試合レポート

青豊vs小倉西

2010.07.03

2010年07月03日 北九州市民球場  

青豊vs小倉西

2010年夏の大会 第92回福岡大会 1回戦

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3ランHRを放った木本涼(青豊)

ベテラン監督の新たなる船出

 監督としての甲子園出場回数は春3回、夏6回。1994年には柳ヶ浦監督として夏4強。そして昨年は明豊監督として春夏連続の8強。九州を代表する実績を誇る大悟法久志監督の“移籍”初采配に注目が集まった福岡県の2010年開幕戦。場内の熱気を避けるかのように、ベテラン監督はダグアウトの片隅に佇んでいた。

 大悟法監督は昨年の新潟国体を最後に、明豊の監督を勇退。その後の動向が注目される中、今春から福岡県の公立校・青豊の監督に就任した。
全国の高校野球ファンも、あまり耳にしたことのない校名ではないだろうか。それもそのはず。青豊は平成15年に3校合併により誕生した、創立8年目のまだまだ若い学校である。福岡県下2番目の総合学科高校で、昨年春のセンバツを制した清峰と、まったく同音の「せいほう」と読む。
野球部はいわば成長途上のチームで、前身校のひとつ、築上中部が1981年にセンバツ出場を果たしているものの、現校名になってからはなかなか浮上のきっかけが掴めていない。

ちなみに、同校の書道部が全国クラスの実力を誇っており、昨年、今年とセンバツ大会の九州地区代表校のプラカード揮毫を担当。したがって、ここ2年は連続で優勝校を担当していることになる。青豊と高校野球の関連性でいうと、そこがもっとも特筆すべき点といっても過言ではないだろう。
 輝かしい実績充分の大悟法監督にとっては、新進公立校の監督を引き受けること自体が大きな決断だったに違いない。しかし、明豊時代から「地元に支持されてこその高校野球」を標榜していたのも大悟法監督だ。それだけに「地域の振興に力を貸してほしい」という地元の熱意には、大きく心を揺さぶられたという。

「野球を続けたいと思ってくれる人間を、ひとりでも多く育てたいんです」。
というのは、青豊・浦田豪志部長。昨年の甲子園で、明豊の試合前シートノックを打っていた浦田部長は、大悟法監督を慕って行動を共にし、今春の4月6日からチームの指導に加わっている。
ふたりは「ゼロからのチーム作り」を覚悟して青豊に加入したが、実際に動き出してみると、想像以上の環境の違いに大きな戸惑いを覚えたという。心身面だけの違いだけなら仕方がないと思っていた。しかし、試合で使用できるバットは4本のみ、ボールも2ダースのみと、物的環境がまるで整っていない。手を加えなければならない点が、あまりにも多すぎたのである。

 同時に、選手たちには厳しいテーマを課した。
「野球に対する心構え、勝負の厳しさ」。
大悟法監督の言う“一球入魂”の精神を、時には夜10時にまで及ぶミーティングで叩き込んでいった。「明豊でやってきたことと、何ら変わらないことをしている」(大悟法監督)というから、近年では地区3回戦が最高成績のナインも喰らいついていくだけで必死だったはずだ。
また、グラウンドレベルでは浦田部長が徹底的に“勝者の野球”を植えつけていった。「こちらが要求するレベルを下げるというのは、選手たちに対して失礼にあたる。つまり、明豊時代に今宮らに求めていた同じものを選手たちには要求しています」と加減はしなかった。
 青豊ナイン、とくに3年生の部員は、短期間での劇的な変化によく耐えた。だからこそ、3カ月の成果というものを、結果として残してやりたいのだと大悟法監督。

大悟法監督、浦田部長の二人三脚によって変化のきっかけを与えられた青豊ナインは、いきなり開幕日に登場。同じ公立の小倉西を相手に、激戦区・福岡のオープニングを飾るに相応しい、白熱のシーソーゲームを演じたのだった。そして、見事に新監督の意気に応えたのである。

 試合展開をまとめると、次のようになる。
青豊守備陣の乱れをついた小倉西が2回に1点を先制すると、3回には4番・中村嘉秀の右越え二塁打などで2点を追加。 しかし、直後の攻撃で息を吹き返した青豊は、3番・木本涼介の大会第1号となる左越え3ランでたちまち同点とすると、さらに小倉西の守備が乱れる間に1点を追加し逆転に成功する。
6回には小倉西が青豊の2番手・木本章太を攻め同点とするも、その裏には青豊が二死から1番・猪ノ元雅也の中前打で1点を挙げ突き放す。8回は小倉西打線が二死から日高稜、塩谷祐太の連打で逆転に成功。再びマウンドに上がった木本兄弟の兄、木本涼を攻め立て勝負を決めたかに見えた。
ところが、青豊の粘りがその上を行く。失点した直後の攻撃で、またしても二死から猪ノ元が適時打を放つ。これで同点。試合はそのまま延長戦に突入したが、最終的には1年生4番打者・岡田大輔の右越え打で、青豊が延長11回サヨナラ勝ちを収めるのだった。

3校目となる夏の勝利に“常勝”明豊時代とはまた違った充実感を味わう大悟法監督。「よく粘ってくれた。我々のきつい要求に耐え続けてくれた成果だ」と、短期間で大きく成長した教え子たちの姿に手放しで喜ぶ姿が印象的だった。
常にビハインドの状態からチームを作り上げてきた過去の経験上、組織にとって『勝利』こそが何よりも強い特効性を持っていることは百も知っている。「勝つ喜びを知ったことが一番大きい」と諸手を上げて喜ぶベテラン監督もまた、原点に立ち返ることができたのではないか。
大悟法監督は「“何もない”から良かったんだ」という。たしかにチームマネジメントの観点から言えば、色づけしやすい背景はあった。今後、青豊の色彩はいかに移り変わっていくのか。5年後、10年後の姿に思いを馳せてみた。

(文=加来 慶祐


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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