夏の落雷事故を防ごう
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。
甲子園への切符をかけた地方大会も終わり、多くの学校が新チームをスタートさせていることと思います。夏休みに入り、練習や試合などが日中に行われることが多くなる時期となりました。この時期に気をつけたいのは天候の急変による落雷事故です。急な積乱雲の発生は夏によく起こり、突然の大雨や雷などをもたらします。
「落雷」は防ぐことができませんが、「落雷事故」は防ぐことが可能です。頻度は多くありませんが、こうした落雷事故に遭遇しないために知っておきたい基礎知識や、気をつけておきたいこと、心構えなどについてお話をしたいと思います。
なぜ夏に雷が多いのか
夏の午後から夕方にかけて多くなる雷
雷をもたらす積乱雲の発生は夏の時期によく起こります。
ニュースなどで「大気の状態が不安定」という言葉を聞くことがあると思いますが、上空の気温と地上の気温の温度差が大きく、上空に寒気が流れ込むことで雷が発生します。
地上の空気は水蒸気を多く含むため、上昇気流に乗って背の高い積乱雲となったところに上空からの寒気で冷やされると、水蒸気は積乱雲の中で冷やされて氷の粒や「あられ」となり、これらが上空でぶつかりあうことによって静電気を発生させ、たまった電気が地上に向かって放たれるのです。
真夏は、日中の強い日差しによって地上付近が暖められることで大気の状態が不安定になるため、気温がピークを迎える昼過ぎから夕方ごろに雷の発生が多くなります。
意外と知らない雷の基礎知識
雨も降らないのに外で雷の光を見かけることはよくあると思います。空がピカッと光ったとき、音との時間差によって「雷が近くに落ちた」「まだ遠そうだ」と確認することも多いでしょう。光と音の速度差はよく知られているところですが(光:約30万km/秒、音:約340m/秒)、「まだ遠い(音が遅い)から大丈夫」というのは間違いです。
雷雲は連なって出来ていることもあり、「音が遠いのに、雷雲は自分の真上にもかかっていた」というケースもあるそうです。また雷は真下だけではなく、斜めに落ちることもあるので、上空が晴れていても落ちる可能性があります。
子供の頃などに雷が聞こえたら時計やベルトなど「身につけている貴金属類を外す」ように教えられた人も多いでしょう。しかし今では身につけた貴金属類が落雷を受けたときに、電流が貴金属に多く流れて周辺部に火傷を負うものの、その分だけ体を流れる電流が減って死亡する可能性が低くなることがわかってきました。
またゴムやビニールなどは電気を通さない絶縁体として知られていますが、雷のような高い電圧では電気が流れてしまいます。ゴムの長靴やビニールのレインコートは雷を防ぐものではないことを理解しましょう。
雷は近くに高いものがあると、そこを通って落ちる傾向があります。野球では頭上につきだしたバットに落雷する事故が過去に多く発生しているようですが、グランドなどの開けた場所にプレーヤーが散らばっているような状態では身長差の有利・不利はなく、誰にでも落ちるリスクがありますので、雷が近づいたらすぐに中断し、安全な場所へ避難するようにしましょう。
心がけておきたいこと
雷に気がついたらバットなど長いものはすぐに手放すこと
野球は屋外のスポーツですので、天候に左右されることは皆さん経験済みだと思います。まずは一日の練習・試合の前に必ず天気予報をチェックしておくようにしましょう。
「大気の状態が不安定」ということであれば、お昼過ぎから夕方にかけて突然の雷雨に襲われるかもしれないということを理解しておく必要があります。
またあらかじめ雷が起こった際の避難場所を確認しておきましょう。避難場所として安全なのは、四方を囲まれた建物や車の中など。ベンチはオープンな状態ですので避難場所には不向きです。状況によっては事前に練習時間の設定なども考慮する必要があるでしょう。
積乱雲の近づく兆し
ピカッと光ったり、ゴロゴロと音がすると雷が近いということはすぐにわかりますが、急に暗くなり、厚い雲で覆われた空やヒヤッとした冷たい風が吹く、大粒の雨や「ひょう」が降る、といったことも積乱雲が近づく兆しです。こうした兆しが見られた場合はバットなど長い道具は手放し、建物や車の中に避難するようにしましょう。
突然激しい雷に遭遇してしまったら
木の近くで避難すると、落雷を受けた木から人体へと雷が放散することがあります(側撃雷)。木のそばは危ないので避難場所には不向きです。なるべく姿勢を低くした状態で、雷鳴の間にすばやく避難するようにしましょう。
もしも落雷事故にあったら
雷の電流が人体を流れるとショックで意識を失い、心肺停止状態に陥ることがあります。しかしすぐに応急処置を行うことで助かるケースがありますので、救急車を要請し、雷を受けた人を安全な場所に移動させて心肺蘇生法を実施します。倒れた人を触ると自分も感電してしまうのでは?という誤解があるかもしれませんが、落雷を受けた人を触っても雷の電気は残っていませんので感電することはありません。正しい知識をもって、その場にいる人から適切な応急処置を行うようにしましょう。
落雷事故は避難する建物がほとんどない山や海辺のほか、公園やグランド、田畑など日常的な場所でも発生します。「運任せ」ではなく、科学的な根拠に基づいた適切な行動を取ることが事故防止には大切なことですね。今回は「いのちを守る気象情報」(斉田季実治著/NHK出版新書)という書籍を参考に書かせていただきました。雷だけではなく、台風や大雨、大雪、熱中症など自然災害の基礎知識と行動指針がわかりやすくまとめられていますので、こちらも一読することをオススメいたします。
夏の落雷事故を防ごう
●雷は大気の状態が不安定な夏の午後、夕方に起こりやすい
●光と音の時間差があるからといって安心しない
●ヒヤッとした冷たい空気、大粒の雨や「ひょう」が降ると積乱雲が近づく兆し
●雷が近づいたらバットなど長いものはすぐに手放すこと
●避難場所をあらかじめ確認し、雷が近づいたら建物や車の中に避難する
●落雷を受けた人に触れても感電しない。すぐに救急車の要請と応急処置を行うこと
(文=西村 典子)
次回、第98回公開は8月15日を予定しております。