東大阪大柏原vs城東工科
城東工科がみせた「攻める」姿勢
全国の普通公立校に見せたい試合だった。
大阪大会2回戦・東大阪大柏原VS城東工科は、普通公立校が強豪私学に立ち向かっていくあるべき姿勢を見せたゲームだったからだ。
今大会の優勝候補の一つにも挙げられている東大阪大柏原は、ドラフト候補としても注目される石川慎を中心に、好守に鍛えあげられたチームだ。2年生エースの福山はストレートとスライダーのコンビネーションが素晴らしく、そう簡単に打ち崩せる投手ではない。指揮する田中監督は上宮高時代に選抜優勝の実績がある。
一方の城東工科は工業系の普通公立校。過去に、山田弘喜(元ヤクルト)を輩出したという実績はあるが、特に選手を勧誘しているわけでもなく、私学のような、野球に特化した学校ではない。今年でチームを指揮して19年目になる見戸監督は人間教育や投手育成に定評はあっても、全国区の監督ではない。
力関係がある場合、勝つ方法は「攻めるしかない」と見戸監督は言う。
その言葉を、城東工科・神尾主将は試合前の攻守決定から実行していく。じゃんけんに勝ち、先攻を取ったのだ。
そして、1回表、城東工科は先頭の秋山が中前安打で出塁し、果敢な攻めを仕掛けていくのである。2番・植田のところでは、高校野球の定石である送りバントをせずに、エンドランを敢行。ひくきがない。
「攻めるって言うてて、初回から送りバント。それは攻めていることにはならない」と見戸監督。植田の打球は二塁手の正面を突き、作戦は失敗に終わる(併殺打)が、城東工科がチャレンジャーとして、相手に掛かっている姿勢が読み取れたシーンだった。
一方の東大阪大柏原は2回裏、先頭の4番・石川慎が三塁線を破る二塁打で出塁する。ここで東大阪大柏原ベンチは定石通りの送りバントで1死・三塁の局面を作り、1点を取りに行く。
しかし、ここでは城東工科のエース・瀧上が踏ん張りを見せる。落差のあるカーブとストレートを巧みに使い分けて、連続三振を奪ったのだ。
バントを使わなかった城東工科。
バントを使った東大阪大柏原。
ともに無得点でも、攻めた分だけ、試合の主導権を握ったのは城東工科だった。力で勝る東大阪大柏原は走者を出すも、凡フライを連発。城東工科は何の苦もなく、ピンチを脱して行ったのである。
7回表、城東工科は2死から仕掛ける。
6番・岩田が内野安打で出塁すると、7番・熊谷の初球にエンドランを掛ける。下位打線だっただけに積極的に動いて活路を見出したのだ。熊谷は左翼前安打を放ち、2死1、2塁。好機をつかんだ。
8番は投手の瀧上。1打席目は力なく三振しているバッターである。この打席も、簡単にツーストライクと追い込まれ、苦しかった。その後、1球外し、1ボール2ストライクのあとの、4球目…。
城東工科は二人の走者が走った。
判定はボール。東大阪大柏原の捕手・石川慎は慌てて三塁へ送球するも、悪送球。
重盗は成功した。
ところが、この悪送球で三走と三塁手が交錯し、本塁には走れず。さらに、カバーに入った左翼手・望月がファンブルしていたが、三走・岩田は自重し、本塁生還はならなかった。
瀧上は三振に終わったが、二死からエンドランと重盗を決めた見事な『攻め』と言えた。8回表にも、城東工科は二死から内野安打で出塁すると、すぐさま、盗塁を仕掛けて成功。ドラフト候補と騒がれる石川慎をあざ笑うかのような盗塁。常に攻めの姿勢は崩していなかった。
しかし……、一本が出なかった。
8回裏、城東工科・瀧上の制球が乱れる。
先頭の9番・末武にストレートの四球を与える。犠打で二進の後、3者連続四球、つまり、押し出しで1点を失ったのだ。試合開始早々から主審のストライクゾーンは狭かったが、この回になって、東大阪大柏原打線が見極めてきたのだ。象徴的だったのが押し出しを選んだ石川慎への2球目で、バックネット裏に偵察に来ていた、強豪校の生徒たちが一斉に背筋を伸ばし、天を仰いだのだ。それほど、微妙な判定を見極めていた。
さらに、5番・西田のところで、東大阪大柏原ベンチはスクイズを指示。これが成功し、貴重な2点目を奪った。
城東工科はこれで力尽きた。
ヒット数は城東工科が6、東大阪大柏原が4。盗塁は城東工科が3で、東大阪大柏原が0だった。
城東工科の『攻め』ばかりが目立った試合だった。
とはいえ、城東工科は単に、攻めの姿勢を見せたわけではない。全ては準備を整えていたからできたことだ。
たとえば、エンドランや盗塁の攻め。組み合わせが決まってから、今日の試合までほぼ1カ月があったが、その間に仕込んできたのだ。「組み合わせが決まって、目標もできて、6月までは力のないチームでしたが、1ヶ月間でチーム力をあげることができた。試合が始まって東大阪大柏原を意識することはありませんでしたが、試合まで柏原を意識して良い練習ができた」と見戸監督はいう。
さらに、城東工科ナインが見せた、「対強豪・東大阪大柏原」に対しての臆することのない戦い。相手の質が上がって、過剰な対抗意識で力を発揮できないチームは多くあるが、城東工科ナインにはそれがなかった。主将の神尾は言う。
「ベストの力が出せた試合でした。相手が東大阪大柏原でも、いつもどおりの試合ができました。日常生活から、表裏を作らないようにやってきたことがつながったのだと思う」。
城東工科は野球だけでなく、日常生活を重んじている。見戸監督は、時に、こんな話をする。
「選手には、野球部、クラス、家。3つの顔がある。けど、根本は変わっていけない。3重人格の人間になって、それぞれのところで、態度が変わっていたら、相手や場所が変わった時、試合で自分の力を発揮することはできない」
『攻める』を大きなテーマにした城東工科の戦いぶり。彼らにあったのは戦いへの姿勢、戦術、日常生活。全てがつながっていた。
普通公立校が目指すべき戦い方を示したベストなゲームだった。