小川工vs芦北
芥川雄至(小川工)
ノーヒットノーラン
最終回、ツーアウトを取ってからのことである。
芦北の3番・沼田典憲の放ったライナー性の打球が、センター方向へ飛んでいった瞬間、固唾の呑んで見つめていた小川工スタンドも「遂に打たれたか」と思ったかも知れない。
しかし、センターの中川隼樹が、前方向にダイビングキャッチし、ゲームセット。小川工の芥川雄至がノーヒットノーランを達成した瞬間だった。
185センチ73キロ-。
電光掲示板の球速表示も120キロ台を示すなど決して速い球でもない。さらにこの試合、3四死球を出すなど抜群の制球力を持っているわけでもない。いったい、何がノーヒットノーランという偉業を成し遂げたのか。
「初めて見た時から縦カーブがいいなと思いました」
就任一年目の小川工・井上洋征監督が惚れ込む90キロ台の縦カーブが、面白いように決まり、さらにストレートとの球速差が約30キロあることによって“緩急”という大きな武器を生み出した。
だが、それはあくまで一因に過ぎない。
一番の要因は、普段の“意識の変化”ではないだろうか。
「ここ2、3週間ですかね、本人の意識が変わってきました。練習が終わっても投げ込みをしたり、試験前の休みには、自ら投げ込みをしてから机に向かったりと本当に変わりましたね」(井上監督)
それによって、疲れが見え出した試合後半も粘り強く投げきることができ、自ら「ファインプレーでみんなに助けられた」というように、堅守を誇った小川工の守備陣にも芥川が好影響を与えたことも確かだ。
発展途上という長身右腕が、夏の初戦で掴んだきっかけ。
それはいつか未完の大器がベールを脱ぐという、序章だったのかも知れない。
(文=編集部:PNアストロ)