意外とシビアな盗塁の損益分岐!アウトカウントと塁の状況から作戦を考える①
盗塁の損益分岐を探る
0アウトランナー1塁。送りバント成功。場面は1アウトランナー2塁へ。実況は「見事に送りバント成功。スモールベースボールの基本ですね」と解説者とやりとり。
野球中継を見ていれば、おなじみの実況・解説だ。我々はなんとなく「0アウトランナー1塁」よりも「1アウトランナー2塁」の方が得点しやすいと思っている。
盗塁も同様だ。0アウトから俊足のランナーが出塁。この場面でほとんどの人は「盗塁」が頭によぎるだろう。
当たり前だが野球は、対戦相手よりも1点でも多く点数をあげることを目的としている。よって、送りバントも盗塁も得点をあげるための作戦のはず。
しかしその効果について、考える機会がなかなかない。これではなんとなく体に良さそうなサプリメントを飲んで、効果を測定していないのと同じだ。「データを試合に生かそう」第三回の今回の記事では「盗塁」に絞って、その意義を考える。
得点期待値
今回の武器は「得点期待値」だ。セイバーメトリクスの世界では「得点期待値」という概念がよく登場する。
漢字が5つも続くとめまいがしてしまいそうだが、これは平たくいうと「アウトと塁の状況からどのくらいの点数がそのイニングが終わるまでに入るか」を表したものだ。
例えば、2アウトランナー2塁の得点期待値が0.3点であれば、平均的にいってそのイニングが終わるまでに0.3点が入るということだ。
この尺度を使えば、特定のアウトカウントと塁の状況の組み合わせでの平均的な得点を比較できる。つまり、ある作戦の実行前の得点期待値と実行後の得点期待値を比較することで、その作戦が「平均的にいって」有効なのかを解釈できる。
[page_break:盗塁のリスク]盗塁のリスク
MLBのデータから読み取れるものは?(写真は2019年のU-18日本代表)
ここでは、メジャーリーグのデータを活用してみよう。ちょっと古いが2010-2015年のデータを参考にする(注1)。
<得点期待値>
①0アウトランナー1塁:約0.86
②0アウトランナー2塁:約1.1
③1アウトランナーなし:約0.25
ある選手が0アウトから出塁した時の得点期待値(①)は約0.86だ。ここでこの選手が盗塁するとする。盗塁の結果を単純化すると「盗塁成功したケース(②)」と「盗塁失敗したケース(③)」の2つとなる。そして大まかに言って盗塁が成功すると得点期待値は+0.24増え、盗塁が失敗すると-0.605減る。
この選手の盗塁成功率が50%だとすると、平均的にはこの選手が盗塁するたびに得点期待値が減ることになる(チームにマイナスの貢献をしている)。つまり、これでは盗塁の作戦としての価値がないことと同義だ。
では、盗塁でメリットを享受するためにはどのくらいの成功率が必要なのだろうか。上記の得点期待値を用いて計算すると、0アウトランナー1塁での損益分岐盗塁成功率は約74%程度になる。
得点期待値は「平均的な」状況を説明するものだ。例えばエースvs下位打線の打者の「2アウトランナー2塁」とエースvs4番打者の「2アウトランナー2塁」は実際に期待される得点は異なるが、得点期待値では等しく評価される。しかし、物差しとして得点期待値を覚えておくことは非常に大切だ。
作戦評価の必要性
0アウトランナー1塁での盗塁は、概ね3回成功1回失敗の割合で得点期待値がトントンになる。言い換えると、成功率がそれ以下であれば、盗塁は作戦として機能しない。相手よりも1点でも多くあげることが目的なのに、自らその機会を手放すことになるからだ。
今回はメジャーリーグのデータを紹介した。この得点期待値は日本のプロ野球や負けたら終わりの高校野球にそのまま当てはめることはできないが、概ね傾向は同じだろう。自チームの盗塁成功率を調べてみると、「良いと思ってやっていたのに実は逆効果だった」というケースがあるかもしれない。現役プレーヤ(球児)は70%を盗塁成功率の1つの目安として捉え、自分のプレースタイルを検証すると良い。
得点期待値に興味をもったら、同様の方法で0アウトランナー1塁での送りバントの意義を調べてみてはいかがだろうか。調べることで、野球の意外な側面が浮かび上がってくる。
(注1)http://www.tangotiger.net/re24.html を参照
【記事=やきうのおじさん(@yakuunoojisan)】
Twitterで野球の分析を行う。本記事のデータはすべてオープンデータを使用
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