Column

岡山理科大学附属高等学校(岡山)【前編】

2015.12.28

和コーチが仕掛ける「ヨガと鍛錬の融合」

 1962年に創部、1999年夏には岡山県勢初となる夏の甲子園準優勝を果たすなど、これまで春・夏5回ずつの甲子園出場を果たしている岡山理科大学附属高等学校。
今季ブレイクを果たした高田 知季亜細亜大~福岡ソフトバンクホークス)、そしてルーキーで初勝利を挙げた薮田 和樹、2年目のホープ・九里 亜蓮亜細亜大卒、広島東洋カープ所属両右腕など数多くのプロ野球選手も輩出している同校では、昨年6月から就任した井上 和明トレーニングコーチが、一風変わったトレーニングを行っている。

 では、野球部では「和コーチ」と呼ばれる井上コーチの多彩なメニューとその意図とは?岡山市北部の小高い丘の上にある岡山理大附グラウンドにあったのは「ヨガと鍛錬の融合」であった。

トレーニングを一手に担う「和コーチ」

タイムは即座にノートに記入。後日ラインで経過が送られる(岡山理科大学附属高等学校)

 岡山理大附の練習グラウンドは校内にある野球部寮「笹ヶ瀬第1研修館・第2研修館」からアップダウンの激しい道を約2km北に進んだところにある。15時半が近づくと、これまでの静寂を破るように選手たちの駆け足が周囲の山々に響いきてきた。顔をしかめながら最後は急坂を駆け下りる選手たち。少し息を整えると、群がるようにバインダーノートに読み上げられたタイムを記入しに赴いた。

「野手陣は週2回、投手陣は週3回。その場でタイムを書いてもらって、月が終わるとラインで最高記録を更新しているかなど、進捗をあとで送信するんです。年間シートで見ると『サボっているな』とか判りますし、自己管理の指標にできますね」
タイムを読み上げる男性が、白い歯を見せ微笑む。

 この人こそが、昨年6月から岡山理大附のトレーニングを一手に担う外部トレーニングコーチ・井上 和明さん。愛称「和コーチ」である。

「和くんはもともとここ(岡山理大附)のOBですし、トレーニングにも精通している。僕は身体作りに力を入れていることが一番だと思っているし、それがないと技術は身に付かないと思っています。ただ、そこをなかなか優先できない事情もあるので、以前から来てもらいたいと思っていたし、指導の厚みにもなると思ってお願いしています。
彼は今の子に合わせてよく指導していますし、アップやトレーニングへのモチベーションが高まることで動きにも表れていますね」

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[page_break:毎日メニューが変わる「ヨガ系アップ」]

毎日メニューが変わる「ヨガ系アップ」

練習の合間にはコミュニケーションも忘れない和コーチ(岡山理科大学附属高等学校)

 このように監督就任23年目を迎える早川 宜広監督からも高評価を得ている和コーチ。もちろん2回目の冬も「自分が考える基準まで来ていなければさらにお願いすることもありますけれど、ここまでは順調に来ている」と高い信頼をバックにトレーニングに勤しんでいる。

 その理由はアップ冒頭ですぐに判った。最初は「吸って、吐いて」の呼吸法から。次は足首、足裏をストレッチ。手を合わせて上に上げ、じっとその体勢を保つことは「太陽礼拝」の動きの1つ。そう、これらはいわゆる「ヨガ」の形である。

 
柔軟性を養うヨガの動きは、和コーチによればこれは野球にも様々な面で通じるものだという。
「呼吸を整えることで左右のバランスなどを確認できるし、自分の内側を観察することにもつながる。ポーズすることで、目を閉じてじっとすることは我慢するメンタルにもつながる。最初は大変でしたが、身体のねじりとかをバッティングとかのねじりにつなげて話をしたら、彼らの理解は早かったです」

 準決勝では関西、決勝戦では創志学園を破り岡山県大会優勝。鳥取県で開催された中国大会では広島広陵(広島)、関西宇部商(山口)を破り準優勝に輝き、翌年センバツ出場につなげた2014年秋の戦いが象徴的だった。

 中国大会では毎朝20分、ヨガを入れて眠っている身体を起こしてからから朝食。選手たちの食は進み、アップから戦いへのスイッチも入るようになった。

「身体起こしからやってくれるのが大きい。呼吸法から教えてくれることで落ち着きも生まれてきた」と振り返るのは早川監督。今はそれぞれの進路へ向けて自主練習に取り組む3年生たちも同様の感覚を抱いている。

 センバツ大会1回戦木更津総合(千葉)戦では「7番・左翼手」でスタメン出場、1安打を放った青木 隼平は「緊張が取れて集中でき、バッティングや守備でも粘りが出てきた」。また、背番号「13」でベンチ入りの捕手・倉橋 望は「アップが動きやすくなって効率が上がった」、同じく内野手で背番号「15」を背負った杉山 大成も「一発目の動きが変わって全力で取り組めるようになった」とそれぞれがヨガの効果を話す。

 そのアップも、一日として同じメニューはない。「自分たちが引退してから、またメニューが増えている」と倉橋も話すように、取材日のアップは「野球は多方向に動くスポーツなので、いろいろな筋肉がいろいろな角度で回ることが不可欠になるので、肩関節、ひじなど全部位を使える形」を基本に、動的ストレッチを間に入れ、「新しい形にもすぐに対応できる力」を求めつつ、多彩なメニューを組み合わせていた。

 1年生35人・2年生33人の額にはみるみるうちに汗が浮かぶ。しかも、40代に入っている和コーチは要所で見事な柔軟性を実演。となれば選手たちも弱音を吐いているわけにはいかない。こうしてこの日のアップも活気を保ったまま、最後は盗塁を想定したショートダッシュで終了となった。

[page_break:岡山理大附のトレーニングの様子を動画で紹介!]

岡山理大附のトレーニングの様子を動画で紹介!

 後編では投手メニューを中心とした「地味にキツイ」トレーニングを紹介。そして現・主将の宗光 康作選手にも話を聴いています。お楽しみに!

(取材・写真:寺下 友徳


注目記事
・【12月特集】冬のトレーニングで生まれ変わる

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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