福岡工vs九産大九産
大西祐樹(福岡工)
小さな左腕の快投劇
小雨が降る小郡球場。中止にはならない程度であるが、このような小雨の状態は選手としては嫌なコンディションのはずである。
しかしそのような状況の中、淡々と自分のピッチングを続けた投手がいた。
福岡福岡工、大西祐樹である。去年から福岡福岡工のエースナンバーをつけている左腕だ。
170cm満たない身長であるが、放たれるボールは打者のバットに当たることなく捕手のミットに納まっていった。
まずは初回、ピッチングのみならずバッティングでも非凡なところを見せつける。
先頭西田がレフトオーバーの2塁打を打った後、2番安川が送りバント。3番佐藤倒れるも、4番吉田の内野安打で1点先制。
そこで5番大西に打席が回ってきた。
大西は小さい体を目一杯使いフルスイング。センターオーバーの2塁打で2点目を挙げた。
先制した福岡福岡工であるが、今日の大西にはこの2点で十分だった。ここから大西の奪三振ショーが始まった。
小さい体ながら上から投げ下ろすフォーム。昨年春夏連覇した興南、島袋洋奨を思い出すような出所である。
ストレートとスライダーの腕の振りが全く同じ振り、同じ速さで振られるため、対応はかなり難しいであろう…
特にスライダーの変化は抜群。分かっていても打てない、その表現がぴったり合う抜群のスライダーである。
結果からいうと、なんとこの試合、大西は20の三振を九産大九産から奪う。
しかも打たれたヒットは1本、この1本は内野安打なので、ほぼ完璧な投球をみせたのである。
ピンチらしいピンチはなかったものの8回、大西は1死から死球、暴投で2塁まで進められるが、その後は2三振で切り抜け、狙って三振を取れるだけの力があることを証明してみせた。
大西祐樹(福岡工)
あれだけスライダーが決まるとストレートを狙ってくるのが通常の打者心理。
それをあざ笑うかのように初球からスライダーでストライクを取りにくる辺り、相当スライダーに自信があるのであろう。
あえて課題を挙げるのであれば、投げた後に右に流れること。
スライダーの変化がいいので振ってくれるが、いいバッターになればなるほど外れたスライダーを見逃してくる。
安定した投球を目指すのであれば、正しい重心移動を覚えたほうがいい。
また右打者に対するアウトコースのコントロールが良くなれば、更に幅広い投球ができるであろう。
上から投げ下ろすフォームだけに、右打者のアウトコースへは投げづらいので、その辺の克服が今後の課題。
福岡福岡工は基本的な動きがしっかりしている好チームである。
カバーリングはしっかりしており、外野フライでも2塁まで全力疾走する。
感心したのは投球練習最後の2塁への送球。
ほとんどの高校が2塁ベースに待っている選手が捕手からの送球を捕りタッチ、というプレーを見せる。
しかし福岡福岡工はそのような練習のための練習はしない。
捕手のミットに入るまでは、ショート・セカンドは通常のポジションにいる。そこから投げると同時にセカンドベースに入る、というプレーを見せてくれた。
これこそ本番をイメージした練習である。
公立校が久しく甲子園に出場していない福岡県…
福岡福岡工は確実に甲子園を狙えるチームになっている。
(文・撮影=久保田正一)