Column

生光学園高等学校(徳島)

2010.12.31

「野球部訪問」

第12回 生光学園高等学校 2010年12月31日

【生光学園高等学校】

いきなりであるが、最初に読者の皆さんへ1つ、2択クイズを出題したい。
「全国47都道府県において、私立の高等学校が甲子園に出場したことがない県はない。○か×か!」

答えは○。唯一、徳島県だけがこれまで一度も私立高等学校の甲子園出場がない県となっている。そして今回紹介するのは、その徳島県ただ1つの高校野球連盟加盟私学校「生光学園高等学校」である。開校翌年、1980年に野球部が創部して以来、これまで何度も跳ね返されてきた夢舞台。しかし、必ず扉は開く。そう信じて生光学園の部員たちは今日も走り続けている。

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甲子園への道を阻む「勝負弱さ」

貴重な左のワンポイントとして日本ハム、阪神で92試合に登板し、現在は阪神の打撃投手を務める原田健二。言わずと知れた北海道日本ハムのリリーフエースである武田久。そして昨年のドラフトで晴れて広島からドラフト7順目指名を受けた弦本悠希。創部30年で、3名のプロ野球投手を輩出していることからも明らかなように、生光学園は徳島県のみならず四国でも強豪校の1つとして認知されている。

だが、不思議なことに甲子園出場はこれまで一度もない。学校の目の前にほぼフル規格のグラウンド。

かつ多くの選手が学校隣接地にある寮で生活を送るなど、野球に取り組むにはこの上ない環境を持つ。夏は、武田が2年生エースだった1995年の徳島大会準優勝の成績を筆頭に、ベスト4に6度進出、ベスト8も8度進出。秋も1995年、2005年にベスト8と、5度の四国大会出場を果たしながら、いずれもあと一歩のところで膝を折ってきた。では、その要因は何なのか?

「今までは誰かがしてくれる『だろう』だったんです」。現役時代は富岡西-國學院大と進み、平成8年に生光学園部長に就任。その後、2年間の県高野連理事長や1年間のコーチを経て、今年で監督就任6年目を迎える山北栄治監督はこのような分析を加える。

確かに過去に筆者が目にした彼らにおいて目に付いたのは、徳島商鳴門工など全国でも名だたる強豪公立ばかりでなく、「生光にだけは」とアドレナリンを充填して立ち向かってくる公立高たちの「包囲網」に対し、想定外のビハインドを背負った際における粘りの無さ。このように選手個々に勝利への気持ちはあれど、それが肝心な時に結束できない意味においては、過去の生光学園は残念ながら「勝負弱い」と判断されても反論できないものであった。

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勝負弱さを克服するための「1ストライク紅白戦」

もちろん彼らもそれをよしとしているわけではない。指揮官は新チームからその傾向を克服すべく、ランダンプレーの要素を取り入れた3人1組でのキャッチボールやワンバウンドでのボール回しなど、これまでも実戦を想定した練習メニューに加え、「1ストライク紅白戦」なる試みに取り組んでいる。

その内容は、部員61名を実力均等に4チームに配分する。それは、「同レベルで少人数だと自分がやらんといかん」(山北監督)という自主性と、1ストライクとプレッシャーがかかったバッターボックスなら、それを克服できるという意図が含まれている。

しかもこの紅白戦では、首脳陣は全くゲームに関わることなく、監督役の選手が状況に応じてサインを出し、選手同士が常に声を掛け合うことで、ゲームメイクするルールになっている。

よって試合に勝つも負けるも全ては「自己責任」の世界。取材日においても右エース・剛球派の木下雄介(2年、大阪・加美ウイングス出身)、左エース・制球力に優れる沖垣泰史(2年、奈良・五条ドラゴンズ出身)の好投が光った紅白戦は、自ずと緊張感、スピード感のあるクロスゲームになっていた。

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全国優勝「ゴールデンエイジ」を携え、悲願の甲子園へ

そんな彼らにとってもう1つの原動力となっているのが、2006年にヤングリーグ所属の硬式野球部としてリ・スタートした生光学園中学校で2年前に春季大会全国優勝を経験した「ゴールデンエイジ」の存在である。

かつて巨人、大洋、ヤクルトで「左殺し」として名を馳せた平田薫監督の「高校野球で活躍できるための基礎を教える」指導方針によって、クオリティを高め続けてきた8人はいずれも粒ぞろいの人材。秋季大会でも、うち6人がベンチ入りし、中学時主将・徳永大輔や、当時のエースで現在はセンターを勤める出本優太郎を含む4名がスタメン。

特に徳永、出本の俊足コンビが組む右中間は、既に県内でも鉄壁を誇ると言っても過言ではない。この8人を含む1年生たちが仕掛ける競争は、扇の要を占める米田祐二主将をはじめとする2年生たちにも大きな刺激となっているのだ。

かくして、昨秋県大会では2回戦で優勝した徳島城南に5対9で惜敗した悔しさを晴らすべく、再び前を向いて走り出した生光学園
「現チームは昨夏ベスト4の鳥越脩平(3年)主将が残してくれたものを引き継いでくれているし、今年は本当に頑張ったら甲子園が狙えるチーム。技術だけでないプラスアルファをどう付けられるかです」と最後には確かな手ごたえと夏への決意を述べた山北監督。それは同時に選手、父兄、OB、中学生たち、そして生光学園にかかわる全ての人々にとっての願いでもある。

(文=寺下 友徳)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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