていただいた体操をすることを大事にしてきました。練習をすることも大事ですけど、特に体操については、しっかりやっていた方が野球は上手くなるという実感があります。

――でも、横浜高は名門校ですし、結果を出さなければいけない。結果を求められてブレたりしませんでしたか?

「筒」 やっぱりブレましたね。ただ、高校の厳しい中でやれたっていうのは大きな財産になりました。中学3年間の貯金が自分にあったんで、高校3年間を怪我もなくやりきれた。ただ、逆にいえば、去年は貯金はなくなっていたに等しい状態だったので、これからはしっかり体操をして、貯金を作っていかないといけないと思う。

――筒香選手にとっては、筋トレよりも体操っていうのはかわらないんですね?

「筒」 今でも、ガンガンやる筋力トレーニングは必要ないと思っています。体操でどれだけ小さい選手でも、力がしっかり伝われば、強い打球が打てるということも分かりました。自分の力の伝え方が理解できてきます。上になればなるほど、中学時代から教わったことの大切さがわかってきました。

――筒香選手から、中学、高校生にアドバイスをするとしたら、どんなことがありますか?

「筒」 ただ練習だけをやったら上手くなるということではないということです。休むことの重要性もありますし、身体を休める時は休めて、やる時はやる。身体の休養をとる重要性もある。身体が疲れたままやっても、身につかないですし、怪我をする要因だと思う。結果だけ欲しがらず、野球以外の私生活の面からしっかりやって欲しいですね。私生活からしっかりしている選手の方が野球は上手くなっていくと思う。

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■長打力をつくりあげたトレーニング
■名門・横浜高校で学んだ休養の必要性
■高いパフォーマンスを維持するために

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高いパフォーマンスを維持するために

“ONYONEのウェアーには違和感がないんですよ”

――筒香選手は、色々比較されますが、それについてはいかがですか?ホームランバッターとして、松井秀喜とか、T-岡田とか、中田翔とか。

「筒」 そうですね……。僕は人とは重ならないかなと思っているんで、これからどういう風になりたいというのをしっかり描いて、それになるために何をしないといけないのか。一気に飛び越えようとせずに、段階を踏んで昇って行きたい。

――世間では○○世代とか流行ってますが、筒香選手の世代には、菊池選手とか、今宮選手、秋山選手がいますが、同世代の意識はありますか?

「筒」 ないですね。対戦もしてないですし、自分は本当にやることをしっかりやって、試合になったら、試合前の準備があります。特に今は、2年後、3年後にバリバリ活躍できるように、しっかり土台を作っていかないといけない。しっかり休む時は休んで、疲れが残らないように、体操でカバーできるところはカバーしてやっていけたらと思います。

――道具についてはいかがですか?ウェアーとか、自分のパフォーマンスを発揮するのに、こだわってますか?

「筒」 大事にします。グラブなど、道具はまだ決まっていないですが、自分の良いパフォーマンスができるように、本当に、一番に協力してくれるメーカーさんを使っていきたいです。

――ウェアーは、今来ているONYONEがフィットしているんですか?

「筒」 一番動きやすいんです。もちろん、汗が乾きやすいのがありますけど、ONYONEのウェアーには違和感がないんですよ。気にならないっていうか、汗でびちょびちょになったから気持ち悪いとかがない。

――野球と一緒で感覚的な違いですか?

「筒」 これも、最初の方は分からなかったんですけど、理解できるようになってから良いなぁと思うようになりました。ONYONEを着て、他のウェアー着たら、一番分かるんです。なんか、背中の方が気持ち悪いなぁとか、気になるんです。汗をかいたら、着替えないといけないですし。ONYONEでも、夏場はすごく汗をかくので着替えますけど、枚数は少ないと思います。

――最後にこの1年はどんな年にしたいですか?

「筒」 今年、上に上がることだけがすべてじゃないと思う。これから先につなげていくためにできることを一生懸命、精一杯やって、自分で考えながらやっていきたいと思います。期待をされているのは分かっているので、結果を出さないと申し訳ないと思うんですけど、今年だけがすべてじゃない。これから先のことを考えてやっていくことが大事だと思う。そっちの方を優先して、少しずつでも成長していけたらと思います。

 先日、ある球団のスカウトがふとした時に、筒香の話をしていた。「パワーで打っている選手だね。だから、今、苦労しているんだと思うよ」。この取材を終えた感想からすると、その指摘は正しくはない。筒香には目指したい野球があり、それに向かい、忠実に実行できる強さがあるからだ。

 筒香が、なぜ、あれほどのスラッガーになったのかは、きっと彼が上で活躍するたび、語られるときがくるだろう。その時、また改めて彼が続けてきた「体操」や中学時代から結果を求めずにやってきたことがクローズアップされるに違いない。

 野球界に新しい風を吹き込んでくれる、と筒香の活躍に期待を寄せたい。

(文・インタビュー:氏原英明)

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