古賀悠斗(福岡大大濠) 「捕手転向1年で、誰もが信頼する捕手に」
9月3日、第28回WBSC U-18ベースボールワールドカップ3日目。アメリカに敗れた日本。この日、キューバ戦は勝利しないとスーパーラウンド進出の条件は厳しくなる。そこで日本首脳陣はオーダーのてこ入れを大きく行った。そこで先発マスクをかぶったのは、古賀悠斗(福岡大大濠)である。3投手をリードし、2試合で18得点と勢いに乗るキューバ打線を2失点に抑える好リードを見せた。
古賀の成長は丁寧な取り組みがあってこそ
ヒットを打った古賀悠斗(福岡大大濠)
知らない方に古賀の捕手歴をお伝えすると、古賀は捕手転向わずか1年のキャッチャーである。しかも人生初のキャッチャー。それが日本代表に選ばれ、強豪・キューバを破る原動力となった。
それができたのは、古賀の丁寧な取り組みによって進出できたといっても過言ではない。すぐに実戦練習に入らず、基礎練習を一から取り組んでキャッチング、スローイングを磨き、リードの基本も1年上の捕手・松本 敦輝(現・駒沢大)から教わり、成功・失敗を重ねながら選抜ベスト8に導く捕手となった。福岡大大濠を率いる八木啓伸監督が今年2月、古賀が足らないものを「実戦経験」と語っていたが、古賀のここまでの成長を見ると、1つの実戦経験を確実にものにできるキャッチャーといえる。それはかなり重要な素質である。
さて話をワールドカップに戻すと、現在、日本は1勝1敗。勝つことでスーパーラウンド進出へ大きくつながるだけではなく、まずオープニングラウンドの成績は決勝進出にもかかわるだけにキューバ戦は落とせない試合だった。重要な試合の中、リードする古賀は冷静だった。
常時140キロ前後、スライダー、フォーク、カーブと精度が高い山下 輝(木更津総合)についてはこうリードした。
「キューバ打線に合わせるといいますか、キューバは変化球が弱いので、山下の持ち味である真っすぐ、ツーシーム。それをうまくコンビネーションにした組み立てで勝負をしました。良かったのはツーシームとスライダーですね」
振り返れば、1回裏、一死二、三塁のピンチの場面で、キューバの4番A.ファドラガをフォークのような落ち方をするツーシームで空振り三振。後続打者を抑えると、その後、山下をストレート、ツーシーム、スライダーのコンビネーションで、6回途中まで1失点に抑える好投を見せた。また古賀はリードするだけではなく、そして捕手としての気配りを忘れなかった。ポイントごとに投手に声をかけていって、支えていた。
リードだけではなく、二塁送球も驚愕のタイムを計測
古賀悠斗(福岡大大濠)
この試合、何度もピンチを招きながらも抑えたが、その中で古賀が気持ちよかった場面と振り返ったのが、6回表、二死二、三塁の場面。投手は田浦文丸(秀岳館)に代わり、9番Mesaを全球スライダーで空振り三振。Mesaが前打席でもスライダーで三振。徹底としてスライダーを続けることができたのは、田浦のスライダーの切れの良さを信じてこそだ。
「田浦のボールには気持ちがこもっていて、それを強く感じていた。田浦とは中学時代、同じ福岡県のチームだったので、仲が良いんです。だから田浦をリードするのは気持ちよかったですね」
今大会、田浦はすべて古賀とバッテリーを組んでいるが、計5回を投げて10奪三振、被安打2、四死球1、防御率0.00と圧巻の好成績。相性抜群のバッテリーである。
9回表、甲子園優勝投手の清水達也(花咲徳栄)が登板。清水は雨で制球が定まらない中、マウンド上で声をかけ、一死満塁のピンチを招きながらも、併殺に切っており、2勝目に大きく貢献した。スーパーラウンド進出へ大きく前進する1勝となった。古賀は、次の試合へ向けてこう意気込みを語った。
「日の丸背負っているという変な緊張感は感じず、日の丸背負っているということは自覚しつつも、いつも通りやっていきたいと思います」
このコメントを聞いて、古賀が常に冷静なリードができるのもうなづけた。初戦のメキシコ戦を終えてのインタビューでは、中村 奨成(広島広陵)に負けたくないと語った古賀。リードだけではなく、強肩も披露。イニング間の二塁送球では1.78秒を記録。肩も中村に負けていないどころか、今まで1.7秒台を計測する捕手が2人いる日本代表は見たことがない。捕手転向1年の選手がこうやって世代最高のキャッチャーと争っているのだから面白い。
古賀はこれからも投手を寄り添い気遣い、誰も信頼する捕手となっていく。
(取材/文・河嶋 宗一)