2018年の都立の星・吉岡桃汰(東大和南)「ドクターKの始まり」【前編】
今年の東西東京大会。特に熾烈な争いが予想されるのが西東京だ。春の都大会ベスト4に入った日大三、国士舘、早稲田実業、創価とすべて西東京。その西東京の強豪校が警戒するのが都立東大和南の吉岡桃汰投手だ。この春、最速140キロのストレートと縦に鋭く落ちるスライダーを武器に、34.2回を投げて63奪三振と驚異的な奪三振ペースで、「ドクターK」を襲名した。では吉岡の成長の歩みや要因を前編・後編に分けて紹介。
前編は中学時代の話や三振奪取をもたらした縦スライダー習得のきっかけを話してくれました。
高校では投手はおろか野球もやるつもりはなかった
東京屈指の左腕に成長した吉岡桃汰(都立東大和)
―― 武蔵野ライオンズに入部し野球を始めた吉岡投手。投手を始めたのは意外にも遅く、羽村第三中の3年生からだと聞きました。
吉岡桃汰(以下、吉岡): そうですね。3年生になる前の3月の春に、監督からちょっと練習してみるかと言われたのはじまりです。それまでは外野手や一塁手をやっていました。
―― 話を聞くと、中学時代は部員数がぎりぎりだったそうですね。
吉岡: 自分たちの学年は3人だけで、自分たち2年生と1年生であわせて6人でした。だから秋は出られなかったんです。冬を越して、春は小学校から上がってきた子たちを3人引っ張ってきて、なんとか9人で出場しました。最後は4番ピッチャーで試合に出場しました。大会は予選でもすぐに敗れていて大したことはなかったです。
―― 投手をするということは、元々肩は強かったのですか?
吉岡: それもそうですし、中学校の頃から人より大きかったので、その身体の大きさもあって、投手に選ばれたと思います。
―― 高校では野球をやるつもりではなかった聞きましたが
吉岡: 僕の中学時代は、人数が少ない野球部でしたので、部員も多くなる高校野球でやっていける自信がなかったんです。
実際に都立東大和南に入学して、本当はやるつもりがなかったんですけど、入学してみると、野球部以外でやってみたい部活がないんです。高校に入学してからもまだ悩んでいて野球部の練習を見てやっぱりいいなと思い入部しました。
高校で投手の基礎を大きく学ぶ
シャドーピッチングを行う吉岡桃汰(都立東大和)
―― 入部して、最初からピッチャーだったのですか?
吉岡: 入部当初はファーストでした。夏前からピッチャーをやるようになったのですが、最初は練習試合では1アウトも取れずに降板しました。ベンチ入りしたのは1年秋からですが、全然投手としては戦力になっていなかったですね。
―― そこからピッチングについて上達するためにどんなことを行ってきたのでしょうか?
吉岡: 高田敏之監督から投球のことを教わったり、プロ野球の投手や好投手の動画を見たりして、フォームや変化球の研究をしていました。
1年生の時の練習内容を振り返ると、ネットスローや1週間に1000球を投げるのがノルマで、投球フォームを固めていました。投球フォームを固めてストレートの質を上げることが目的だったと思います。
―― ネットスローはまだやっていますか?
吉岡: 最近は全然やっていないですね。でも、試合や投球練習をしたときに、指のかかりが悪いなと感じた時にはたまにやります。今は基礎に立ち返る意味でやっていますね。
―― ネットスローは吉岡投手にとっては大きな練習だったのですか?
吉岡: 肘支点だったので、体も使えず、端的にいえば上体投げだったんですよ。でもネットスローをやることによって、投球フォームも良くなりました。
―― 投げ始めの意識しているポイントは?
吉岡: 投げるときに捻りで肩を使ってもう一段階捻って投げるという事を髙田先生に教えていただいて、上腕にかけて腕を振ることをずっと意識していました。体の入れ替えをしっかりするということです。
―― 2年生になって、どんな投手になっていましたか?
吉岡: まだ今のような縦スライダーで三振を取る投手ではありませんでした。カーブ、スライダーには今のような精度はなく、三振を奪うというより、タイミングを外す投手でした。
一時期、サイドスローに挑戦していて、そのサイドスローのストレートでは三振を取れるピッチャーでした。
自分の目標となった櫻井周斗投手
―― サイドスローにした理由とは?
吉岡: 自分の回転軸が横回転だったので、サイドのほうがそのまま体の回転を生かせると思ったからです。オーバーよりも球速が出ていて、投げるときに腕も隠せるので、打者から出どころが見にくい形になっていたと思います。
これは高校1年生の3月から2年生の5月までやっていて、なぜ辞めたのかというと、5月に行われた紅白戦でチームメイトに当ててしまったからです。それがトラウマになったのかわからないですが、サイドスローはやめました。
今ではオーバー主体で、たまに相手打者のタイミングを狂わせる狙いでサイドスローで投げることはありますが、ほとんどサイドでは投げないです。唯一公式戦で投げたのが3年春の都立小山台戦です。試合後半のほとんどがサイドスローでした。捕手にも告げず突然投げようと思ったので捕手もびっくりしたと思います。
―― 体の回転が合うサイドスローではなく、オーバースローで投げる理由は何でしょうか。
吉岡: 変化球の精度ですね。オーバーと比べると変化球が全く曲がらないんです。とはいえ、サイドスローで投げてみて勉強になったのは間違いありません。
―― 吉岡投手の変化球といえば、縦に鋭く落ちるスライダー。誰がモデルなのでしょうか?
吉岡: 日大三からプロ入りした櫻井周斗選手(DeNAベイスターズ)です。スライダーは今ではストレートの次に自信がある球種となりました。
―― 櫻井選手に憧れたきっかけは?
吉岡: 1年生の秋なんですけど、一昨年の秋の大会前から櫻井投手は注目されていて、清宮幸太郎選手から5三振を奪ったじゃないですか。その動画を動画サイトやSNSで見ていて、日大三の櫻井投手のようなスライダーを投げれるようになりたいと思い、練習をしてきました。
なかなかあのスライダーには近づかないですが、自分のピッチングでは自信を込めて投げられる球種となっています。
後編では、2年秋からの成長の過程、春季大会4試合のピッチングの振り返りをしていただき、夏へ向けての意気込みを語って頂きました。
文=河嶋宗一