試合レポート

高田商vs高田

2011.07.12

高田商vs高田 | 高校野球ドットコム

高田・土井

集大成の夏 幸田、復活のサヨナラHR

壮絶な試合だった。

奈良高田―高田商という、高田市内にあるチーム同士の対決は最後まで試合の行方が予測できない白熱した展開になった。
ヒーローはサヨナラ本塁打を放った高田商のスラッガー・幸田だが、彼の話を取り上げるまえに、まずは試合の経過から振り返りたい。

高田商・仲川、奈良高田・土井の先発で始まったこの試合は、前半、奈良高田のエース土井が観衆の注目を釘づけにする。
右腕から投げおろす、二種類のスライダーが打者の手元で鋭く曲がり、137㌔あるストレートとのコンビネーションは秀逸。5回を被安打2、7奪三振の好投をみせた。大会前は、全く評判の投手ではなかったが、敵将・高田商の豆越監督だけではなく、スタンド、本部で見守る県高野連関係者ら、誰もが、舌を巻く、土井のピッチングだった。

高田商の先発・仲川が粘り強く投げたこともあり、5回を両者無得点。
試合は投手戦の様相を呈していた。

ところが、一転、6回裏に高田商が均衡を破ると、そこから試合が激しく動く。
高田商は、先頭の辻内が相手守備のミスで出塁、犠打で二進の後、四球を挟んで、3番・山下の適時二塁打で先制した。相手守備陣のミスを上手く付いた2得点だった。


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高田商・仲川

奈良高田も負けてはいない。
7回表、1死・二塁から8番・土井の適時打で反撃ののろしを上げると、二死・満塁として3番・玉井が左翼前へ適時打。2者が生還して、逆転に成功した。

その裏、今度は高田商が2番手・石投を攻め、先頭・仲川の出塁から好機をつかむと、8番・幸田が適時打を放ち同点。めまぐるしく試合が動き始めたのだ。

8回裏には高田商が見事な攻撃を見せる。
2死・2、3塁の好機から6番・仲川は三振。しかし、これを奈良高田の捕手・羽川が逸らし、振り逃げ。仲川が一塁に向かうと、羽川は一塁に転送。仲川はセーフになった。この間、高田商は三走・井上だけでなく、二走・山下までもが生還。見事な走塁で貴重な得点を挙げたのだ。

「土井君のスライダーは凄く切れていたし、奈良高田の投手は良かった。これは打ち崩すのは難しいと思ったので、走塁で点を取るしかないと思った。走塁の練習をずっとしてきたので、何とか、うちの持ち味が出たので、得点できた」と豆越監督。打てないならば、足を使っての攻撃は、チーム作りのたまものだ。

しかし、試合はこれで終わらなかった。9回表に、奈良高田が2死2、3塁の好機を作ると、2番・末吉が執念で適時打を放ち、同点においついたのである。
まさに、一進一退の攻防だった。


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高田商・幸田

そして、9回裏、そんな試合のケリをつけたのが、この日のヒーロー、幸田である。
9回裏から再びマウンドに上がった土井がボールを3つ続けて苦しんだところを見せると、幸田は4球目を一閃、右翼スタンドに突き刺した。

観客の度肝を抜く、弾丸の本塁打だった。

幸田は「塁に出ることだけを考えて打席に入りました。ホームランを打った感触はなかったです」と謙虚に語ったが、カウント3-0からの強振には恐れ入ったものだ。
9回裏無死からの打席。カウント3-0となれば、四球がよぎるものだが、幸田は積極的に振りにいった。
「あの場面ではなかなか、打ちに行けるものではない。彼の気持ちの強さがあったから振りに行けたのだと思う」と豆越監督はいう。

幸田はこの春までは4番を打っていた選手だが、春以降に調子を落とし、打順を降格されていた。それが、指揮官も驚きの、大活躍である。
本人に復調の要因を聞くと、面白い言葉が帰って来た。

「チームで草むしりなどの作業をやっている。野球以外にも、そういう部分を大事にしてきたことがここにきてつながってきたのだと思う。」
高田商は、例えば、土日などの試合の前に、環境整備の時間を設けている。監督自らが7時半にグラウンドに現れ、練習グラウンドの環境整備に当たるのだ。高田商はこれを“作業”といっている。

豆越監督が就任した2年前から始まったものだが、指揮官自らが動き、選手らが続いてやるようになった。「試合に出ている選手が、試合に出してもらっている感謝の気持ちを持って、先頭に立ってやらなアカンやろ」。旧チームでは、当初、反発もあったと言うが、チーム内で定着すると、今では誰もが“作業”を惜しみなくこなしている。

豆越監督は言う。
「幸田にはこの1年間でだいぶ厳しくしてきました。それでも、弱音を吐かずに、彼は黙々とやってきました。環境整備の作業もしっかりやる子でした。一生懸命やったら、誰かが見ているんでしょうね。今日の活躍は、彼の姿を誰かが見ていたということなんでしょう」

もともと、飛ばす力はあった。だが、それをコンスタントに発揮できる力が彼にはなかった。最後の夏の舞台で、輝きを放っている
「自分が活躍することよりも、チームが勝つことを最優先に考えています。もう一度、4番を打ちたいという気持ちもありますが、与えられた中で、自分の仕事をしっかりしていきたい」

殊勲のサヨナラ本塁打にも、緩んだ表情を見せない幸田。
当然、今日だけの活躍に終わるつもりはない。

(文=氏原英明

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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