スマートフォンの人気野球ゲーム『八月のシンデレラナイン』はどのようにして生まれたのか? プロデューサー・山口修平氏
スマートフォンゲームで次々とヒット作を生み出しているアカツキ社のスマートフォン向けゲーム『八月のシンデレラナイン』をご存知だろうか。
女子高生が野球部を立ち上げ、その活動を通して、彼女達の様々な青春の悩みや葛藤を描くストーリーが人気を呼び、2017年6月に配信開始されてから現在まで100万以上のダウンロードを記録している。
さらに2019年4月7日からは、テレビアニメの放送も決定し、多くの注目を集めているのだ。
そんな『八月のシンデレラナイン』のプロデューサーである山口修平氏に、その開発に至るまでの背景や、魅力を聴いた。
ゲームプロデューサーは元・スポーツ少年?高校時代の怪我をきっかけにゲーム作りの道へ
『八月のシンデレラナイン』タイトル画面
膨大な数があるスマートフォンゲームで、アニメ化されるまでの人気作品を作り上げた山口氏。これまでにも様々なヒットタイトルに携わっている。
現在のプロデューサーという仕事の魅力を尋ねると、「企画をあれこれ考えている時が一番楽しいんです。これが世に出たらきっと楽しんでもらえるんじゃないかということを前提に取り組むので、その時間って当然ワクワクしていないとおかしいですよね。」と語る。
「どう人を驚かせてやろうか、笑わせてやろうかと企んで、いいアイディアが浮かんだ時がもっともテンションが上がります」と話す山口氏は、ここまでの人生で意外な道を歩んでいた。
「実は中学時代はバスケ、高校時代はアメリカンフットボール部に所属して部活動に打ち込む、スポーツ少年だったんです。」
ただ、高校時代に足に大きなケガを負い、半年以上の松葉杖生活。そこから部活動に復帰し、なんとかレギュラーも見えてきたものの、怪我のトラウマもあり部活動を断念したのだそうだ。
ただ、このケガが山口氏にとって大きなターニングポイントになっていた。
「松葉杖でまったく動けない状態で、放課後やることが無かったので、当時パソコンを買ってもらったんですよね。
その時にパソコンをインターネットに繋いでホームページ作ったりとか、ブログ的なものを書いたりとか、それがゲームを作ることとちょっと似ていて楽しかったんです」
元々テレビゲームも好きだった当時の山口氏は、ケガをきっかけにクリエイティブな仕事に就きたいという想いが芽生えた。
この想いを胸に、大学ではゲームを作ることを専攻し、国民的RPGを手がける大手のゲームメーカーに就職。そこでプロデューサーとしてのいろはを学びながら、携帯電話のアプリやサービス、家庭用ゲームの開発に従事した。
その後は、現在のアカツキで、様々なゲームのプロデューサーを歴任して数々のヒットを飛ばすこととなるのだが、その中の1つが『八月のシンデレラナイン』だ。
八月のシンデレラナインってどんなゲーム?
【八月のシンデレラナイン 公式ホームページ】
詳しい情報はこちらから↑
『八月のシンデレラナイン』の大事にしている”リアリティ”とは?
『八月のシンデレラナイン』の選手育成画面(デレスト)
「ゲームで野球モノというと、プロ野球をリアルに完全再現!
とか、いかにもゲームらしい”魔球”
とかが飛び交う“ハチャメチャ野球”といったものが多いんです。
ただ今回はより野球自体のリアルさや仕組みの面白さだけでなく、部活動を通しての青春ドラマを中心に描きたいという思いがありました。
その際、男子がやることが多い硬式野球の世界をそのまま描くのではなく、あえて野球が好きな女の子たちを主人公に据えて、男子よりもっと困難な環境下で硬式野球や、部活動に向き合う姿を描いた方が、他にはあまりない題材だし、面白くなるのではと思い、今回の『八月のシンデレラナイン』の形がつくられていきました。」
と、制作の背景について語る。
しかしなぜ“青春”だったのか。それには高校時代のケガが無関係ではなかったという。
「部活を辞めてしまって少し後ろめたい想いというのがずっとありました。僕が辞めたあともチームメイトは大会で優勝するなど結果を残していて、やりきれなかったということにどこか気持ちの引っ掛かりがあったんです。心のどこかで、「ちょっと逃げてしまったなあ」という後悔があったんですよね。もしあの時そのままやっていたら・・・ということをよく夢に見ていたりしました。
ただ、そういった想いを抱えている人は、スポーツはもちろん、青春時代に限らず、大人になってからでも、世の中けっこう多いんじゃないかと思っています。そんな人たちにゲームを通して、青春をもう一度追体験でき、そのストーリーから、目の前の困難に向き合う勇気をもらえたりしたら、それは、世の中にとってもいいものなんじゃないか…という思いがありまして。それで、“青春”をテーマにしました。」
野球が好きという気持ちを貫いてほしいと願った山口 修平氏
その際に、大事にしたのがストーリー(実際のゲーム画面はこちら)とキャラクターの“リアリティー”である。
「それがないと感情移入が難しくなってしまうと思うんです。野球の描写にこだわるというのもそうですし、選手自体が生きたキャラクターとして生き生き描かれているかということも重要だと思っています。」
キャラクターだけでも30人がいる『八月のシンデレラナイン』だが、彼女たちはシニアの全国優勝経験者から、まったくの野球未経験者まで、様々な経歴の持ち主がおり、それぞれが、等身大の悩みや葛藤を抱え、それを乗り越えようとしている。そんな彼女達の中のどれかと自分の姿を重ね合わせることできるのではないか、と山口氏は考えている。
また、4月からアニメ化されることについて山口氏はさらに手軽に物語に入り込めるようになると語る。
「『八月のシンデレラナイン』は物語がすごく良いと言っていただいているのですが、ゲームという特性上、時間を使ってクリアしないと体験できない部分も多いんです。それが、テレビアニメという形になると物語を体験するハードルがすごく低くなる。誰でも簡単に『八月のシンデレラナイン』の世界を体験することができるようになるので、ぜひたくさんの人に見て欲しいですね。」
ゲームの『八月のシンデレラナイン』も、これから始まるセンバツや夏の甲子園に連動する形でどんどん盛り上げていくとのこと。山口氏の創意工夫の日々は続いていくこととなるが、最後にメッセージをもらった。
「全力で何かをやりきった後に残るものは、勝利という形じゃなくても絶対にあると思うので、野球が好きだという気持ちがあればそれを貫いてもらいたいと思っています。僕はできなかったので(笑)
他の全てのことを捨て置いて好きなものに集中して取り組めるというのは、青春時代しかないと思うので、全力で楽しんでもらいたいです。」
過去に挫折を経験し後悔を感じながら野球を続ける球児も、そうでない人も、その挫折をピンチと捉えるか、それともチャンスを捉えるか。捉え方1つでどのようにも活かせる。
山口氏は自分の実体験からヒットゲームを生み出すことができた。1つ1つの体験が後になってプラスになるかもしれない。だから1日1日を全力で楽しむことが大事なのだ。
八月のシンデレラナインってどんなゲーム?
【八月のシンデレラナイン 公式ホームページ】
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文=編集部