Column

敦賀気比高等学校(福井)【後編】

2016.01.28

 前編では厳しい寮生活を知りながらも、自律をしていく選手の様子を描いた。後編では人間的に成長を果たした2年生たちからメッセージをいただいた。

寮生活を選んでよかったと心から思っている

植村元紀外野手(敦賀気比高等学校)

 林中勇輝主将は「高校生活を通じ、自律という面でも成長できている実感がある」と語り、植村元紀外野手は「最初はつらくてたまらなかったけど、寮生活を選択してよかったと今は心から思う。自立心も育まれたと思うし、強くもなれた」と言い切った。

 敦賀気比の取材を通し、あらためて実感させられた寮生活が育む力。しかし高校野球ドットコムの読者の中には寮生活を送っていない球児も多数いる。そこで「自律というテーマを踏まえて、自宅から通学している球児でも参考にできるようなアドバイスやヒントはないですか?」という問いを選手たちにぶつけてみたところ、植村外野手が次のような話をしてくれた。

「寮に入るまでは洗濯はすべて親にやってもらっていました。でも親元を離れ、自分で洗濯をすることになったときに思ったんです。『こんな大変なことを親に毎日させていたのか…』と。寮に入ると親のありがたみがものすごくわかると、どの選手も口にしますが、それは自分も同じ。もし、仮に今の自分が自宅から通う高校球児だったら、自分の服やユニフォームは自分で洗濯せずにはいられないと思う。今は洗濯を例に出して言いましたが、きっと大事なのは、『自分でやろうと思えば出来ることは自分でやろう』という気持ちを持つこと。そして親への感謝の念を抱くこと。それが結果的に自律力を育むことにもつながってくるような気がします」

「自己責任」の中で育まれる自律型集団

 自律力が育まれやすい土壌は敦賀気比の技術指導の方針からも感じ取れた。東 哲平監督によれば「基本的にはヒントを与える程度の技術指導にとどめる」ことを指導者間で徹底しているのだという。

「『こう打ちなさい、こう投げなさい』といったような押し付け指導をした方が目先の成果は出やすいのかもしれませんが、それでは選手たちの考える力、試行錯誤する力が一向に養われない。今は技術本もたくさんありますし、インターネットの世界にもたくさんの情報があふれています。その気になれば自らの引き出しになりうるような情報は探せるわけですから、極力、自分の力で課題を克服し、上達につなげていってほしいという思いがあります。『誰かがうまくしてくれる』なんていう待ちの姿勢では、うちの野球部では到底生き残っていけません」

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[page_break:「自己責任」の中で育まれる自律型集団]

林中勇輝主将(敦賀気比高等学校)

 東監督は「基本スタンスはあくまでも『自己責任』」と続けた。一見、冷たい方針に聞こえるかもしれないが、指導者サイドが選手の試行錯誤を重ねる姿を見守ることは、語るよりもはるかに難しいものだ。
林中主将は「自分で考え、自分の意思の下で自分を追い込めなければこのチームでは置いていかれてしまう」と語った。選手サイドも指導者たちの愛情のこもった意図をしっかりと理解していることが伝わってきた。

 昨秋の北信越大会を制し、今春のセンバツ大会出場が確実視されている敦賀気比。林中主将は「優勝旗を返還するだけでなく、再び持ち帰りたい。もちろん狙うはセンバツ制覇です」と目標を力強く宣言した後、選手主導の下、確信に至ったという「甲子園で結果を出すための気持ちの持ち方のコツ」を筆者に教えてくれた。

去年の夏の甲子園大会を経験したメンバーがみんな口を揃えて言っていたのが『やってやろうという気持ちよりも楽しいという気持ちが勝っていたよな!』ということなんです。ぼくも楽しいという感覚に襲われながらずっとプレーできていた。あんな感覚に陥ったのは初めてのことでした。でもあれほどの大舞台にも関わらず、緊張することもプレッシャーに悩まされることもなく、自分の力をきちんと出し切れている感覚があった。

『楽しいと感じている時が人間は一番集中できている』という話を聞いたことがあるのですが、その通りだなと思えました。そして確信したんです。『結果を出そうと思いすぎるとかえっていい結果はでない』と。甲子園という場所は特にその傾向が強いと思う。目標はたしかにセンバツ連覇ですが、望む結果を出すためにも『勝たねばならない』『結果を出さなきゃいけない』という気持ちの持ち方は封印しようとみんなで話し合っています。今年の春も甲子園で目一杯楽しんでやろうと思っています!」

 選手主導でこの結論を導ける自律型チームが果たして全国にどれほどあるだろうか?聖地における敦賀気比の戦いぶりがますます楽しみになってきた。

(取材・写真:服部 健太郎


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【1月特集】2016年、自律型のチームになる!

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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