徳島県勢躍進のために~第 2 回体力技術向上研修会~
昨年から徳島県高校野球連盟が主催する「第2回徳島県高等学校野球体力・技術向上研修会」が、今年も11月27日、阿南市にある「アグリあなんスタジアム」で開催された。
今回は学校の枠を超えた徳島県勢強化の起爆剤となりつつあるこの行事内容と今後の課題などについて検証する。
沖縄県の「野球部対抗競技会」をヒントに
種目説明を聴く約220名の選手たち
「10年前に沖縄県で8種類の競技を学校対抗で争う『野球部対抗競技会』をしていると聞いたことで、僕の頭の中ではその頃からこのような行事を行いたい構想を持っていました。
そして、昨年6月に開催された日米親善高校野球大会でハワイ州選抜チームと対戦した徳島県選抜チームをみんなが大応援している一体感を見て、『ここで踏み切ろう』と思いました」(高橋監督)。
もちろんこの研修会における本来の目的は、オフシーズンのトレーニングを迎えるに当たって体力、技術を上げるモチベーションを与えること。
ただし、その成功はもう1つの目的である「学校の垣根を越えて1つの行事を行うこと」なくでは、到底成り立たないものである。
その意味では正に格好のタイミングとなった2009年11月に産声を上げた「徳島県高等学校野球体力・技術向上研修会」は、2回目を迎えた今回も県内各校部長・監督による協力の下、恒例行事への第一歩を踏み出したのであった。
「未来をも切り開く」ための体力テスト
第1種目・ベースランニング
午前中のメニューはベースランニング、遠投、ロングティーの順で各校の代表がその腕を競い合う基礎能力測定。
選手たちにとっては現在の実力を知ると同時に、観客に自らをアピールする格好の機会だ。
さらにネット裏に詰め掛けたNPBスカウトが「数字が出るのがいいね」と語ったように、普段の試合では分かりにくい個々の能力が数値化されることによって、選手たちが新たな未来を切り開く可能性もそこには含まれている。
となれば選手たちの表情はどの競技でも真剣そのもの。
中にはベースランニングで気合が空回りして転倒する選手なども見られたが、概して多くの好記録を残して競技は推移していった。
第3種目・ロングティー
ここで興味深いのはトップスコアラーを占めた3名の内訳だ。
前回は各校の中心選手が上位を占めた各部門であるが、今回ベースランニング部門トップの川又勝太、及び遠投部門トップの山本凌也(いずれも鳴門工)については、秋季県大会ではスタメン出場をしていない。
すなわちここでアピールを果たせた2人はシーズン3位から日本一を獲得した千葉ロッテのごとく、チーム内「下克上」への第一条件をクリアしたということになる。
はたして2人は、名門4番の矜持を示したロングティー部門1位の佐藤健人と共に今回得た自信をどのように活かしてくれるのか?実に楽しみだ。
そしてもし、彼らを含む参加選手が春以降に成果を残せたときには、この基礎能力測定は「躍進への登竜門」として、来年以降にまた1つ大きな意義を持ってくることになるだろう。
元プロの指導により、改善が見られた投手陣
ひじの使い方について指導する山崎慎太郎氏
かくして約3時間半を要した「基礎能力測定」の後には、徳島県で大きな課題となっている投手力を強化すべく今回から導入された「元プロ選手による投手技術指導講習」が、以下の4氏(敬称略)指導により行われた。
大石 清<清水商(静岡)-広島-阪急>
田中 調<高松(香川)-東映-ヤクルト>
渡辺 弘基<日立第一(茨城)-亜細亜大-日産自動車-阪急-広島>
山崎 慎太郎<新宮(和歌山)-近鉄-福岡ダイエー-広島-オリックス>
指導時間は参加全選手に指導を行き渡らせるため1組10分ながら、形式はブルペン投球を交えた本格的なもの。
よってコーチ4名の方による指導は実に具体的な、かつ熱を帯びたものとなる。
まず今年70歳とは思えないかくしゃくとした大石さんは、阪急-近鉄-日本ハム-阪神-日本ハム-大阪近鉄と5球団の計23年に渡る投手コーチ経験で得た「バランス、力の方向、軸の使い方、腕の位置、完全なる体重移動」という5点の投手チェックポイントを身振り手振りで披露。
直球の握りについて指導する田中調氏
また、田中さんはボールの握り方や、「早く投げようとしない」メンタル面のポイントを的確に指摘し、左投手を担当した渡辺さんは広島県のTV局でトーク番組を持つ話術を駆使し、選手たちだけでなく指導者に対しても基本に忠実なプレートの使い方や「キャッチャーミットまで線を引っ張って、その上を投げる」コントロールイメージを伝授。
さらに、80年代後半の近鉄投手陣を支えた山崎さんは「投球の7割を決める」ステップなどについて細かく指導を行った。
そんな4人の指導によって、わずか10分の間にも明らかな改善が見られた各校投手陣。
大石さんから軸足の安定性について指導を受けた最速138キロ、187センチ81キロの大型右腕・戸田啓太(板野2年)も「プロを経験している方からいい体験をさせてもらったし、チームとしていい課題を見つけられた」と嬉しそうな笑顔を見せていた。
投手指導に訪れたプロ野球OB(右から渡辺弘基氏、山崎慎太郎氏)
なお、指導を終えた山崎さんは高校生投手にこんなメッセージを贈っている。
「投手というのは特殊なものですから、悪さが自分で分かってもどう直せばいいのか分からないこともありますし、指導者もいじった後のフォローが難しいものなんですよ。ましてや高校生は甲子園がかかった中で体にかかる負担は大きいものになります。
ですから、まずはけがをしないようにバランスよく投げることが大事。今日、見ても手で投げる子が多かったので、体を使って投げることをやってほしい。筋力が付けば速いボールは投げられるようになりますから。
高校時代にうまくいけばその先も見えてきますから、僕らの指導がきっかけになって変ってくれれば嬉しいですね」。
徐々にハードルは下がってきたとはいえ、いまだに障壁があるプロアマ相互交流。
ただし、技術指導に特化したものであれば、プロ指導者、アマチュア指導者、そして何よりも選手たちに大きなメリットを生み出すことをこの日の3時間にわたる技術指導は証明してくれた。
すぐに流れを変えることが難しいことは重々承知しているが、今後は徳島県のみならず、各県にプロの確かな技術を習得できる機会が出来ることを強く望みたいところだ。
徳島県勢復権へ向け、挑戦は続く
第2種目・遠投力
こうして今回も大盛況のうちに幕を閉じた「徳島県高等学校野球体力・技術向上研修会」であるが、2回目ということで課題もまだ山積している。
たとえば、午後の技術指導は投手のみだったため、ブルペンで投球を受ける捕手以外の打者については完全に「見学モード」。
スタンドではやや暇をもてあます選手たちの姿が多々見られた。
もしこの時間を利用してバッティングないし、守備、走塁をプロから指導する機会があれば、より効率的にオフへのモチベーションを上げることができるのではないだろうか?
ただし、それを満たすには十分な場所と指導者、そして何よりも費用が欠かせない。
午前中の基礎能力測定種目を増加させるか否かを含め、最大公約数の中でいかに「プレーヤーズ・ファースト」を貫けるかも次回以降の課題になってくるだろう。
とはいえ、このような全県あげての強化行事は大いに評価できるもの。
2005年夏の第87回大会での鳴門工以来となるベスト8、そして1986年夏の第58回大会での池田以来の全国制覇へ向け、今後も「体力・技術向上研修会」を核とする徳島県高校野球界の挑戦は続いていく。
(文=寺下 友徳)